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融解コンプレックス(1)
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しおりを挟むまぶたの裏側で作った闇を見つめながら、深く吸った息を吐く。
こんなやつだと知られた時点で嫌われたっておかしくない。
けれど、好かれ続ける自信がないのだ。
恋人として求められているなら、ひとまずそれを頑張ってつなぎ止めていたい。結論を出すのはそのあとにしたい。
要するに、仮の恋人。
これは、直をお試しさせてくれというアホらしい提案であった。
「……かまへんか? クソ野郎でも。……それに俺の肌ってめっちゃ冷たいから、その……恋人らしいこと、なんもできへんで」
悪事を懺悔する罪人のような気分だ。
目を開けられないばかりか、俯いてしまう。なんせ、それらしいことをなにもできない上に愛情を返せるかも定かではないまま、恋人になりたいと言うのだ。
自分が直なら、百年の恋も覚めてしまうだろう。第三者だったとしても酷い男だと冷たい目を向ける。
目を閉じて俯き、震えながら反応を待つ。ほんの数秒の沈黙がおりる。
「ユキ、アホちゃう」
「うわッ」
不意にソファーに座っていたはずの直の声が聞こえたかと思うと、雪の体はまたしてもキツく抱きしめられてしまった。
こいつはなぜ不意を打つんだ。
驚いて素っ頓狂な声をあげて目を丸めた雪は、直の幾分あたたかくなった体を思い切り押し返す。
羞恥心はさておいてもこんなにくっつくと、せっかくあたたまった直の体がまた冷えてしまう。
グイグイグイ~っと押し返すが、硬い体はビクともしなかった。
ヒーターの熱で熱くなった直の腕の中で、ジワ、と雪の体がわずかに溶ける。
「ま、待て待てっ、一旦離れぇ! お前寒いし俺溶けてるって……!」
「寒ない。もうちょっとしたら離すから、溶けんといて」
「自分唇真っ青やんけ! 俺の一存で溶けんのまたれへんのッ!」
「今のは、ユキが悪い……」
──ああもう、こういう時の直はちっとも言うことを聞かない……!
慌てて暴れる雪を難なく押さえつける直は、拗ねたように青ざめつつある唇を尖らせて雪を視線で責めた。冤罪だ。こちらはなにも悪くない。
「悪い」
「どこがぁ!」
「今までのんと、いっしょにせんといて……酷いわ……俺は好いてもらえるかどうかで、恋する相手、選んでんのとちゃうで……? 俺が好きやから、ユキがええんや。ユキやから大好きで、大好きなユキやからそんな扱いでも、かまへんよ」
「!」
「俺んこと、離さんとって……?」
「っん……っ」
「ひとりじめしてや……」
至極嬉しげにそんな言葉を吐きながら首筋に舌を這わせられ、雪は初めての感覚にゾクリと肌を粟立てた。
更にスリスリと頬擦りされて「ユキはきょーから、俺のユキやね」と機嫌よくつぶやかれると、雪の頭は混乱を極めてしまう。
「そ、そんなんわからん……」
どうしてあんなに酷い心を明かしたのに、直はむしろ嬉しそうなのか。
雪を、嫌いになったりしないのか。
人に触られるのなんか慣れていない。
直の体温が惜しくて、突き放そうとする雪の腕の力が無意識に抜けていく。
「ナオ、お、俺、どしたらええ、の」
「うんって言って……?」
「う、うん」
「よし。これで俺はきょーから、ユキの俺やで」
雪は〝恋人の直〟を手に入れてしまった。
こんなにあっさりともらっていいのか? こんな自分にあげていいのか? もっとよく考えるべきだ。
ぐったりと直にもたれかかりながらぐるぐると思案する。
直を押しのければいいものを、とは思うが、どうしてもそれはできなかった。
とても、あたたかな腕の中だから。
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