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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟む自分が今どういう状況か、しばらくわからなくなる。脱力していた十数秒が長い。
少し落ち着いて、荒れた呼吸を整えた。
ぐったりと体を横たえたまま、片手で受け止め切れるものじゃない濃厚な白濁が結局夜着も絨毯も汚したことを把握して、自己嫌悪。
未だに体は火照っているが、このくらいならじっとしていれば収まりそうだ。
のろのろと洗面所へ向かって手を洗い、ハンドタオルを湿らせて持ち、絨毯や服を清めた。貧血でふらつき二度倒れたが、もがきながら立ち上がる。
敏感な皮膚は布地が擦れると得も知れない快感を滲ませたが、節操なく喘ぐことはない。
ベッドに上がって深く潜ると、まだ腰回りのあたりがズクズクと切なく疼いた。
きつく目を閉じて、知らんふり。
「……アゼル……」
落ち着くと、すぐに頭の中へ浮かんだものは、かつてないほど落ち込んで部屋を出たアゼルの後ろ姿だった。
──良くしてやっていたうまい餌が牢から外出を許可した途端、言えない用事を作るなんて……逃げ出そうとしているのではないか?
そう疑うのは無理ない話だ。
だから勘違いして怒ったアゼルがあんなことを言いだし、咄嗟に本来の立場を知らしめようとするのも、深く理解できる。
手酷く貪られたが傷を治してくれたし、謝罪もしてくれた。
あの様子では、本当にまともに動けないほど容赦なく血を取るつもりはなかったのだろう。
やってしまったと、思った。
俺が逃げ出すのではないか、という疑惑を持たれるかもしれないということが過ぎらなかったわけじゃないが、あれほど取り乱すとは思わなかったのだ。
逃げられることをああも嫌がるほど、大事なものだと認識される理由がないから。
だって俺は、アイツを殺そうとしたのに。
それが現実は勘違いが加速して脅しをかけるくらいには、惜しまれていた。
──……あんなに悲しそうに部屋を出ていくようなことをさせてしまうなら、傲慢なしてやりたいをかざしたワガママなんて、言わなければ良かったんだ。
アゼルのしたことより自分がしたことのほうが、俺の胸に後悔を沸き上がらせる。
この三週間いつも優しく、騒がしく、少し変わっているけれどかわいくて素直じゃないアゼルを、傷つける羽目にならなかったはずだ。
俺はあんなことをされて、怯えたり、怒ったり、嫌になったり、そんな気持ちは欠片も抱いていない。
俺はアイツにとって餌だが、所詮ただの餌だったのだと自分を憐れむような扱いはされていなかったから。
人よりも、ずっと大切に扱ってくれていた。
それはほんの少しのすれ違いで崩れるような感謝ではないのだ。
出会った時の言葉も、ありのままにぶつかってくる全ても、心から感謝している。
だからただ、ひたすらに申し訳ない。
酷いことをさせたことも、酷いことを言ったことも、謝りたい。
謝って、仲直りがしたい。
「明日……約束だから……俺は……」
うわ言のように呟き、明日を決意して、俺の意識は深い睡眠の中へ蕩けていった。
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