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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟むそして最後に目に入ったのが、本命の彼だった。
扉に対して横向きに設置された立派な書斎机で、書類のタワーを処理している様子の夜色の美丈夫。
いつもと同じアジアンテイストな黒い衣装を身に纏い、シャラシャラと細やかな細工のアクセサリーたちを揺らして、芸術品のような横顔を晒している。
見た目は、いつもと同じだ。
だが、そこには俺の知らないアゼルがいた。
「ガド、あれは、アゼルなのか……?」
「魔王だなァ……めちゃくちゃ機嫌ワリィけど、ちゃんと魔王だぜ」
「けど、俺はあんなに冷酷な雰囲気のアゼルを見たことがない」
頭上で聞こえるガドの声に、俺は焦りを滲ませた言葉を返す。
アゼルは表情のない能面のような顔で、奈落のような双眸を書類に滑らせていた。
その深い黒の瞳も、荒々しい獣のような目つきだ。どう見ても、昨日の出来事を腹に据えかねているのが見て取れた。
初対面の戦闘中だってあんな目をしたことはない。よく変わる表情と同じく、豊かな色をした瞳だったのに。
もしかしたら、俺はとんだ勘違い野郎だったんじゃないか?
あぁも落ち込んで部屋を出て行ったアゼルを、勝手に傷つけてしまったと思い込んでしまった。
違うんだ、そうじゃなかったんだ。
俺のワガママと不躾な物言いに、呆れてしまうほど怒っていたんだ。
「ん? 魔王は人間臭いとこあるけど、割とあんな感じだぜ。特に仕事中は。それにしても今日は機嫌がワリィけどな」
「そうなのか……? だが、あんなにいつも……」
『ハッ……ならお優しい宰相様の従魔に鞍替えすればいいだろうが。恐ろしいなら怯えていればいい。俺の顔が気に食わないなら、人間国でもどこでも好きなところへ出ていけばいい』
「な? 魔王は魔族の王だぜィ。ノーマルがクールに決まってるだろォ」
「っ」
アゼルの声は、臓腑が底冷えするような淡々とした、冷徹な声だった。
そんな声で俺に語りかけたことはない。
ガドは少しも動じていないが、俺に向けられたものではないのに、人間には少し重いくらいの威圧感が感じられた。
『気に食わないわけではなくて、貴方様の目が従魔には耐えられないのです! 機嫌の悪さが滲む不安定な魔力制御では、魔眼の力が抑え込めずに恐怖状態異常を振りまいているのですよ!』
「あー……だから魔王、目に光ねえのかァ。直で対面してるライゼン、涙目だ。かわいそうだ。ありゃキツい」
『だからなんだ? 機嫌くらい好きな時に悪くさせろよ。怯えて逃げる有象無象、今更だろ。慣れてるぜ、とっくにな』
「が、ガド……ガド、俺はこのまま部屋に乗り込んで謝っただけでは、許される気がしない……!」
「どうするんだ? 殴り合ってくるか?」
「それは死ぬ……!」
俺への怒りで魔王が降臨しているアゼルに今の俺が特攻したところで、秒ももたないだろう。
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