人の心、クズ知らず。

木樫

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第七話 キョースケと愛し方。

18(side今日助)

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  ◇ ◇ ◇


 それからしばらく後。
 もう一度俺を犯して満足したらしい咲は、湯船に高速お湯張り機能で湯をためながらヘリにくたりと上体を預け、グラビア写真のように寛いでいる。

 二度とはいえ濃密な行為だ。
 俺はその数倍イかされたので、身体が重くて仕方ない。

 俺の全身の毛をツルツルに剃り不釣り合いに子どもじみた姿になった股間を笑ったり、そこを舌で翻弄しながら指で後ろを混ぜ擦ったり、冷水のシャワーを掛けて尖る乳首を執拗にイジメ抜いたり。

 仕事はやめたのに、お陰様で変態プレイの経験値は上がる一方である。

 ジンジンと赤く熟れた乳頭とツルリとした陰部を見ないようにしながら、俺は悩ましくため息を吐いた。

 もし明日盲腸にでもなったら、俺は医者にとんでもない変態だと思われるんだろうなぁ……。
 健康頑丈が取り柄の自分を褒めてやりたい。


「……ン、……」


 洗い場に膝をつきケツに指を突っ込んで中のソープや精液を掻き出す。敏感になった粘膜は赤く腫れて、事務的な指の動きでも、ゾク、と快感を滲ませる。

 湿った媚肉の間からコポ、と流れ出て行く白濁をほんの少しだけもったいないと思った。

 まぁ、お腹いっぱい注がれたってなにも生まれないわけだが。
 呆れた笑いが漏れてしまう。

 非生産的な行為だ。だからこそ咲に買ってもらえる。クズだと称される咲は女性相手だと絶対に生じゃしないし中でイかない。

 男でないと貰えなかったそれをあらかた全部掻き出す頃には、浴槽にもたれていた咲は、眠そうにトロリと瞼を震わせていた。

 さっきまで人の体を好きに弄んでおいてあっさり興味を失うとは、酷い男だ。

 きっと今頃夢を見ながらベッドで咲の帰りを待ちわびている彼女のことなんて、すっかり忘れているだろう。
 彼女を蔑ろにして抱いていた俺のことだって、愛してはいないのだ。

 温かい浴室にいるのに、心は寂しげに凍えていた。

 それでもこみ上げる愛しさのまま、俺は苦く緩んだ笑みを浮かべて、サッとシャワーで身体を流してからその隣へ入り込む。

 クシャ、と熱い湯船の中で死体のように浸る彼の濡れた髪をなでる。


「ん……」

「ここで寝たら溺れるぞ、咲」

「いんじゃね……。あー、じゃあ、なでんな。お前の手、寝ちゃう」


 心地よさそうに頭を擦り寄せてくるくせに、やめろってのは酷だぜ。

 もたれかかってきた咲の肘がペタリと腕に当たり、そのまま引き寄せたい気持ちになった。名残惜しさを悟られないよう手を離す。


「はは、じゃあちゃんと起きて、彼女のとこ戻んないとな」

「んーん、ユキナちゃんはもうバイバイ」

「えっ」


 むくり。
 起き上がった咲があくびを噛み殺してなんの気なく投げた別れに、びっくりしてパシャン、とお湯が跳ねた。

 なんで、今日の流れのどこで咲のなにかにひっかかったんだ?

 人となりなんて微塵も知らない彼女を思い浮かべる。長い栗色の髪の後ろ姿。
 曇りガラス越しの愛らしい声は、聞き分けもよかったはずだ。

 驚く俺をにんまりと眺めて、咲はおもむろに俺の左手を取った。


「ここにさ、あの子俺の目の前でカッター走らせたんだよね」


 ここ、と親指で押さえられたのは、手首の内側。太い血管が通る筋。
 自分の眉が深く皺を刻むのがわかる。

 自傷行為のお手本。
 ここを切ったくらいじゃ死なない。

 だからそこを選んでわざと咲に見せつけたその凶器は──きっと捨て身の〝こっちを見て〟だ。




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