人の心、クズ知らず。

木樫

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第六話 サキとアヤヒサ。

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「あ?」

「咲は、一位を狙わないのか? 言い出した口じゃないか。欲しいものがあるなら個人的に聞くが」

「うんにゃ。なんにもねぇよ? 暇つぶしに誘って暇つぶしに提案したら暇つぶしが通っただけ」


 俺がお前の腕時計なんか欲しいわけねぇだろ? 欲しけりゃ腕ごと切りとってでもくびりとるわ。
 って感想は脳内で付け足した。

 外交事業はつまらない。
 知ってるくせになに言ってんの。

 相変わらず鉄仮面でボケをかます。
 真顔でボケるところは気に入っていても、今は気分じゃない。


「はい、俺百二十点ね」


 おー、と場が沸いた。
 ナカムラさんやるねぇ。じわじわとカモの接待をやめ始めてる。

 目下最下位のイチがあわあわ慌てているのがおもしろい。なんでも命令されると困るんだろう。

 ナカムラさんの次が俺の番。
 アヤヒサは俺の返事に頷いて以来、なにも言わずにそばで控えている。

 面白いほうへ、なぁ。
 アクティビティアクティビティ。

 次は咲くんだよ、と俺を呼ぶ声がするから、俺は笑顔で応じる。


「うーし俺も遊んでくるかなぁ」

「ん? 本気を出すのかい」

「嘘だろ。一位なんかに興味ねーわ」


 白けつつ矢を三本指の間に挟む。
 アヤヒサから離れて的の前に立つ。
 そして投げる。


「そーい」


 三本同時に、テキトーに。


「は」
「ぶっ、咲くんさぁ、それは無理だろー?」


 ガシャンッ、と三本の矢が一緒くたに音を立てて前方へ飛んだ。

 アヤヒサは無表情からほんの少しだけ驚いた声を上げたが、それをかき消すようにサトウさんがケラケラと楽しそうに笑う。

 三本同時投げなんてするもんだから当然一つも当たらず、矢は落ちてしまった。

 えー俺本気だったのに。
 世知辛いっすねーあっちゃーサガる。


「うわー当たったらかっけーと思ったんだけどダメ? うーこれはゼロ点。ちょっとショックだなぁ」


 ムーと唇尖らせてから大げさに肩をすくめると、ニーにあははと指差して笑われた。
 辛いわ。不登校なるわ。学生じゃねぇけど。ハートがブレイクしちゃったんで。ジョーダン。


 あーあ。
 俺の最下位が確定して、カナシイなぁ。


 陽気な空気が流れる場で、俺は面白おかしく的の前から離れる。本当に決まれば面白かったのに。ジョーダンジョーダン。

 適当に投げて全部刺さったら物理的におかしいので、やむなし。
 ま、残り全部雑にやった。

 俺がビリ確定の流れだから、イチがどんまいと手を上げてきた。
 その手にパシッと手を当て返して、あははと笑って隣に座る。

 次はアヤヒサ。
 その次がサトウさんで二回戦は終わり。

 なのにダーツボードに視線をやるより早く、ダンッダンッダンッ、と矢が突き刺さる音が聞こえた。


「えっ」


 隣のイチが早々と驚いた様子で目を丸めて、ダーツ板を見つめる。
 パパラーと派手な音のあと、矢をもぎとってダンダンダンッとまた突き刺さる。


百八十点トンエイティーかよ、黒さん」


 シンプルな白仮面のシロさんもびっくりしている。
 なににびっくりしているのかの意味は、イチとは違うんだろうけど。

 黙ってさっさと最高得点を取ったアヤヒサは「そういう気分さ」と素知らぬ態度で流した。いや一回戦の最下位がまさかのトンパチとか怪しいしバカじゃね。

 そこまで気が回らないほど動揺することでもあったの?
 クツクツと喉の奥で笑う。


「うへぇ、パーフェクト? 黒さんやっぱエグいなぁ。この次やんのプレッシャー辛過ぎんだろこれ」


 トリのサトウさんがべーっと舌を出して、苦々しい表情でダーツ板の前に立った。

 まったく。よく言うぜ。

 続く嘘つきの悪い大人は、当然のように最高得点をとったのだ。
 トップが二人って嫌がらせだわ。サキくんカワイソー。




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