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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

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 ──翌日。
 ガチャ、とバルコニーへ続く窓が開く。


「シャル、結界が消えたから遊びに来アァッ!?」

「ん……おはよう、ガド……扉から入ってくれ……」

「おう、おう……」


 ニコニコと久しぶりにやって来たガドは、相変わらず窓侵入者だ。

 ぐったりとベッドの上で上掛けを被らず大の字になっている俺を見て、驚愕し、ショックを受けた顔をしている。

 俺がヨボヨボと扉を指差すと、状況が掴めないながらも一度扉から出てすぐにまた扉から入ってきた。うん、やればできる子だ。

 そんな俺はというと、今朝もいつも通りに起きて、なんとかストレッチを終えた。

 だが昨晩より回復しているとはいえ少し気だるく、朝食も断り、ベッドに根を生やしているのである。

 パチンコ玉サイズの穴を首筋に二つも開けられ蛇口からあふれる水のごとく持って行かれたので、基礎ステータス高めの俺でなければお陀仏していたかもしれない。

 魔力を封じられているため身体強化での回復もできず、自然治癒力に身を任せるしかない状態だ。


「シャル、シャル、死ぬのか? 瀕死なのか?」


 トコトコと歩み寄ってきたガドは、ベッドの隣にしゃがみこんで、寝そべる俺と目線を合わせて首を傾げる。

 仕草と顔にあまり出ていないが、どうやら心配しているらしい。ガドにしては眉をしゅんと垂らしている。


「勝手に殺すな……勇者さんは……頑丈……きゅぅぅ……」

「し、死んだァ!」

「死んでないぃぃ……」


 心配をかけるわけにいかなくて起き上がろうとするが、あえなく崩れ落ちて情けない声が出た。

 それを見てあわあわと俺を殺そうとするガドに必死に死んでないと訴える。

 ガドは俺をハムスターだと思っているからな……まったくもって不名誉だが。




 それから死んだ死んでないとワーワーギャーギャーやりながら立ち眩まない程度に復活したのは、しばらくあとのことだった。


「……魔王には勝てねェ……けど、俺は少し怒っているぜ」


 復活して水を飲みながらどうしてこの状態なのかを掻い摘んで説明すると、ガドは蛇のように目を細めて尻尾をビチビチとせわしなく蠢かせる。

 いや、俺は少しも怒っていないんだが……気にしていないので気持ちはありがたいが、飲み下してほしいところだ。

 そもそも以前からもっと飲んでいいと言っていたのは俺だし、アゼルを迂闊に悲しませたのも俺だ。

 そんな俺の行動が、アゼルを傷つけてしまった。これはそういう話なのだ。

 そう言うと、ガドは更にビッタンビッタンッ! と尻尾を蠢かせ、絨毯をもふもふさせて憤った。


「そういうのを差し引きしたって、お前を瀕死にするのはよくねェことだろォ」


 いやだから……良いか悪いかで言うと良くないが、概ね俺のせいなのだが。

 魔族の敵対しない限り弱者はなんとなく守るという特性の庇護欲が、溢れ出ているのかもしれない。

 ガドの怒りの採点基準がわからなくて、とりあえず「そうか」と頷いておいた。




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