人の心、クズ知らず。

木樫

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第六話 サキとアヤヒサ。

05

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  ◇ ◇ ◇


 豪奢なホテルのスウィートルーム並に無駄が多い空間とインテリア。
 室内に散るシャンデリアのオレンジ照明と、趣味の合わない洋楽。

 それらと無駄に気取ったオードブルが年代物のワインやシャンパン、その他と共に多様な仮面を被った権力者たちの薄ら寒いパーティーに彩りを添えて、小一時間。

 仮面を着けているのは、アヤヒサを数えて六人だ。

 背格好は様々だがどれもこれもが上等な身なりをしている。肩書や正体には興味ないから知らない。聞く気もない。言っていたかも覚えてねー。

 スッピンが俺を含めて、三人。
 二人は知らない誰かの連れ。名前は聞いてない。嘘。覚えてない。

 一人はおどおどキョロキョロと落ち着きなさげに視線を散らし、緊張で乾いた舌をカクテルで潤していた。
 ちびりちびりと酒に逃げながら参加者と会話をしている。

 場にそぐわない吊しのスーツに着られている感が否めない哀れな少年。仮にイチ。

 もう一人は酒ビンを片手に軽薄な態度でバカらしい笑顔を晒しつつ誰彼と絡んでいる、俺と同い年くらいの若い男。仮にニー。

 明るい茶髪を遊ばせて派手なスーツを着ている。たぶんホストかお坊ちゃん。

 小柄で華奢なイチも、背の高い蚊蜻蛉なニーも、系統は違えど顔面偏差値が高い。

 この時間ヘーワに仮面たちへ媚びを売ってメシを食って酒を飲んでただのパーティーをしているが、オチがわかっている展開の布石に過ぎない。

 コイツら気付いてないからウケるわ。
 ってか敢えて言わないで連れてきたってとこかね。

 かくいう俺も特に内容は知らないし興味がないから聞いてもないが、ただただシケたオネダリ通りにご褒美を遂行している。

 あくびが出そうなのを耐えてる俺を褒めてほしーにゃー。
 そーゆーゲームだかんね。


「咲くん、こっちのもうまいぞ。俺のおすすめ。酒も一緒に飲んでみ?」


 身体ごと沈み込みそうな高級なソファーでカナッペを咀嚼していた俺に馴れ馴れしく肩に腕を回す男のような、下心を隠した仮面たちの話相手も、代わる代わるやっている。

 人好きのする穏やかな笑みを浮かべ、手ずから口元へ運ばれたテリーヌをご賞味。ふーん。

 あーキョースケの茶碗蒸し食べたい。

 野菜や魚介のペーストで三色に彩られたテリーヌは、ホタテの風味が豊かでソースとよく合う。
 俺ペースト状のやつビミョイわ。味は美味いけど気分だけは悪いぜ。

 なんて言ってらんねぇのね
 下心のある人間の扱いやすさは心得ているケド、相手にする俺がつまんない。


「あー。ん……あはは、美味いね。舌触りがいい。なんか俺久しぶりにこんな美味いもん食べたよ。上品な味がする」

「そう? よかった」

「ふふ。ピスタチオ……好きなんだよね」


 ユル、と瞬きをして頬をほころばせる。

 視線を流すと、華美な刺繍が施されたレース造りの仮面を被った男──サトウさんはフォークを置いた。

 食事を分け与えたことで、自然と吐息がかかる距離まで顔が近づいている。

 アヤヒサとそう変わらない歳の大人として、こういうことに慣れているのだろう。んじゃ飽きたっしょ。にらめっこでもする?




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