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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
16(sideアゼル)
しおりを挟む第二形態に移行した俺を見て、戦闘開始の合図を読み取ったシャルは剣を抜き、素晴らしい速さで斬りかかってきた。
「ハッ」
それを闇魔法召喚で取り出した人間の言うシャムシールのような形の愛剣、禍津卿ジャバルを振り抜いて軽く押し返す。
ちなみにあだ名はバルバルだ。
バルバルは言葉を発しないが意思を持つ魔剣なので、なんかこう……呼ぶと嬉しそうにやや光る。ややピカ。
キィンッ! と金属音が鳴り、剣同士がぶつかった。
押し返されたシャルはそれでもすぐに体勢を立て直し、身体強化魔法をフルに使って俺に襲いかかる。
それをいなして避けた先には、魔法陣の罠が張ってあった。
罠に気づいて紙一重で避けた方向にはまたすぐに立ち直ったシャルが待ち構えていて、その鋒は正確に急所を狙っている。
「うぐっ」
「む……」
ザシュッ、と鈍い音がして、俺は心臓を一突きにされた。
ダメージを受けた俺が少し呻いてからすぐに動き出して距離を取ると、シャルは困ったように眉を垂らして首を傾げる。
か、かわいげふんげふん。
いかん。頑張れ俺、頑張れ!
「反則級の回復力だな……」
「最大ヒットポイントの五パーセント回復バフが、パッシブでかかってるからな。一秒以内にオーバーキルできる火力がねぇと、俺は死なねーよ」
感嘆するシャルに説明して、ふふんと不敵に笑って見せる。
俺としてはドヤな気持ちだが、顔がアレなので暗黒系の笑みにしか見えない。
ちなみにこれは秘密だが、形態変化をすると体力がマックスになる。
五段階しかないから四回しかできない。しかし最終形態をオーバーキルしないと段階を上げるので全回復し、ラウンド追加だ。
俺のパッシブスキルを聞いたシャルはチートだなんだと疲労困憊の表情だったが、まだまだ余裕で動き、魔法も罠も剣技もくるくると一人で連携させる。
おかげで何度も串刺しになった。
気配を薄めるのがうますぎる。
殺気を察知できる俺じゃなければ、苦戦したかもしれない。
魔力も体力も余裕の俺は傷つけないよう通常攻撃とたまに剣も振るうだけだが、シャルはどうにか避けるか受け流して、めげずに挑んでくる。
相当訓練を積んだのだろう。
人間にしては、体力も魔力もキチンと最大値が上げてある。
──よし、いい感じだぜ……っ!
このシャルの強さなら、第四形態までは戦える。そして第四形態になったらちょっとだけ本気を出して、伝家の宝刀、首トンをするんだ。
そおっとスライムに触れるように優しく首トンをすれば断頭しないでうまく気絶するはず。
俺はそう思ってドキドキしながらシャルの隙を待っていたのだが、ふと、シャルが俺を見つめて少し笑った。
「こんなに強いのに、魔王……前髪に寝癖がついてるぞ。……かわいいな」
「ヒグッ……!!」
「? ……うん!? グハッ!」
──か、かわ、かわッッ!?
もっ、あ、油断したあぁぁあぁあッ!!
俺は真っ赤になって前髪を押さえながら、恥ずかしすぎてついうっかり一気に最終形態に移行してしまい、シャルを血の海に沈めてしまった。
もちろんその直後、号泣しながら強制召喚で宰相──フェニックス魔族であるライゼフォン・アマラードを呼び出したのは、言うまでもない。
お気に入りの溶岩うどんを啜っているところをうどんごと召喚したので、ぷんぷんと怒っていた。
けれど魔王敬愛者のライゼンは小言を言いながらも、最高難易度の魔法である完全治癒をかけてくれたわけだ。
そしてシャルが起きる前に前髪を必死に直した俺は、シャルを寝かせた一番上等な客室にドキドキと戻った。
が──そこでライゼンに檻に入れられのびているシャルを見つけ、頭を抱えたのである。
第一印象最悪だろうがぁッッ!!
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