人の心、クズ知らず。

木樫

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第七話 キョースケと愛し方。

04(side今日助)

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 ぽかんとしているうちにサクッと無地のボトルを手渡された。

 手渡した咲はドン、とバスチェアーに座って膝に肘をつき、誘うような上目遣いで伺いながらニヤリと笑う。


「早くヤッてよ。俺はどこからでもどーぞだからさ。それともキョースケは、手本が見てぇの?」

「ッ! ……が、がんばる……ます……、ははは……」


 洗ってほしーの? と目で問われ、俺はあせあせと内心焦りながらボトルをプッシュし、中のソープを手の中にいくらか吐き出した。

 ミルク色のソープを震える手のひらで何度かすり合わせて、濃いめの粘着質な泡になったところでいざ! と咲の裸体と向き合う。

 咲は立ち尽くす俺を、どうすることもなく座ったまま見上げていた。
 その口元はいつもと変わらず、なんとも愉快げだ。

 こっちの気も知らないで。

 ぐぐぐ、と歯を噛み締めてみてもどうしようもないので、口癖のようなしょうがないな、を呟いてから腹をくくって膝を折り、咲の滑らかな腕を取った。


「っ、……」


 左手で手首を掴む。意外と筋肉がある割に生白い咲の腕に、泡立てたソープを右手で塗りこむようにして肌をこする。

 肌が痛まないよう、丁寧に手で擦った。
 身体に触れられるようなスキンシップならびっくりするほどウェルカムな咲は、他人に撫で回されることに慣れている。

 俺の手が肌の上をなで回しても全く動じず、退屈そうに眺めていた。

 手のひらを合わせるようにして、指の股までマッサージするように綺麗に洗う。

 そうやって俺が必死にお茶を濁している様を、咲はふぅんと鼻で笑った。

 誰のせいだ、誰の。
 他でもない咲、お前だぞ……。


(あぁもう……っ)


 熱いお湯をかけても先端の冷たい咲の腕をことさら丁寧に磨きながら、俺は現実から目を逸らす。


「……というか、スポンジ的なものはないんだよな……?」

「ねぇな」

「よしわかった、俺が今度プレゼントする」

「なぁ、腕ばっかじゃなくてカラダも洗えよ。乳首も股もゼンブさ」

「うん、今買ってこようか?」

「んー……? んー……台所にさぁ、おろし金があんだよね。お前が洗われる側がイイってなら、俺がお前の全身爪の間までピッカピカに磨いてやるよ」


 だめだ。
 目がマジだ。

 素手が恥ずかしすぎるからどうにかこうにか逃げようとすると、笑顔で皮膚を剥ぐ宣言をされた。嘘だと思うだろ? ガチだぜ。

 咲はやると言ったらやる。

 例えばこの間……咲が俺の学校に来た時も、周りの人たちはあの人は誰だ? ってザワついて、通りすがりにヒソヒソと黄色い噂を立てていたことがある。

 咲はいろいろ目立つ美形だ。
 顔立ちが繊細で肌が白いからクリーム色の髪が浮かないような美形だ。

 そういう人の待つ相手が俺みたいなファッションにも気を使わないあんまイケてない男だとちょっぴり困る。
 そんなルールないけど目立つんだよ。というか咲が目立つからさ。

 噂の震源地にのこのこ近寄ったが最後どういう関係だと詰められることはわかりきっていたので、俺は咲に〝違う場所で落ち合おう〟と連絡を入れた。

 すると咲は、逆に学校内ですれ違う人たちにフルネームで聞き込みを始めた。

 おかげで俺はニヤニヤする友人に両腕を掴まれて、まんまと咲の目の前に引きずりだされてしまったのだ。

 人目を避けようって意図を感じたから、思いっきり逆にいってみたらしい。

 もちろん嫌がらせと暇つぶしだ。
 笑うしかなかった。

 そんな男だから、俺が駄々をこねるのをやめさせるために、おろし金で俺の身体を引き裂くぐらいはやってのける。絶対に。

 内心でヒィ、と転げまわりながら、ハハハ、と笑って降参ポーズで両手を上げた。

 え、えぇい、ままよ……!

 こうなったら開き直るしかない。役得じゃないか。咲の身体に触りたい放題。
 俺はゲイだ。それも咲は好きな人だ。生肌ヌルヌル大興奮間違いなし! ……だから困ってるんだよな。




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