融解コンプレックス

木樫

文字の大きさ
上 下
26 / 30
融解コンプレックス(2)

11

しおりを挟む


「仲直りセックスしよか……俺の名前、なおりだけに……」

「おもんないねんッ。もっかい喧嘩したいんかドアホッ」

「ユキ、愛しとるよ」

「ぉひっ」

「ユキめっちゃ好きや、大好き……もぉ我慢したない……ユキが好きやもん……好きやから、いっぱいやらしいことしたい……やらしいユキ大好き……」

「す、好き好き言うたらヤれると思うなよ!」


 雪が必死に拒否すると、直は「あかんか」としょげたものの、さわさわと雪の腰をなでている。引く気はないらしい。


「俺、オカンのエロ本で勉強してきたで?」

「勉強ってなんの?」

「ん……? んと、男の気持ちぃとこ……? ケツ使ったら、なんかかわいいゲイが『おちん✕んしゅごい』って、言うとったな」

「おん。それ低音ハスキーボイスのお前が真顔で言うセリフとちゃうわ。やめぇ」

「あとはなんか『けちゅま✕こ』とか『らめぇいっちゃう』とか……そんなん多いねん。たぶんめっちゃ気持ちぃんやと思う」

「気持ちぃかは知らんけどやめぇって言うとるねんから口に出すな! その資料音読こっちが恥ずかしいねん!」

「? 恥ずかしない」

「お前はな!?」


 知識を披露してオーケーを貰うことしか考えていない直に、雪は呆れ半分照れ半分で睨みをきかせた。

 直の母もまさか自分の持っている卑猥な趣味本のセリフを低音ハスキーボイスの息子が真顔で読み上げているとは、夢にも思わないだろう。

 というか冷静に考えると、直の母が悲惨すぎる。
 隠していただろう趣味本が息子にバレバレなんて、雪なら宛のない旅に出る案件だ。


「俺かてわかっとるで……ほんまはこんなん、言わんねんやろ? やり方の勉強につこただけやからな」

「そこちゃう。セリフや」

「ただの漫画の文字列やん……」

「ただのちゃう。エロ本や」

「そか……? 絵としては大事なとこ白くて、あんまエロさ感じんかったけど……」

「そもそもお前おばちゃんのコレクション勝手に読み漁るんやめ。たぶん絶対息子に読まれたないやつやで」

「ユキの寝込みのが、抜ける」

「聞けやぁ!」


 流石に一発殴ってやろうとすると、途端に直は口にチャックをつけた。

 雪の怒りにも敏感な忠犬め。
 ……裏を返せばそれだけよく見ているということで、ズレていても一直線な直に報いるべきではあるだろう。

 雪はうぅぅ、と唸り、十分に苦悩してから、どうにか腹を括る。


「セックスは、せん」

「…………」

「でもっ、……一緒に、抜く」

「え?」


 意を決して口にすると、お口にチャックをして拗ねていた直が勢いよく顔を上げた。
 そんなにマジマジと見ないでくれ。こちとら今年一発目の全力譲歩だ。


「一緒に抜くん……?」

「っや、やってしゃあないやん……っ」


 ポカンとする直に見つめられながら問われた雪は、カァァァッと耳まで熱くなった。

 頬に水滴が浮かび上がる。熱い。
 蒸発しそうだが、自分の体温上昇くらいじゃそこまでドロドロに溶けたりしない。


「中とか触られんの無理やし、俺の手ぇほんま氷並みにひゃこいから、ナオの触ったらナオのも手ぇも縮こまるやろ……? 扱き合いもセックスもあかんって言うたら、一緒に抜くくらいしかやれへんねん……!」


 あれだけ言われちゃ、雪とて気持ちの上では直に抱かれてやりたかった。

 貞操を大事にする性格でもないのだ。
 セックスなんてしたことがなくても、本音を言うと凄くしたい。人と交わるということがどんなものか、凄く気になる。

 しかし怖いものは怖かった。
 服の上からならまだ触られるのも触るのも我慢できるので、ここはこれで一つ。

 だって、今なら雰囲気やテンションも込みで、直に勃つ気がする。


「自分でシてんのなんか、人に見せれへんけど……ナオやったら、まぁ……ええわ」


 そんな気持ちで提案しジワジワと溶ける赤らんだ雪を前に、直は雪の足の間をジーンズの上から強くなで上げた。


「うっ……!」

「そんなんめっちゃ嬉しい……」

「ナ、ナオ、あんま触らんといてっ」

「ほなはよシよ……? 我慢できん……俺、足絡めたままがええな、ユキと」

「わかったから、っひ」


 接触避けする雪に許されたことが余程嬉しいらしく、直は雪の足に自分の足を絡ませて雪を煽る。

 カリカリスリスリと執拗に触れられ、雪は慌てて手袋を脱ぎ捨てた。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

たまにはゆっくり、歩きませんか?

隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。 よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。 世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

処理中です...