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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

14(sideアゼル)

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 いつの時代も、勇者という生き物は魔王を倒しにやって来るものだ。

 寿命の長い魔族たちは勇者が来たとなると「あーもうそんな時期かぁ」と通例の寒波のような扱いで、魔王城では玉座への道を空けておく。

 魔王を殺すことが目的だから、城を汚されるよりさっさと目的地に辿り着いて魔王に負けてほしいのだ。

 そして魔王は適当にあしらい簀巻きにして勇者パーティー全員を人間国にお急ぎ便で返品するのが、まぁ恒例。もちろん着払い。

 そもそも人間は魔王のせいで魔物が人間国に湧いていると思っているが、そうじゃない。

 魔物や魔族はたいてい同じ種類でかたまるだけで、種族で統一されていたりはしない。魔王はその時一番力の強い魔族に魔王紋が現れて決まる。

 厳密な全体の統治者というわけではなく、ただ実力主義な魔族の中で一番強いというだけなのだ。

 そりゃあ全員に通達して魔界から出るなと言えば、俺に勝てないやつらは従うだろう。

 代わりに敷地に対する魔族の数が増えて縄張りがギチギチになるから、弱い種類がいくつか絶滅するかな。

 そうなってまで、フェードアウトする理由がない。

 なんで向こうの都合で俺たちがそうしねぇといけねぇんだ?
 弱小種族だからそれなりに庇護欲はあるが、そこまでやるのはおかしな話だ。

 だいたい、魔族が守る弱い者というのは、自分に従う者のこと。

 実力主義でタイマン習性がある魔族は、気に食わなければ戦って上下関係を決める。

 負ければ認めなくても従わないといけないし、勝てば代わりに負けた弱い者を守るのだ。だから負けても従わない人間なんて守ってやるわけねぇんだよ。

 というわけで、終わりの見えない宅配戦線である。

 ま、こりずに召喚してくる勇者は異世界人で血がうまいから、吸血趣味の歴代魔王はぶん殴って返り血をちょっとつまんでいたみたいだけどな。

 閑話休題。

 今代魔王の俺──アゼリディアス・ナイルゴウンも、そのいたちごっこは例外ではない。

 玉座に一人座る俺には、勇者パーティーが城に入ったという連絡が通達されている。


「ふふふ……待っていたぞ、この時を……」


 不敵に笑って足を組みながら、正面の絢爛な扉を睨みつける。
 ……そしてサッと手鏡を召喚。


「あ~~ッ! やっぱちょっと前髪乱れてねェか!? こ、これ勇者に見せられねぇよどうしよおおおおおお!」


 びえええええ、と嘆く俺は手鏡を食い入るように見つめながら、涙目で叫んだ。

 あぅあ直らんこんな変な寝癖みたいなの勇者に見せられねぇ……ッ!

 手鏡を収納してぐねぐねと悶えてみても、なにも変わらない。俺が今ダサいことはなにも変わらない。

 あぁぁぁぁちょっともうキャンセルで! 勇者キャンセルでいいか!? 明日にしてくれねぇかな~~ッ! もぉ~~ッ!

 でもこんな待ちに待った勇者とのご対面! 本当は一秒たりとも遅らせたくねぇよ!

 ──そう。

 実は俺こと、魔王アゼリディアスは、昔、今俺を殺そうとしている勇者──シャルと呼ばれているらしい彼に助けられたことがあって、彼と仲良くなるために、勇者が来る日をずっと待っていたのだ。




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