人の心、クズ知らず。

木樫

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第七話 キョースケと愛し方。

02(side今日助)

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「なにそんな焦ってんの? 気にすんなら俺今だけユキナちゃんと別れるケド、カノジョがいたらショッピングの自由がなくなるルールとかねぇじゃん。なんかね~……付き合うってめんどくせぇわ」

「いやっ、そういう意味じゃない……っ、……あぁもう、しょうがねぇなぁ……」

「ハァ? わけわかんねー」


 咲はあはは、と音だけで笑って、いつもどおりのニンマリとした笑みを浮かべると、わかっていないまま首を傾げる。

 付き合うということの意味を、咲は一応、わかっているはずだ。
 けれど毎度その彼女を愛していないから、操をたてたり特別に接したりしない。

 つまり愛のない関係だ。
 浮気なんて、もともと浮つく気がないから理解できない。

 それを知っているから、俺は咲にちゃんと好きになった人と付き合うんだぞ、と言ってやりたいけれど、愛情がいまいちよくわからない咲はどれもこれも同じに見えると言う。

 堂々巡りになるから、俺はしょうがない、でいつも両手を上げて降参状態だった。

 まぁ……咲にとってはわけがわからない俺の話より、俺を呼んだ目的である。

 咲はするりと冷たい指先の手を俺の首に回して誘うように頭の向こうで腕を組み、くるりと片足を俺の足へ巻き付けた。


「んで? 給料分の仕事はしてくれんだろ? クガクセー」

「っ……こ、ここでなのか……!?」

「俺にベランダでヤれって? にゃんだよ過激だにゃーん」

「なんでベッドオアベランダ……って、違うっ、か、彼女さんがいるだろっ。起きたらどうするんだっ修羅場だぞっ」

「そん時はそん時。意味わかんねぇし勝手に修羅っとけってカンジ。まー俺が満足する前にオチた自分を呪えって」


 こともなげにあはは、と笑う咲は、小声でヒソヒソと必死に場所変更を申し出る俺を一蹴する。

 無感動な笑顔だ。どうでもよくね? と心底から思っている色を感じる。よくない。俺がよくない。
 彼女の立場に立って考えると、目が覚めたら彼氏が男を掘っているなんてトラウマものだろう。

 じっ、とビー玉のように無垢で残酷な瞳が、俺を射抜く。

 すりすりと足の甲で足首をなでられ、首に巻きつく腕はじんわりと俺を締め上げ始めて、咲がこの問答に飽きたと言っているようだ。

 たら、と冷や汗が伝った。

 固まった笑顔をなぞる汗。
 ん? と追い打ちをかける人形じみたキレイな男。俺を逃がす気はない。


「……、……よ、夜は冷えるだろ……?」

「そーねぇ」

「その……ベランダは、良くないと思うんだけど……な?」

「そ?」

「…………」

「で? どこでヤる?」

「………………風呂場で」


 モゾ。

 黙り込む俺の視界の向こうでベッドの膨らみが身じろぐのが見えて、悲鳴をあげたい気分になる俺は、震える唇でデッドオアデッドをチョイスした。




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