人の心、クズ知らず。

木樫

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第六話 サキとアヤヒサ。

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 俺としては余興のこれも、残るはサトウさんからの罰ゲームだけだった。

 負けたらなんでも言うことを聞く、なんてありがちすぎて面白味ねーけど、意外とサトウさんはノリノリだ。

 無警戒に佇んで小首かしげながら次の指示を待つ。
 せめて面白いことでありますようにと願いながら。


「じゃ、俺とあっちの部屋に行こうぜ? ちょっとセンシティブなお願いだから、ドリンクもあるし静かなところで。いいだろ?」


 なんでも言うコト、聞くんだからさ。

 そう言ってサトウさんは人の良さそうな笑顔を浮かべ、部屋の隅にあるドアを指差した。

 へぇ……気が早いな。
 他の仮面はそんな素振りまだ見せてないのにさ。

 なにそれ気になる、なんなんだろ、などとカモたちが異口同音に尋ねる。
 当事者の俺は当然にっこりスマイル。


「もちろん」「咲」


 けれどスマイルな俺を、またしても黒い仮面が横槍を入れて咎めた。


「お、黒さんも参加すんの? 珍しい」

「いいやちょっとね。……咲、もういい。私のわがままが気に食わなかったのだろう?」


 アヤヒサは涼しい顔を崩さずに俺の手を取って、これ以上の深入りを許さないとでも言うように、周囲にはわけがわからない切り出し方で通行止めをした。

 グイ、と力強く手を引かれる。
 出口に連れていく気かよ。言っただろ? 

 大人の建前のツケは高くつく、って。

 アヤヒサの引く手に逆らって俺は留まり、重ねて小首をかしげる。
 そこでようやく僅かな焦りを表情に出すロボが、動きをとめた。


「咲?」

「さぁ? 知らないね。わがままってなんのこと? 説明してよ」

「……あとでたっぷり懺悔をするから、今はここを出ようか」


 後回しにされてする返事なんかない。
 黙って掴まれた手を静かに払うと、アヤヒサは周囲を振り返る。


「皆様方。せっかくのパーティーに水をさしてすまないね。私たちはここで退室するが、構わず遊びを楽しんでほしい」

「ふーん……? 面白そうな関係なのに、お二人とも帰んの? 俺はだいぶ惜しいんだけど」

「やーまぁ流石の佐藤さんでも黒さんに喧嘩売れないでしょ」

「残念ながらなー」


 ここでしたくない話。
 アヤヒサは、外交現場では弱みを見せたくないらしい。それを知ってか知らずか、退室を許可する権力者たち。

 勝手に甘やかしてんじゃねぇぞオイ。
 そんなことするから調子に乗っちゃうじゃん、このガラクタ野郎がさ。ね?

 とりあえず円満退室、なんてつまらない空気で満たされていく場。
 それをぶち壊したくて立てた親指を冷たい床に向ける。


「舐めてんの? お前」
「っ」


 抑揚のない冷えた声。
 アヤヒサは目を見開いて硬直した。

 表情を刹那、消したからだ。


「今すぐどうしてこうなってなにを間違ったか説明して、人にモノを頼む態度を取れっつってんだよ?」


 できないならいらないからそこの窓から空飛んで? そうしたらお前の存在ごとツケはキレイさっぱり忘れてやるよ。

 そう言ってにっこりと笑いかける。

 めちゃくちゃにしてやるって言っただろ? あれ言ってなかったっけ。どうでもいいや。あはは。

 ご褒美タイムは終わりだ。

 ルール違反にフルタイムを捧げるほど、俺は真面目じゃないんでね。




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