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3.もう一番目じゃいられない
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しおりを挟む「憎たらしくて嫌なやつであれって朝五を観察していただけなのに、いつから自然に目が向くようになったのかな……」
「……憎たらしくって当たり前だろ」
「でも、マイナス評価からまた俺は朝五に恋をした」
頬を包んだ手で顔を上げさせられ、真っ直ぐな夜鳥の視線が朝五に注がれる。
「コロコロ変わる表情が好き。だけど泣き顔は見たくない。笑顔が好き。ずっと笑っていてほしいって、願ったらもう、恨めないでしょ? 愛され方が不器用な朝五を、他の人には任せたくない」
「っんなの、美化し過ぎ、だわ」
「本当のことだよ。だってね、俺のことを忘れてたのに、やっぱり朝五は朝五だった」
「いや俺、マジで性格悪いって……」
「そう? 優しいけど。朝五らしい」
嬉しげに言われてもピンとこない。
自分らしさとはなんだろう?
朝五が唇をモゴモゴと遊ばせると、頬を捕まえていた手が名残惜しそうに離れた。
「一般的に考えると……子どもの口約束を本気にして追いかけてきた挙句、勝手に失望して恨めしがって思い込み激しく追いかけまわしてた俺は、そんなつもりなくても立派なストーカーだね」
「なんっ……!?」
「しかも質が悪いタイプだ」
さらりと告げられたストーカー宣言。
朝五は目をポカンと丸めた。
初めてカフェテリアで出会った時の朝五の推理は、夜鳥にも自覚がある見解だったのだ。
やはり夜鳥と話をしていると無駄に籠っていた気が抜けてしまう。
ついさっき瞳を潤ませて告白したところなのだが、今は涙腺が落ち着いている。
「やっぱストーカー気質かよ~……」
「そんな気がしてたのに追い出さなかったの? やっぱり朝五らしいなぁ……」
「俺らしさってなんだ」
「実害がないなら、多くの人が眉を顰める変わり者でも関係なく仲良くできるところは、昔から変わらない」
「いや、そんなの普通だろ?」
「朝五の普通を、俺が一番辛い時に誰もしてくれなかった。朝五だけが俺に笑いかけた」
「っだ、だって俺、バカだし……」
「優しい、って言うんだよ。不審者でしかない声のかけ方しかできなかった俺とも普通に会話をしてくれたし、その次も、その次も、気持ち悪がったりバカにしたりしなかった」
夜鳥は朝五にとってはなんら特別ではない行動を列挙して、笑った。
朝五は返す言葉がなくなってしまう。
優しい人ならせいちゃんとの約束を忘れたりしなかっただろう。無神経な約束を、そもそもしないはずだ。
そう思うが、夜鳥は許さない。
朝五のこだわりを否定はしないが、自分に関しては認めようとしない。
「朝五。俺に負い目を感じるなら、それを理由に俺と別れようとは絶対に思わないで」
「う、ん」
「俺ね、凄く気持ちが重いんだ。朝五なんかやめちゃえって言われても、朝五が好きな俺の気持ちは、朝五以外は受け止められない。朝五じゃないとダメなんだよ」
夜鳥は朝五の手を取り、グッと引き上げながら立ち上がった。
逆らうことなく足に力を入れて同じく立つと、そのまま力強い腕に抱かれて、朝五の体温が上がる。
自分より熱い腕の中。夜鳥のほうが爆発寸前まで体温を上げていて、愉快だった。こう見えて照れているらしい。
「昔も今も、これからも、俺は朝五が一番大好きだ」
夜鳥は誓うように言う。
未来なんてわからないはずなのに、いつもそうだ。朝五は広い背に手を回し、自分より少し大きい夜鳥の髪に頬を擦り寄せる。
ドクッ、ドクッ、と夜鳥の心臓の音と自分の心臓の音が重なった。
どちらも駆け足に弾んでいて、揃った足並みに思わず吹き出す。
──不器用でバカな俺たちの歩き方は、二人だとちょうど、一緒に歩く歩幅だったのかもしれない。
まだ進み始めたばかりだが、例えこの先共に歩くことができなくなったとしても、この瞬間は忘れずに抱いて生きていくだろう。
「俺も、夜鳥が一番大好きだよ」
根拠のない確信を抱いて、朝五は笑った。
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