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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
09
しおりを挟む「死ぬかと思った」
「悪ィ悪ィ。人間は斑ネズミと同じくらい脆弱だって忘れてたぜ……俺は竜人化してて見た目より力が強いから、うっかり殺すところだったなァ」
グロッキー状態で座り込む俺をケタケタと笑って、ガドはよしよしとなでる。恨めしく見つめるがなんのそのだ。おかげで振り回されながらすごく抵抗した。
ちなみに斑ネズミについて聞くと、魔界の砂漠領に生息する茶色と白の斑なネズミだそうだ。
それを人は、ハムスターと呼ぶ。
ほどなく気持ち悪い感覚がなくなってくると、ふと、自分の頭をなでる硬い手の手つきが、殊更優しげなことに気がついた。
爪はもちろん俺の頭部を抉らないよう気を使って、引っ込めている。小動物を愛でるようなふわりとした優しい手つきだ。
顔を上げると、ガドの魔族らしい野性的で芸術じみた顔が思いの外近くにあった。
「ん?」
小首を傾げるガド。
ワイルドな美貌にそぐわないコミカルな仕草は、先ほどと変わらない呑気な様子だ。
うん。違うようなら違うでいいんだが、そうだと悪いから、一応だ。
内心で誰にともつかない言い訳をして、俺は同じように手を伸ばし、すぐそばのサラサラな銀色をポンポンとなでた。
「ン、……どした?」
「ちょっと千切れそうだったが、まぁ俺はすごく訓練したから、あれくらいじゃ死なないんだ。別に気にしていないので、お前のことを嫌いにもなってない」
「っ」
「だから、そう子どものような罪悪感だらけの目をしなくていいぞ?」
ポカン、と口を開いて手を止め固まってしまったガドを、うりゃうりゃとなでる。サラサラヘアーだ。それこそ女性が羨む絹糸のような髪だが、生憎と持ち主は大きな竜人である。
その大きな竜人がどうしてか、申し訳なさでおどおどとしているように見えた。
力の強い彼は、うっかりこういうことが多かったのかもしれない。
「……クシシ、シャルなでるのうめェー。もっと」
「んお、っ」
好き勝手になでていたからか、動き出したガドは打って変わって機嫌よく座ったままの俺に抱きついてきた。
受け身の取れていない俺はあえなくコロンと後ろに転がり、尻餅をついてしまう。
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