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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟むガドを見送ったあと、俺は岩場を進んで約束の洞窟前の開けた場所にやって来た。
ちょっとした運動場くらいの広さのそこは、枯れ草色の植物がわさわさと茂っていて、乾燥した色合いの岩場と違い濃い色の岩が密集した薄暗い洞窟が続く。
俺はあちこちに細々と散らばる枯れた枝を、薪に最適なサイズを選んで一箇所に集めた。
その時に、皿になりそうな大きな葉もいくつか摘んでいく。
人間国でも見かけたぴりっと胡椒のような味がする香辛料の粒も見つけたから、粒の詰まった実ごと二つもいだ。
人が座るのに手ごろそうな岩も少し手こずりながら二つ運んで薪の近くに並べる。
準備を進めながらも岩場を覗き込んでみたりしたが、アーライマはやはり一株も見つからなかった。
思い立ったらすぐに都合良く見つかるなんて、そううまくは行かないのはわかっていたが……やはり肩を落とさずにはいられない。
気を取り直して、他にもなにか足しになるものがないか探しに行くことにした。
探索を後回しにしていた洞窟を、警戒しながら覗いてみる。
近くに危険はない。
もう少し入ってみよう。警戒は解かず、壁伝いに奥に進んでいく。
入り口からの光がだいぶ薄くなったが、洞窟内は青く光っていて光源に困ることがなかったのが幸いだ。
まぁ俺だってそれがなければ深く潜ることはなかった。
そしてある程度潜ると、ぽっかりと開けた空間があり、水たまりのようにポツポツといくつかの小さな水源があった。
溜まる水源はレンコンの穴のようだ。
鍾乳洞的な岩のつららから、細い蛇口を開けたくらいの湧き水が流れ落ち、ちょうどよく溜まっているらしい。
ゆっくりと歩いて、水たまりに近づく。
近くの水たまりで鋭い角が一本額に生えた、きつね色のヤマアラシが数匹水を飲んでいる。飲めるのか。いや、それよりなんでヤマアラシ。
岩場に擬態するための体色が、青黒い洞窟内の岩場で完全に浮いていた。
せっかくだから俺は水たまりでパシャパシャと汗ばんだ手を洗い、次いで顔を洗う。
日に長時間晒され火照った体が冷えていくのが心地良い。
流れ落ちてくる湧き水を綺麗になった手に掬い、飲み干す。
乾いた喉に染み渡る、冷たく美味しい水だ。特に悪い味もしない。
なるほど……ここは谷の魔物たちの休憩場所なのかもしれないな。
強行した荒れ地探索が予想外に難航している俺としては、運のいいことだ。
あのまま休めなければ、アーライマが見つからないからではなく、疲労と空腹で城へとんぼ返りしなければならないところだった。
「うん?」
ひと安心して一息つくと、なにかにしゃがんだ腿をツンツンとつつかれて、そちらを向く。
こそばい。ここには俺一人のはずだが。
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