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第三話 サキとタツキ。
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しおりを挟む「太陽……勝手になに言ってんだ? あ? お前、咲に話しかけるな。咲を見るな。俺から咲を奪うな。俺が変わった? なに言ってんの? 俺は、タツキはこうだっただろ? え? それを部外者のくせに自分のモノサシで俺の居場所をあーだのこーだの、殺されたいならそう言えよ。それともなに? 俺を殺したいの? 俺を殺したくてこういうことしたの? 俺に死ねって言いに来たワケ?」
「つ、き……ごめ、ん」
「ごめんじゃなくて、やめろって。お前に咲はわからねぇだろ? 咲がどんな男かわからねぇのになんであんなこと言うの? 死ぬだろ? 俺が。お前は俺もわからねぇ。お前の救いは俺を殺すんだ。心中するほど愛してるってわかんねぇから生きろって言うんだ。死ねってことなんだよ。俺に死ねって、お前は殺すって、バカみてぇに、なぁ」
「ご、ごめん、ごめん、月……っ」
「うるセェよ。黙ってろ。でなきゃ去ね。俺の邪魔をするな。俺はッ、オレはァッ!」
ダンッ! と鈍い音がした。
薄汚れたコンクリートの壁を力任せに殴りつけたタツキは、壁に手を当てたまま、感情が沸き立つどす黒いタールのようなドロドロしたものを太陽に投げつけ続ける。
太陽はタツキの言葉でぐちゃぐちゃに心を汚されてるだろうに、ごめん、とタツキを想って泣き、無垢な少女のような愛を瞳に乗せて震えながら罵倒を聞いている。
だけど、やっぱり。
こんなに美しくて狂った告白を聞きながらも、俺の気分は〝つまらない喧嘩を面白くして満足〟ぐらいの身勝手なものにしかならなかった。
浸ってんなぁ、俺。
だって、二人の気持ちを理屈で理解はできるけど感情で共感はできねぇんだもん。
俺は、素敵なショーを眺めながらなんの感慨もなくふぅんと処理する萎びた感性しか持ち合わせていないのだ。
タツキが俺に執着する理由も太陽が泣いていることもただの光景でしかない。
でもそろそろやめさせないと、タツキが太陽を壊してしまう。
俺にないものを持ってるんだからそれは大事にしなさいな。うひひ。まー俺が発端ですけど。
揃いも揃ってバカばっか。
かわいい、おバカちゃんたち。
「ターツキ。それ以上言っちゃダーメ。もーいーよ、俺楽しませてもらっちった」
「っ、アッ、ぇ、さ、き……?」
「ははっ、おいで?」
オーバーヒートしているタツキの目元を後ろから一瞬覆って、黙らせた。
傷ついた仲間を見てはいけない。
生きるか殺すか、正気と狂気の狭間。
タツキはもう、割と手遅れだけどさ。
よしよしと頭を優しくなでてやり、髪にキスをしてよく褒める。いいこいいこ。愚かないいこ。明日は晴れだよ。
「だってそういうこと、しねーだろ? タツキは、そうじゃない。ね」
「おれ……? ぅ、ん……おれ……オレは、……そうだなァ」
ゆっくり柔らかく、読み聞かせるように囁くと、タツキは震わせていた身体を少しずつおとなしくさせていった。
間違いなく。
タツキを殺しているのは俺だ。
太陽じゃない。
今と違ったらしい出会った頃のタツキを俺は太陽ほど明確にはパッと思い出せねーけど。だって過ぎたことに興味ねーし。
今のタツキも昔のタツキも、俺にとっては変わらずタツキ。タツキはタツキ。
見た目じゃ全然それらしくなくても、タツキは誰よりも純粋で無垢なんだぜ?
だから俺を鏡のように映し出す。
俺はタツキというねんどを思いつくがままにこねくり回して、思った形にしようとする幼稚園児だ。タツキはその手を無抵抗に受け入れている。
つまりタツキは俺だ。
でも、ねんど遊び自体に飽きたら、作品は完成しない。なのにぐちゃぐちゃにしたら、ねんどは二度と元には戻らない。
「アハハッ。じゃ、キスしてくれよ。今すぐ」
つまるところ、俺抜きでは生きられないタツキの生殺与奪の権利は、現状俺の舌にあるということだ。
まったく、反吐が出るほどワケワカメ。
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