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3.もう一番目じゃいられない
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しおりを挟む夜鳥は嫌になるほど静寂だ。
顔を上げる勇気がない朝五は、コンクリートの微細な斑を前に、乾いた声帯を震わせる。
「誰かの一番好きな人になりたかった俺も、俺の一番好きな人になったはずの誰かを、傷つけてたってこと」
「…………」
「その誰かがお前だったってことが、めちゃくちゃ痛くて、苦しくて、自分のことが許せなくて……おかしーよな。付き合ってるけど、お前のこと好きになったわけじゃないって言ったのに、こんなにお前を忘れた自分が嫌いなんだぜ。最低だ」
自嘲気味に笑う。
矛盾した思考を呪っていた。
都合のいいことを並べて、それをやめられずに吐露する。
「せいちゃんの真剣な気持ちを簡単に受け入れて忘れて、十三年間、縛ってごめん。傷つけてごめんなさい」
ザリ、と額が冷たく擦れた。
まぶたを閉じる。暗闇の中で自分の心と対話する。大丈夫。答えはちゃんとここにある。もう逃げない。
覚悟を決めて顔を上げ、茫然とただこちらを見つめている夜鳥に向き合った。
「今の俺が一番好きなのは、せいちゃんじゃない。ここに、俺の前にいる夜鳥 成太なんだよ」
「っ……」
「俺はお前が一番大好きだ。だから今の俺を、一番好きになってほしい」
一言一句を大切に舌で転がし、今度は忘れないように、鮮明に贈る。
「俺はお前の、一番好きな人になりたい」
嘘偽りなく、本心からの声だった。
自分を許せなかったのは、夜鳥に惹かれてしまっていたからだ。
残酷な自分を好きな人の前に晒していたくなかったから、逃げ出した。
好きな人を傷つけたから、自分が嫌いになった。
そして仕方なく付き合ったはずの夜鳥に本気になってしまったから、手を離すこともできずに、たった一言の文字を恋しがっていた。
朝五はそういう、愚かな男だったのだ。
「……朝五、俺は」
「あ、まっ、まだ言わねーで。わかってるから、めちゃくちゃ言ってるし、好かれたから好きになったのかって思われるかもしんない。けど俺、本気だ。本気だから、ちゃんと過去にケリつけてから付き合いたい……」
眉根を寄せて薄く唇を開いた夜鳥を前に、朝五はどんな言葉でなじられるのかと邪推して、子どものように駄々を捏ねる。
「昔の俺への恋を諦められなかった夜鳥が、今の俺を好きでいてくれる理由はないと思う……でも、俺は、今のお前のことが好きになっちまったんだよ……」
「そっか……」
「俺、あんなに真剣に好きになってもらえたのは初めてなんだぜ……あの時めちゃくちゃ、嬉しくて……恋愛感情じゃなかったけど、俺はお前のこと知りたいなって、気になってさ……」
「うん……」
「勝手に暴走して怒って泣いたのに、お前は嫌にならずに、俺の言い分を聞いてくれたじゃん……? 自分のためにあんなに努力してくれる人がいるなんて、知らなかったわ……知ったら俺、お前の努力に気づきたいって思っちまって、下手な質問したよな……」
「朝五……」
「夜鳥、好きだよ」
くしゃくしゃに歪んだ真っ赤な顔は、とても見れたものじゃないほど不細工だろう。
それでも朝五は、溢れ出さないように抑えることに苦労していた涙をトロトロと伝わせ、できる限りの笑顔を作った。
「変わり者だしあちこちズレてるけど、愛し方が不器用過ぎで、バカみてーなことでも一生懸命気にして、話が下手くそで、融通が利かなくて、一途で、愚直で、しつこくて、必死で、そんで……──」
「笑い方が、すげぇ好き」
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