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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

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「俺、ガードヴァイン。ガドでいいぞ」

「俺はシャルでいい。ガド、なにか用か?」

「いんや。魔王が勇者を飼い始めたって城中の噂だから、覗きに来た」


 言葉のとおりジロジロと遠慮なくこちらを観察してくるガド。
 つまり野次馬か。

 自分より大きな男に纏わりつかれてもあまり嬉しくない。

 ガドは好きなだけ観察してふむと頷くと、俺の首筋に手を伸ばし、するりとなでた。
 長い爪が当たって無意識に体を硬直させるが、傷がつかないように気をつけてくれているようだ。


「痕ねーなァ。吸血処女か?」

「い、や……指からだな……いつも遠慮せず俺の血を吸ってくれと言っているんだが、すごく怒るんだ」

「ぶっ、マジか。お前それ言ったのか、クククッ」


 俺の話を聞いたガドは手を離して、愉快そうに笑い始める。どこがツボに入ったんだ。全く理解できない。

 俺はなにがなんだかよくわからなくて、疑問符を飛ばすと、ひとしきり笑ったガドはニヤリと口元を歪ませ、おもしろおかしく教えてくれた。


「魔王はな、クドラキオンっていう平たく言うと黒くてデカくてアホみたいに強い狼っぽい魔物の魔族だ。吸血鬼とも呼ぶ。レアだぞ~。魔物さえほとんど見かけねぇのに、上位の魔族なんて魔王くらいだ」

「そうなのか。人間の国じゃ魔族自体ほとんど見ないからな……魔界でもレアなら、アゼルは相当珍しいんだな。ガチャのシークレットSSRキャラが期間限定なのに確率アップなしのような出現率か」

「がちゃ? よくわかんねぇよう。んでな、好物が人の生き血。わかるか?」

「あぁ、わかる。敵である俺を殺さない理由が〝美味しいディナーのために〟なのだからそうだろう。人前に出ないくせに、好物が生き血か……」

「クククッ、あーそれは建前と本音……まぁなにが言いてぇのかって、クドラキオンに血を吸ってくれって頼むのは〝私を抱いて〟って言うようなもんなワケだな」

「…………………」


 ピシャンッ! と雷に打たれたような衝撃が走った。絶句して石化する俺をガドはまたクククと笑うが、今はなにも言えない。

 ──アゼルが俺を変態勇者と呼ぶ意味が、わかったぞ……!

 そりゃあアゼルからすると俺は、同じ男に抱いて抱いてと頼んでくるようなハレンチなやつだと思うに決まっているだろう。

 それも初対面で首筋をさらけ出してあんなことを言う男なんて、変質者だ。
 吸い殺してくれは、最早腹上死希望です! と同義でしかない。

 そっと手を動かし、黙って頭を抱える。
 もうなにも言うまい。金輪際、あんなことは言わないようにしよう。


「ちなみにヒュドルドのよくある誘い文句ってのは〝毒殺して〟だなァ。あなたの毒を味わってみたいの、なんて言われたら、文句なしに誘ってる。言ってもいいぜ?」

「魔族の誘惑はなんでそう過激なんだ!」


 さぁ言え今言えと迫ってきたガドを押しのけ、ついつい叫んだ俺は至極まともなことを言っていると思う。

 俺は「今夜はうち誰もいないの」が大胆な夜のお誘いの国出身なんだぞ? 過激な誘い文句がノーマルな種族とは、価値観が違うのだ。




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