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序 勇者ってレア食材らしいぞ。
02
しおりを挟む光の当たり方でオレンジにも赤にも見える、腰下まで伸びた美しい長髪。背中から飛び出す大きな夕焼け色の翼が特徴的な、鋭利な麗人。
敬語で話しているのはこの麗人だ。
やたらと美人だが、男だろう。
──に。なにやら叱られている様子なのは、濃密な夜色の髪を持つ男。
威圧的で彫りの深いハッキリとした美形だ。シンプルでアジアンテイストな黒い衣服に身を包み、シャラシャラと揺れるアクセサリーを着けている。
つまり、意識を失う直前まで殺し合っていた相手である魔王だった。
魔王城を駆け抜けている時はなぜか配下の誰とも会わなかったので、赤いほうが誰かはわからない。
けれど魔王がいるのだから、ここは魔王城なのだろうか。もう少し状況を把握する材料が欲しいが、遠くてなにを話しているのか正確に聞き取れない。
これ以上の情報収集が見込めないと見た俺は、観念してのそのそと起き上がった。
「!」
起き上がった俺にいち早く気がついたのは、件の魔王である。
魔王は麗人との話を中断して、優雅に、しかし早歩きでツカツカと俺が入った檻のそばへやってきた。
「……おはよう。……えぇと、俺は負けたな」
「…………」
「なんで殺さないんだ?」
「うぐっ」
眉間にシワを寄せて立ち尽くす魔王の鋭く美しい目をじっと見つめ、問いかける。
なぜか呻き声を上げて顔をそらされた。なんでだ。さりげなく近寄り心配そうな顔をする赤髪の腹心をバッと手で制して、魔王はしばし黙る。
なんだ? 体調が悪いのか?
俺の攻撃もいくらか入っていたから、怪我でもしているのかもしれないな。
そう考えると、少し罪悪感が湧いた。
殺さなければ帰るところがないので仕掛けたが、俺自身は魔王を憎くもなんとも思っていないのだ。
やや胸を痛めていると、プルプルと震えていた魔王がようやく回復して俺に向き直った。
向き直られたのでじっと見つめる。
「ンッ」と息詰まりながら、とんでもない凶悪な形相で睨まれる。
ずいぶん嫌われているみたいだ。
「本当なら侵入者も暗殺者も強制送還か抹殺だけどよ……お、お前……勇者だろ。だから……その、異世界人は、血がうまいんだ。魔族は血を吸うやつがいる。俺はそれだから……お前を、飼う。飼うから殺さねぇ。だから、ここにいろ。……お、俺のそばにいろ!」
「なるほど……」
しどろもどろと殺さない理由を述べた魔王は、やりきった! 言ってやったぜ! とでも言いたげなほど、満足そうな表情をした。
後ろで見守っていた腹心もブラボー! と拍手を送っている。魔族の文化はよくわからない。
だが魔王が俺を殺さない理由を聞いて、俺はなるほどと納得した。
俺は〝美味しいディナー〟なのだ。
異世界召喚というものはとんでもなく魔力を使うらしく、そう何度もできるわけじゃない。イコール、勇者……異世界人は、レア食材か。
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