融解コンプレックス

木樫

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融解コンプレックス(2)

08

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「体、もっと寄せてええ?」

「……ええよ」

「膝に乗るわ」

「来て……」

「重ない?」

「背ぇ高い割に、ユキは軽い」

「今年は筋トレしますぅ」


 胡座をかいた直の上に乗り上げ、体は密着させずに尻だけを預けた。

 次から次へと、雪には直に試したいことがたくさんあった。

 もちろん素肌に触れられるのは不安と恐怖があり、直も冷たいだろうからなしだ。

 それ以外のことで距離感を確かめられるものを、積極的にいくつも試して、雪は直に知ってほしい。


「髪に、キスする」

「……じっと、しとるよ」


 頬ずりしていた直の髪にチュ、と唇を当ててがてら、鼻先をうずめてスンスンと匂いを嗅いだ。

 いい匂いがする。シャンプーと直の体臭の匂いだ。匂いが気に入る相手は、確か相性がいいのだったか。


「ナオの匂い、好きやわ」


 まぶたを閉じてしばし感じていると、直が腕の中で身動ぎ「ユキ、もー離して」と懇願の声を上げた。

 服の上からでも溶けそうなくらい熱い直だが、そろそろ本気で寒くなったのだろう。

 抱いていた頭を解放すると、直はクゥンと困惑を滲ませて眉を下げる。
 解放されてホッとしているかと思ったが、困っているようだ。


「どしたん? ナオ」

「ユキ……なんでこんなんするん……? こんなんしたら、手ぇ出したなるやろ……?」

「は? あ、あぁ。おう、うん。いや、俺もビビってやんと自分からナオに触って、大丈夫な距離感掴もうと思ったんや」

「そら男前やけど、ムラムラする……もうちょっと勃っとんで」


 セックスは待ってくれと言った雪のために我慢しているのだ、とでも言いたげな直の言葉に、雪はなにも言えずにチョビと溶けた。

 触られるのが嫌なのかと思ったのに、どうやら真逆だったらしい。


「俺は勃っとらん」

「勃ててよ……」

「無茶言うな。って思たけど、まぁ恋人チャレンジで、ちょ、ちょっと頑張る」


 物欲しそうな直のオネダリにツッコミをいれたい雪だが、それではいつも通りなのでとりあえず直の裸体を想像する。

 結構良い体だ。
 寒そうだから服を着ろ。

 そんな感想しか出なかった。
 恋心とは別にそこは好きかどうかより勃つかどうかなので、参考には向かない。

 雪が胸の前で大きくバッテンを作ると、直はシュンとしょげて「ほなもう俺の上から降りてぇよ」と恨みがましそうな様子で雪を見つめた。

 降りたらただの幼なじみじゃないか。
 雪道でした意見交換が無駄になる。

 ヘタレな雪が自分から直に触ることで〝無理に頑張っているんじゃなくて、やりたくて直に歩み寄っているんだ〟と伝えている。

 ここで引いたら意味がない。

 そう言うと直は雪の腰を両手で掴み、緩く反応を見せるモノを布越しにグリ、とわかりやすく押しつけた。


「ッ……」

「言うとくけど、俺……いっつもユキで抜いてんねんで。煩悩しかあらへん。ユキの感じる顔見たいし、声聞きたいし、ドロドロに……犯したいわ」


 言いながら軽く腰を持ち上げられ、トン、と股座に落とされる。

 擬似的に律動された。
 品のない仕草だが、無欲な恋心と別物の劣情をわかりやすく表現された。

 直はこうして雪を突きたい。
 表面よりは温かいが死体のような生ぬるい肉の中に、入りたい。


「ナ、ナオ」

「我慢するよ……ユキがもうええって怒ってどっか行った時。怒った態度やけど、ほんまはめっちゃショック受けてたんわかって……言い残した声で、俺のミスに気づいたんや」

「ミス?」

「うん……俺やったら、俺やったらって、勝手に俺が〝申し分ない恋人〟を決めとった……」


 ──尽くされているから、一等好かれているから、聞き分けがいいから。

 ──こんなに愛されているのだから、拒否する理由はないだろう?

 そう思い込んでいたのだと言って、直は胸の内を少しずつ語り始めた。




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