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2.バカにされては笑えない
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「はっ……? 男が初めてなんじゃなくてセックスが初めてだった、って……ど、童貞だったのかよ……!?」
ホテルでの事後。
言葉足らずな恋人の情報収集を兼ねてピロートークへとしゃれこんだ朝五は、目を丸くして夜鳥を見つめた。
隣で枕に顎を乗せる夜鳥は頷き、更に交際経験がないと重ねる。
顎が落ちそうだ。
恋愛体質の朝五には考えられない。
こちらは中学生に上がった時から、好きだと思った男にその気があればアプローチをかけていた。
初めて恋人ができた時期が初めて人と体を重ねた時期だ。旺盛な好奇心と現代ネットワークの賜物だろう。
実りはなかったので、それだけうまくいっていないということでもある。
恋に付随する性交渉も大切にする朝五は、ゲイなのかどうか定かではない夜鳥の男としての初めてを意図せず自分の尻で奪ってしまった事実に、若干の同情を抱いた。
「あ、え~……初カレと童貞、奪っちゃってごめんな~……」
「いいよ。むしろいいよ」
「いいんかい。でもゲイじゃなかったらお初が男はちと悲惨じゃね? 知らんけど。夜鳥はゲイなん?」
夜鳥の頭をポム、となでる。
言いながらもポム、ポム、と柔らかく連打する。短くなった夜鳥の髪は、癖になる触り心地だ。
「俺はたぶんゲイ。ずっと朝五が好きだったから、初めて抱くのが朝五で満足」
されるがままに連打されていた夜鳥が顔を上げて上目遣いに朝五を伺うと、朝五はピタリと手を止めた。頬が熱いのはさておき、夜鳥の発言が気になったのだ。
「う……あー……あんさ、俺のことずっと好きだったって、いつから好きなわけ」
中途半端に被っていた布団を手繰り寄せ、その中でもじもじと指先を捏ねる。
素知らぬ顔を意識しているが、内心は緊張で喉が渇いていた。
男が好きだとは言ってない、と思っていた疑問が払拭されたので、今度は朝五を選んだ理由が知りたい。
自慢ではないが、朝五はこれまで容姿以外を理由に相手から言い寄られたことがなかった。甘いマスクとスマートな体躯に対して、精神は年齢より幼い自覚がある。
友人たちにはノリがよくあっけらかんとした明朗快活な性格で好かれているが、恋愛対象となると様々な理由で手を出されない。
バカだとか、面倒だとか、ロマンチストだとか、そういう理由だ。
朝五と友人の文紀が夜鳥を体目的じゃないかと疑っていたのは、朝五の自惚れではなかった。魅力的に見えるように自己研鑽している。自信があるのが容姿だけだからなのだ。
夜鳥にとっての朝五の魅力はなにか。
検討がつかずにソワソワする朝五へ、夜鳥は薄く微笑んだ。
「ずっとっていうのは、ずっとだ」
「も、もっとわかりやすく言えさ」
「十三年前。朝五が俺に笑いかけて、一緒に遊ぼうって手を引いてくれた時」
「っは……?」
変わらずに微笑む夜鳥を前に、朝五は予想以上に過去からの想いだと言われ、目を見開いた。
どういうことだろう。
それほど昔から出会っていたにしては、朝五は夜鳥のことをついこの間まで知らなかった。覚えていない。
しかし、朝五が忘れたものは、十三年前の出会いだけではなかったようで。
「──朝五は、俺の告白に『俺も一番大好きだよ』って言ってくれた」
臓腑がキュッ、と縮こまった。──今、なんて言った? 俺が昔、夜鳥に一番大好きだって言ってたって……?
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