23 / 30
融解コンプレックス(2)
08
しおりを挟む「体、もっと寄せてええ?」
「……ええよ」
「膝に乗るわ」
「来て……」
「重ない?」
「背ぇ高い割に、ユキは軽い」
「今年は筋トレしますぅ」
胡座をかいた直の上に乗り上げ、体は密着させずに尻だけを預けた。
次から次へと、雪には直に試したいことがたくさんあった。
もちろん素肌に触れられるのは不安と恐怖があり、直も冷たいだろうからなしだ。
それ以外のことで距離感を確かめられるものを、積極的にいくつも試して、雪は直に知ってほしい。
「髪に、キスする」
「……じっと、しとるよ」
頬ずりしていた直の髪にチュ、と唇を当ててがてら、鼻先をうずめてスンスンと匂いを嗅いだ。
いい匂いがする。シャンプーと直の体臭の匂いだ。匂いが気に入る相手は、確か相性がいいのだったか。
「ナオの匂い、好きやわ」
まぶたを閉じてしばし感じていると、直が腕の中で身動ぎ「ユキ、もー離して」と懇願の声を上げた。
服の上からでも溶けそうなくらい熱い直だが、そろそろ本気で寒くなったのだろう。
抱いていた頭を解放すると、直はクゥンと困惑を滲ませて眉を下げる。
解放されてホッとしているかと思ったが、困っているようだ。
「どしたん? ナオ」
「ユキ……なんでこんなんするん……? こんなんしたら、手ぇ出したなるやろ……?」
「は? あ、あぁ。おう、うん。いや、俺もビビってやんと自分からナオに触って、大丈夫な距離感掴もうと思ったんや」
「そら男前やけど、ムラムラする……もうちょっと勃っとんで」
セックスは待ってくれと言った雪のために我慢しているのだ、とでも言いたげな直の言葉に、雪はなにも言えずにチョビと溶けた。
触られるのが嫌なのかと思ったのに、どうやら真逆だったらしい。
「俺は勃っとらん」
「勃ててよ……」
「無茶言うな。って思たけど、まぁ恋人チャレンジで、ちょ、ちょっと頑張る」
物欲しそうな直のオネダリにツッコミをいれたい雪だが、それではいつも通りなのでとりあえず直の裸体を想像する。
結構良い体だ。
寒そうだから服を着ろ。
そんな感想しか出なかった。
恋心とは別にそこは好きかどうかより勃つかどうかなので、参考には向かない。
雪が胸の前で大きくバッテンを作ると、直はシュンとしょげて「ほなもう俺の上から降りてぇよ」と恨みがましそうな様子で雪を見つめた。
降りたらただの幼なじみじゃないか。
雪道でした意見交換が無駄になる。
ヘタレな雪が自分から直に触ることで〝無理に頑張っているんじゃなくて、やりたくて直に歩み寄っているんだ〟と伝えている。
ここで引いたら意味がない。
そう言うと直は雪の腰を両手で掴み、緩く反応を見せるモノを布越しにグリ、とわかりやすく押しつけた。
「ッ……」
「言うとくけど、俺……いっつもユキで抜いてんねんで。煩悩しかあらへん。ユキの感じる顔見たいし、声聞きたいし、ドロドロに……犯したいわ」
言いながら軽く腰を持ち上げられ、トン、と股座に落とされる。
擬似的に律動された。
品のない仕草だが、無欲な恋心と別物の劣情をわかりやすく表現された。
直はこうして雪を突きたい。
表面よりは温かいが死体のような生ぬるい肉の中に、入りたい。
「ナ、ナオ」
「我慢するよ……ユキがもうええって怒ってどっか行った時。怒った態度やけど、ほんまはめっちゃショック受けてたんわかって……言い残した声で、俺のミスに気づいたんや」
「ミス?」
「うん……俺やったら、俺やったらって、勝手に俺が〝申し分ない恋人〟を決めとった……」
──尽くされているから、一等好かれているから、聞き分けがいいから。
──こんなに愛されているのだから、拒否する理由はないだろう?
そう思い込んでいたのだと言って、直は胸の内を少しずつ語り始めた。
12
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
多分前世から続いているふたりの追いかけっこ
雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け
《あらすじ》
高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。
桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。
蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる