融解コンプレックス

木樫

文字の大きさ
2 / 30
融解コンプレックス(1)

02

しおりを挟む


 大きな体をケースに寄せてモソモソと話す直は、人を冷凍庫に入れてはいけないという法律がないと言う。

 更にここはケーキ屋を営む直の実家の倉庫であり、この冷凍庫は買い替えたあとの古いもので、両親から貰ったのだとも言う。

 だから悪くない。
 叱らないで? と情けない視線で訴える姿は、まるで子どもを相手にしているみたいだ。やらかすことも子どもと同じだ。

 雪は頭を抱えたくなるが、体育座りをするのがやっとの庫内ではそうもいかない。

 そして悲しきかな、そんな直に慣れているのも確かだった。

 家が近所の幼なじみ。同い年。同性。

 雪がゴーイングマイウェイで気さくなコミュ力の高い男で、直が人見知りでお気に入り一辺倒な犬気質男であったために、大学二年のこの歳になっても付き合いは続いている。

 だからある程度わかっていた。
 そそぐが溶け始めた頃から、直はずっと言い続けていたから。


『絶対溶けへんとこ……俺が確保するから、消えんでな』


 そうとも。ガチでやるとわかっていた。いつかコイツはやると。

 そういう奴なのだ。
 本当にそういう奴なのだ。

 かくして確保された冷凍庫は現在進行形で雪をキンキンに冷やし、百八十の誇り高き長身を縮ませることなく維持させている。

 いるが、そういう問題じゃない。ビジュアルがよろしくないだろう。
 冷凍庫に詰め込まれて過ごすなんて普通に嫌だ。普通にだ。

 はぁ、と深いため息を吐く。

 直後、バシンッ! とガラス蓋を閉める直。なんで封印しやがった。
 ひと睨みすると、カラカラと控えめに開かれる。バカだ。バカ犬だ。


「自分、怒られんのがわかっとんやったらハナからすなよ」

「…………」

「都合悪なったら黙んのやめーて」

「…………」

「……ナオ、俺冬は溶けへんの! やからはよ出して! 世間は楽しいクリスマスやのになんで俺は閉じ込められなあかんねん。おもんない」

「……いやや」

「あ?」


 バシンッ! と閉じるガラス蓋。
 閉めるなと言うに。

 ピキ、と自分の額に青筋が浮かぶのがわかった。

 普段は雪に従順でかわいいと思わなくもない直だが、ワガママを言うとわずかも譲らない。しつこい。めんどくさい。

 そしてたいてい、そのワガママは雪からすると理解しがたい理論が多い。

 ポケットから取り出したスマホを見ると、時刻は十八時。約束の時間までたったの三十分しかない。

 ──これじゃあ、間に合わないじゃないか。

 冷たい霜のついた冷凍庫の壁に頭を預け、仏頂面でトットッと画面をタップし、メッセージを送る。
 外から視線を感じるが無視した。扉を閉めたのはお前だろう。


『ごめん、遅れるわ! いつになるかわからんから先しといて~』

『はー? 主役で遅刻とか許すまじやん』

『なんでよ買い出し昨日したったやん。笑 みっちゃんはほんま俺好きやなあ。身の危険感じるわ。笑』

『いっぺんどつきたい』

『みっちゃん図星や。笑 遅刻りょりょー。てかなんで遅れんの?』

『図星ちゃうわ!』

『飼い犬に冷凍庫ん中監禁されてるなう』

『拡散しよ。笑笑』

『それしたら俺とっくんと絶交やで』

『嘘やん。笑笑 ごめんて。笑笑』

『いやめっちゃ笑ってますやん! 笑』

『お前らさぁ、俺の扱い年々悪なってない? もーええわ。俺がお前らと絶交するし。ほんだらな』

『みっちゃんごめんやん』

『みっちゃん許して』

『無視しよる』

『既読付いとるから待っとんでこれ。ユキち、アレゆーたれよ』

『ユキがいっちゃん好きなんはみっちゃんやで♡』

『きっしょ』

『おかえりー』

『おかえりー』

『とりあ俺とっくんち着いたからとっくん絞め落とすわ』

『とっくん乙』

『なんでやねん』


「ふっ、コントか。あー俺もはよ合流したい」


 いつも共に行動する友人たちとのグループメッセージを閉じて、笑いながら呟く。

 視線が痛い。
 これがあてつけのセリフだからだ。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話

雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。 塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。 真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。 一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

処理中です...