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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

18(sideアゼル)

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『しゃ、シャル! どうだ! 桃だ! 昨日急いで人間の国まで行ってきたんだ! そして見ろ! 動物だ! どうだ! 嬉しいか?』


 魔力に乗せて魔物語を発し、シャルと会話をする。テレパシーってやつだぜ。

 昨日部屋を出たあと、すぐに桃の名産地まで飛んでいって大急ぎで農家の一番オススメの桃を貰ってきたのだ。

 俺は第一形態がパッと見人間だから買い物もできる。魔力も隠せるしな。ふふん。

 代金と更に目利きのお礼にこないだ毟ったライゼンの尾羽を渡すと、農家は焦って桃をたくさんおまけしてくれた。

 桃農家! 素晴らしい。
 これでシャルは俺に感謝し親愛度アップ間違いなしのはずだ。

 ……はず、なんだが……は、反応が悪いぞ! どういうことだ!?

 少々焦りつつじっと見つめると、ややあってシャルは少しかがんで俺に近づき、ニッコリと笑いかけた。


「それが今日の俺の朝食か? お前は賢いな」


 んん? 確かに朝食係のカプバットには俺が持っていくと言ったが、賢いと言われても桃を運ぶぐらい魔王にはわけない。
 というか大半の誰でもがわけない。

 突然幼児のような扱いを受けて不満に満ちた顔をしたが、直後。

 俺はすっぱ抜けていた事柄を思い出してピョンッ! と器用にその場で跳ねてしまった。

 ──あぁぁあッ! そうか! 魔物でも魔族でもないシャルには、魔物語なんて聞こえないのか!

 なんてことだ。
 魔王ショックがすぎた。

 自分のぷにぷにな肉球を見つめ、にこにこラブリースマイリングなシャルを見つめ、がっくりと落ち込む。

 それはそうだ。
 今は更に魔封じのチョーカーをつけているのだ。聞こえるわけがない。

 たまに召喚勇者のスキルで魔族言語持ちがいたらしいので、失念していた。シャルは持ってねぇのか……。

 せっかく桃と動物、というシャルの好きなものをコンプした存在になったのに、俺は干からびてしまいそうなほどしおしおと項垂れる。

 俺はシャルの好きなものになれたのに……す、好きなものに……ッ!

 名残惜しくて吐血しそうだが、お散歩形態を解除していつもの形態にならないと会話もままならない。シャルは俺が誰かもわかっていないようだ。

 嫌々じんわりと魔力を纏って、形態を解除しようとすると──突然、温かいものに身体を優しく包まれる。


「!? ウォンッ」
(ハ、ハグだとォ!?)

「ん、なに……そう落ち込むな。どうしてしょげているのかわからないが、元気を出して一緒に桃を食べよう」

「…………」


 しゅん、と解除のために纏っていた魔力を、霧散させた。……お、俺だとわからなくてもいいじゃねぇか。

 なぁに、シャルのためにモフられるのも魔王の職務だぜ。

 い、言っておくが別にこのままでいたらモフってもらえんじゃね? とか思ったわけじゃねえからな! 勘違いするなよ!

 内心で誰にともわからない言い訳をしながら、俺は素早く身を固め、全神経を集中させる。

 身バレしていないがために密着できたシャルのぬくもりを、思う存分堪能することにした俺だった。




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