6 / 30
融解コンプレックス(1)
06
しおりを挟む軽い力だが両足にそうされると、上背があるだけで屈強ではない青瓢箪はあっさりと倒れて間抜けな声を上げてしまった。
しまった! 筋トレをもっとマメにしておけばよかった!
少々的外れなことを考えてしまうあたり、雪も同じくらい酔っていたのだろう。
なかなかに引き締まった小尻だと自負する尻が、鈍痛を発している。
それでも足元でごねるのをやめない友人二人に、雪は困り果てて眉を下げた。
雪を見つめる据わった双眸が二つ。
「ユキち、なぁんか今日元気あらへんよなぁ」
「え? 全然やで? めっちゃ元気や。お祝いうれしいしな。ありがとうやで」
「しょげとる。隠しようないくらいしょげとる。めずい」
「ほらみっちゃんも言ーてるやん」
「なんでよー」
ベタァ、と床に張りつく酔っ払い二人に異変を指摘され、どうしていいかわからないで笑って誤魔化す。
図星を突かれたのは初めてだ。
バレるくらいには、今日はいろいろなことがかさなってベコベコになっていたのかもしれない。
「酔ってるから目ぇおかしなってんちゃう? ほなな。もォ帰るから、ちゃんとこたつ切ってから寝ェよ? 風邪引いてもしらんで」
冗談めかしてアハハ! と笑い、よろめきながら立ち上がる。
モヤりと雪の周りだけの空気が気まずくて自己嫌悪が増し、逃げるように玄関で靴を履く。
落ち込んでいることを人に知られるのは、恥ずかしい。
それも自分の誕生日を祝ってくれた友人へ、世間が幸せで浮かれているイブになんて、不謹慎だ。
ガチャ、とドアを開くと、外の冷たい空気がアルコールで火照った頬をなでた。雪にとってはその冷たさが心地いい。
「元気出せよー! ばいばいユキちー! 好きやでー」
「俺もやぁー! 大好きやから元気出せぇ、またなー!」
「っ」
バタンとドアが閉まる寸前に聞こえた二つの声に、心臓がドク、と大きく鼓動した。
身動きができず、目を見開いたままドアを背に立ち尽くす。
これまで、奇特な体質を好奇の目で見る人はたくさんいたし、幼い頃は冷えるからと廊下に席が移されたものだ。
夏は外へあまり出られず、冬は外へ追いやられる。壁をへだてた向こう側。
それでもかまわなかった。
雪は人が好きだったから。
そうなったのは、いつからだろう。
明るく笑ってあたたかく見えるように振る舞い始めたのは、いつからだろう。
人が好きだからこそ、誰もいなくなるのが怖くて誰でも好きになるようになったのは、いつからだろう。
好奇心で近づいては離れていく人たち。
まるで物珍しい展示品のように、へぇ、と見つめて触れずに去っていく。
あの二人とて、そんな始まりの友人だったのだ。
ただ──冬の雪は冷たいから触るなと笑うくせに、冗談を言い合える程度の距離を保ってそばにいてくれた、大勢の中のたった二人なだけで。
「……今言わんといて、死んでしまうわ」
冬になったら霜が付く雪の心は、友情だって立派な愛情であることに気がつき、コトンと解けてしばしうずくまった。
10
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる