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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟む「兎に角! もうしばらくは部屋から出んじゃねぇぞ! 来る時はお前が人間詐欺レベルの戦闘力があったからそれ程手を出して来るやつはいなかったかもしんねぇけどな……魔族は超実力主義の強者のみに絶対服従なんだ! 弱者は早々淘汰されるから数は人間ほどいねぇが、戦闘力じゃトップだぞ」
アゼルは話を終わらせるべくそう言い切り、頑固親父のようにふすふすと鼻を鳴らして怒る。
スス、とお茶請けのきのみのお菓子が乗った皿を、俺のほうに寄せてきた。これでも食べていろと?
納得がいかない俺は代案を考えるが、じっとりと半目で俺を睥睨するアゼルにビシッと指差され、畳み掛けられる。
「魔王城の周りに住むやつらなんかは、全員全裸でドラゴンの巣に行っても無傷でスキップしながら帰って来れると思っとけ」
「全裸でドラゴンの巣を散歩する魔族もある意味怖いが……魔族ってなんなんだ……とんだ戦闘民族じゃないか」
どうにもなにもしないでゴロゴロする、というのが向いていない現代日本人だった俺は、役に立たないと知って肩を落とし、しょんぼりと落ち込んだ。
魔界ルールはよくわからない。
人間の王国に帰ったって今や厄介者だが、ここはどうにも甘すぎる。
こうしてただ飼われている生活に慣れると、飽きて捨てられた時にはもう酷使されるあの暮らしには戻れないかもしれない。
まぁ魔王を倒してないのにおめおめと引き返したら断罪必至なので、それはできないけどな。
いっそ飽きたら殺してくれればいいが……意志薄弱な俺とはいえなるべく生きていたいので、それはどうにもならない時の最終手段ということで。
それでも役立たずとなると、寂しいものだ。
「っ、ぅ……ま、まあもう少ししたら城の反対派も諦めるから、そしたら城の中ならうろついても良いことにしてやる。俺は優しい魔王だからな」
「あぁ……」
「うぐぐ……シャル! お前なにか好きなものはねぇのか? 食べ物でもなんでも、欲しいものは?」
「うん?」
しょぼくれて甘酸っぱいドライフルーツのような果実のお菓子をつまんでいると、なにやら必死の形相でアゼルが尋ねた。
ペシペシとテーブルを叩いて急かしてくるが、突然どうしたのか。
首を傾げるも更に高速でテーブルをペシペシとやられたので、素直に考える。
「ん……動物とか、爬虫類とか好きだな。食べ物は……桃とか、果物が割と好きだ」
「動物か、桃だな……よし、首を洗って待ってやがれ!」
「あはは。そんなことを知りたがるなんて、アゼルは変なやつだな」
「あうっ」
急に好物を尋ねたアゼルが微笑ましくて笑うと、アゼルはまた発作を起こし、両手で顔を隠して震え始めてしまった。
相変わらず大変だな。
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