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10.フィリング
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「それで、中に入れるものは何になるんだ? それによっても窯の熱の入れ方は変わるぞ」
「もちろんです。生焼けは避けたいので、まずは火の通った惣菜……包みやすいものが良いと思ってます。それに、パンに合う濃い目の味付けをした方が美味しいですよね」
俺たちは三人で倉庫のテーブルを囲み、フィリングの材料についての話し合いを始めた。
「包みやすくてパンに合って、味の濃い……火の通った……」
「……わからん。俺にとってパンに合うのはスープだけだ」
エルダさんは腕を組んだまま言った。
「エルダさんはどんなスープが一番パンに合うと思いますか? 昨日の夕飯はコンソメの野菜スープでしたよね」
俺が尋ねるとエルダさんはぴくりと反応し、テーブルに乗り出すようにして語り始めた。
「もちろんコンソメも良いが、俺が一番好きなのはシチューだな。大きく切った牛肉を柔らかくなるまで色々な野菜と一緒に赤ワインで煮込むんだ、あれこそパンに合う一番のスープだろう!」
なるほど、シチューは良い案かもしれない。
俺が想像していたのはカレーフィリングのような(もちろんこの世界にカレーは無い。いつかどこかでカレーに似たスパイス料理に出会えることを願っているが。)ものだったが、エルダさんの言うビーフシチューの大きめの具材ならばそのまま包むこともできる。
しかし、これに水を差したのはリックだった。
「シチューはスープじゃありませんよ、僕は認めません。シチューにパンを付けるなんて行儀が悪いですよ」
「あ、そこにこだわるんだ……」
正直シチューとスープの差はよくわからなかったが、唇を尖らせたリックに俺は苦笑しかできなかった。
「わかってますよ、もちろんこの家じゃやりません。で、坊ちゃんは何のスープが好きなんです?」
「僕はブイヤベースが好きです。北西の港に美味しい店があるんですよ、形の悪い魚でも煮込むとすごく美味しく食べられるんです」
「ブイヤベースか……魚は包みにくいし味的にも気が進まないなぁ……」
煮込んだ魚を入れたパンは、惣菜パン好きの俺でも聞いたことがない。
ツナはパンによく合うが、ひとまず作ってみるパンとして魚は少々ハードルが高いだろう。
「おいおい、スープを包む気なのか?」
「いえ、パンに合う味のものならスープじゃなくても良いんですが……でも、エルダさんの言うシチューは良いかもしれないですね。僕もパンとシチューの組み合わせは好きです」
「ええっ! レイさんまで……シチューは野菜や肉を食べるものですよ、パンと食べるスープとは違うものです。そんなことをしたら僕もミーティも父さんに叱られます、確かにシチューは味が濃くて美味しいけど」
リックは食事のマナーに厳しいらしい。
が、その視点はむしろ俺の背中を押すことになった。
「……それだ、美味しくてパンに合うのに行儀が悪いからってみんな遠慮してる。初めからパンに入れてあればみんな行儀を気にせず食べられる!」
「なるほど。パンとシチューを堂々と食べられるのは悪くない……少し味付けを濃くしたシチューがパンの中から出てくる……」
顎に手を当てて考え始めたエルダさんを見て、俺は口角が上がるのを止められなかった。
エルダさんが味方となれば、きっと初めての惣菜パン——ビーフシチューパンは成功する。
「もちろんです。生焼けは避けたいので、まずは火の通った惣菜……包みやすいものが良いと思ってます。それに、パンに合う濃い目の味付けをした方が美味しいですよね」
俺たちは三人で倉庫のテーブルを囲み、フィリングの材料についての話し合いを始めた。
「包みやすくてパンに合って、味の濃い……火の通った……」
「……わからん。俺にとってパンに合うのはスープだけだ」
エルダさんは腕を組んだまま言った。
「エルダさんはどんなスープが一番パンに合うと思いますか? 昨日の夕飯はコンソメの野菜スープでしたよね」
俺が尋ねるとエルダさんはぴくりと反応し、テーブルに乗り出すようにして語り始めた。
「もちろんコンソメも良いが、俺が一番好きなのはシチューだな。大きく切った牛肉を柔らかくなるまで色々な野菜と一緒に赤ワインで煮込むんだ、あれこそパンに合う一番のスープだろう!」
なるほど、シチューは良い案かもしれない。
俺が想像していたのはカレーフィリングのような(もちろんこの世界にカレーは無い。いつかどこかでカレーに似たスパイス料理に出会えることを願っているが。)ものだったが、エルダさんの言うビーフシチューの大きめの具材ならばそのまま包むこともできる。
しかし、これに水を差したのはリックだった。
「シチューはスープじゃありませんよ、僕は認めません。シチューにパンを付けるなんて行儀が悪いですよ」
「あ、そこにこだわるんだ……」
正直シチューとスープの差はよくわからなかったが、唇を尖らせたリックに俺は苦笑しかできなかった。
「わかってますよ、もちろんこの家じゃやりません。で、坊ちゃんは何のスープが好きなんです?」
「僕はブイヤベースが好きです。北西の港に美味しい店があるんですよ、形の悪い魚でも煮込むとすごく美味しく食べられるんです」
「ブイヤベースか……魚は包みにくいし味的にも気が進まないなぁ……」
煮込んだ魚を入れたパンは、惣菜パン好きの俺でも聞いたことがない。
ツナはパンによく合うが、ひとまず作ってみるパンとして魚は少々ハードルが高いだろう。
「おいおい、スープを包む気なのか?」
「いえ、パンに合う味のものならスープじゃなくても良いんですが……でも、エルダさんの言うシチューは良いかもしれないですね。僕もパンとシチューの組み合わせは好きです」
「ええっ! レイさんまで……シチューは野菜や肉を食べるものですよ、パンと食べるスープとは違うものです。そんなことをしたら僕もミーティも父さんに叱られます、確かにシチューは味が濃くて美味しいけど」
リックは食事のマナーに厳しいらしい。
が、その視点はむしろ俺の背中を押すことになった。
「……それだ、美味しくてパンに合うのに行儀が悪いからってみんな遠慮してる。初めからパンに入れてあればみんな行儀を気にせず食べられる!」
「なるほど。パンとシチューを堂々と食べられるのは悪くない……少し味付けを濃くしたシチューがパンの中から出てくる……」
顎に手を当てて考え始めたエルダさんを見て、俺は口角が上がるのを止められなかった。
エルダさんが味方となれば、きっと初めての惣菜パン——ビーフシチューパンは成功する。
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