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序章・この素晴らしくも狂った世界へ
第5話
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私がいるこの国は自然の宝庫だ。
エルフは元々、木の葉のベッドで寝そべり、果実をむさぼる種族だとか。
「木々に囲まれて、ベリー摘みと鹿狩りの日々。まるで永遠のサバイバル生活ね」
しかし、実際はもっと洗練されている。
「石造りの豪邸に住んで、ハイエルフの王城なんて豪華絢爛。自然は大切にしつつ、文明の利器も使いこなす……要するに、ハイテクツリーハウスってところかしら」
私の目の前には、まるでカラフルな絨毯を敷き詰めたかのような花園が広がる。これらは全て、城付きの庭師軍団が丹精込めて育てた作品だ。
エルフの血のせいか、それとも前世の記憶の名残りか、私は花が大好きだ。花を眺めていると、心が洗われる気がして、自然と頬が緩む。
「姫様!」
中庭で花に水をやっていると、後ろから慌てた声が聞こえる。振り返ると、城の使用人の青年が息を切らして駆け寄ってくる。
「姫様、そのような下々の仕事をなさるべきではございません!」
使用人の青年は慌てた様子で言う。私はそんな彼に微笑みかけた。
「別にいいのよ。私がやりたくてやってるの。高貴な血筋も、たまには土まみれになりたいのよ」
私はそう言うと、再び花に水をあげ始める。使用人の青年は、まるで世界が終わるかのような顔で立ち尽くした。
「しかし...姫様はハイエルフ、高貴なる種族です。そのような泥臭い仕事などせずともよいのです!」
高貴なる種族……ねぇ。
私からすれば、それはまるで「あなたは特別な生き物展示館の主役だ」と言われているようなもの。
これほどまでに馬鹿馬鹿しい単語があるだろうか。
───ハイエルフ。
エルフの頂点に君臨する種族。その肉体は不滅にして不老。全てのエルフの始祖にして、完全無欠の存在。
昔、魔族との戦争でも多大な功績を残し、ハイエルフはエルフの国を作った……というのは知っているのだが、恐竜の話くらい昔の出来事で、正直あまり興味が湧かない。
いや、この世界に恐竜がいたかは知らないけど。いるならドラゴンかな?
「ハイエルフといえども私はただの一人の女よ。そんなに畏まらなくていいの。私だって、朝は鳥の巣みたいな髪型で起きるんだから」
「そ、そのような冒涜的な発言、到底承服いたしかねます……!こうしてお言葉を交わしているだけでも、私は恐れ多くて……」
使用人の青年は、まるで雷に打たれたかのように震えながら言う。
私はこの過剰反応にうんざりした。
「もうっ!いいって言ってるでしょ!私をそんな神様みたいに扱わないで。トイレにだって行くし、寝起きにはヨダレだって垂らすんだから!」
頬を膨らませ、使用人の青年を睨みつけると、彼は目を見開いてそのまま地面に頭をつけた。
……しまった。
つい前世の下品な口調が出てしまった。このエルミア・アズルウッドというハイエルフのお姫様は、高貴で生粋のお姫様のはずだ。言葉遣いも上品で優雅なはず。
──しかし前世の私は、とある島国の平凡なOLだったのだ。
「ね、ねぇ……あの、その……お気になさらず。私の拙い冗談でございます。はい、冗談。トイレの話は忘れてくださいまし。神聖なる私はトイレなど行きませぬから。ね?」
私は慌てて取り繕おうとするが、青年は顔を上げる気配もない。まるで地面に生えた木のように動かない。
「ねえ、本当に大丈夫よ。私、怒ってないから。ただちょっと言葉を間違えただけ……起きて?お願い?」
私は彼の前に屈み、肩を揺すってみる。
しかし反応はゼロ。完全に固まってしまっている様子だ。
「なんで……?私、そんなに鬼婆みたいな顔してる?」
私が自問自答している後ろから、威厳のある声が響く。
「エルミア。その辺でお遊びは終わりにしなさい。彼の魂が抜けそうだろう」
振り向くと、そこには父であり、この国の国王であるアズルウッド王の姿があった。まるで絵画から抜け出してきたかのような凛々しさだ。
父は地面に這いつくばる使用人の青年を一瞥すると、優しく微笑み、小さく声を掛ける。
「ここはもういいから、別のところで仕事をしてきなさい」
「かしこまりました!」
父の言葉に使用人の青年は、まるでロケットの発射のごとく勢いよく立ち上がり、その場から猛ダッシュで逃げ去っていった。
そしてその場に残されたのは私と父の二人きり。花畑に花びらが舞い、爽やかな風が吹く。まるで映画のワンシーンのような光景だ。
「お父様……」
「エルミア。我々はハイエルフだ」
父……国王セーロスは、何千年という時の重みを軽々と背負う生ける伝説だ。
その眼差しには万巻の書を読破したかのような叡智が宿り、その佇まいからは王としての威厳が滲み出ている。
だけど、その容姿は二十代の青年のように若々しい。
まるで彫刻家が理想の美を追求して作り上げた芸術作品のような美貌だ。
「ハイエルフとは即ち、万物を超越せし存在。世界の支配者にして神そのものだ。我らはその象徴であり続けなければならないのだ」
父の言葉は、まるで古の教典から飛び出してきたかのように厳かで、そして古文書のように理解不能だった。
「つまり、『あなたは特別だから、普通のエルフと同じように振る舞っちゃダメよ』ってことでしょうか?」
私の皮肉めいた返答に、父は少し気まずそうな表情を浮かべ、視線を落とした。
まるで、娘の反抗期に戸惑う平凡な父親のように。
「エルフは我々の下位種であり、本能的にハイエルフに逆らえないんだ。だからあまり困らせてやらないでおくれ」
「……」
正直、「上位種」「下位種」なんて言葉を聞くとまるでファンタジー小説の悪役の台詞みたいで胸が悪くなる。
「彼らは私たちの命令なら何でも従う。それがどんなに理不尽でも。自害を命じれば、二つ返事でそれを実行するだろう」
父の言葉に、私の背筋に氷柱が突き刺さったような冷たさが走る。
花びらが舞う美しい中庭で、私は震える声で尋ねた。
「な、なんで……そんな……」
私は声を震わせ、目を皿のように見開いて父を見つめる。
理解できない。それではただの生きた操り人形ではないか。ハイエルフは操り糸を引く側なのか。
「まぁ、それはハイエルフに限った話ではないがね。妖精やドワーフなどの種族にも似たような上下関係があるんだ。食物連鎖みたいなものさ」
父の穏やかな声が、却って状況の異常さを際立たせる。
まるで天気の話をしているかのような口調だ。
「理解出来ません。それは、おかしな事です」
私の声はいつもより高く、震えている。
まるで別人の声のようだ。
父は私の頭に手を置いた。その手は温かい。
しかし、その温もりが却って不気味に感じられた。
「エルミアも大人になれば理解できる時が来るよ……それまでは辛抱しておくれ」
父の目は優しく、しかし何か悲しげなものを秘めていた。
まるで古い秘密を抱えているかのように。
「私はもう大人です。ただの背の高い子供じゃありません」
頬を膨らませて抗議すると父は困ったような、でも愛情のこもった笑みを浮かべた。
「そうだねエルミア。君は大人かもしれない。でもハイエルフは他の種族の者達とは次元が違う存在だという事を覚えておきなさい。我々は特別な生き物なんだ」
花が舞う中庭で父の言葉が重く耳に残る。まるで呪文のように。
私は風に揺れる花々を見つめながら父の言葉について考えた。
ハイエルフは他の種族と次元が違う……。しかし私にとっては私も、彼等も同じ存在だ。
皆等しく命が宿り、尊い命なのだ。ハイエルフだけを特別扱いする理由はない。
そう。あってはならない……。
「……」
だけど。
私はこの世界のことをまだよく知らない。
父の言葉の裏にはきっと私には見えていない何かがあるのだろう。
だからこそ、いつかこの世界を理解しなくてはならない。
そしてもしかしたら変えなければならないかもしれない。
花びらが舞う中、決意を胸に秘めながら私は拳をギュッと握りしめた。
エルフは元々、木の葉のベッドで寝そべり、果実をむさぼる種族だとか。
「木々に囲まれて、ベリー摘みと鹿狩りの日々。まるで永遠のサバイバル生活ね」
しかし、実際はもっと洗練されている。
「石造りの豪邸に住んで、ハイエルフの王城なんて豪華絢爛。自然は大切にしつつ、文明の利器も使いこなす……要するに、ハイテクツリーハウスってところかしら」
私の目の前には、まるでカラフルな絨毯を敷き詰めたかのような花園が広がる。これらは全て、城付きの庭師軍団が丹精込めて育てた作品だ。
エルフの血のせいか、それとも前世の記憶の名残りか、私は花が大好きだ。花を眺めていると、心が洗われる気がして、自然と頬が緩む。
「姫様!」
中庭で花に水をやっていると、後ろから慌てた声が聞こえる。振り返ると、城の使用人の青年が息を切らして駆け寄ってくる。
「姫様、そのような下々の仕事をなさるべきではございません!」
使用人の青年は慌てた様子で言う。私はそんな彼に微笑みかけた。
「別にいいのよ。私がやりたくてやってるの。高貴な血筋も、たまには土まみれになりたいのよ」
私はそう言うと、再び花に水をあげ始める。使用人の青年は、まるで世界が終わるかのような顔で立ち尽くした。
「しかし...姫様はハイエルフ、高貴なる種族です。そのような泥臭い仕事などせずともよいのです!」
高貴なる種族……ねぇ。
私からすれば、それはまるで「あなたは特別な生き物展示館の主役だ」と言われているようなもの。
これほどまでに馬鹿馬鹿しい単語があるだろうか。
───ハイエルフ。
エルフの頂点に君臨する種族。その肉体は不滅にして不老。全てのエルフの始祖にして、完全無欠の存在。
昔、魔族との戦争でも多大な功績を残し、ハイエルフはエルフの国を作った……というのは知っているのだが、恐竜の話くらい昔の出来事で、正直あまり興味が湧かない。
いや、この世界に恐竜がいたかは知らないけど。いるならドラゴンかな?
「ハイエルフといえども私はただの一人の女よ。そんなに畏まらなくていいの。私だって、朝は鳥の巣みたいな髪型で起きるんだから」
「そ、そのような冒涜的な発言、到底承服いたしかねます……!こうしてお言葉を交わしているだけでも、私は恐れ多くて……」
使用人の青年は、まるで雷に打たれたかのように震えながら言う。
私はこの過剰反応にうんざりした。
「もうっ!いいって言ってるでしょ!私をそんな神様みたいに扱わないで。トイレにだって行くし、寝起きにはヨダレだって垂らすんだから!」
頬を膨らませ、使用人の青年を睨みつけると、彼は目を見開いてそのまま地面に頭をつけた。
……しまった。
つい前世の下品な口調が出てしまった。このエルミア・アズルウッドというハイエルフのお姫様は、高貴で生粋のお姫様のはずだ。言葉遣いも上品で優雅なはず。
──しかし前世の私は、とある島国の平凡なOLだったのだ。
「ね、ねぇ……あの、その……お気になさらず。私の拙い冗談でございます。はい、冗談。トイレの話は忘れてくださいまし。神聖なる私はトイレなど行きませぬから。ね?」
私は慌てて取り繕おうとするが、青年は顔を上げる気配もない。まるで地面に生えた木のように動かない。
「ねえ、本当に大丈夫よ。私、怒ってないから。ただちょっと言葉を間違えただけ……起きて?お願い?」
私は彼の前に屈み、肩を揺すってみる。
しかし反応はゼロ。完全に固まってしまっている様子だ。
「なんで……?私、そんなに鬼婆みたいな顔してる?」
私が自問自答している後ろから、威厳のある声が響く。
「エルミア。その辺でお遊びは終わりにしなさい。彼の魂が抜けそうだろう」
振り向くと、そこには父であり、この国の国王であるアズルウッド王の姿があった。まるで絵画から抜け出してきたかのような凛々しさだ。
父は地面に這いつくばる使用人の青年を一瞥すると、優しく微笑み、小さく声を掛ける。
「ここはもういいから、別のところで仕事をしてきなさい」
「かしこまりました!」
父の言葉に使用人の青年は、まるでロケットの発射のごとく勢いよく立ち上がり、その場から猛ダッシュで逃げ去っていった。
そしてその場に残されたのは私と父の二人きり。花畑に花びらが舞い、爽やかな風が吹く。まるで映画のワンシーンのような光景だ。
「お父様……」
「エルミア。我々はハイエルフだ」
父……国王セーロスは、何千年という時の重みを軽々と背負う生ける伝説だ。
その眼差しには万巻の書を読破したかのような叡智が宿り、その佇まいからは王としての威厳が滲み出ている。
だけど、その容姿は二十代の青年のように若々しい。
まるで彫刻家が理想の美を追求して作り上げた芸術作品のような美貌だ。
「ハイエルフとは即ち、万物を超越せし存在。世界の支配者にして神そのものだ。我らはその象徴であり続けなければならないのだ」
父の言葉は、まるで古の教典から飛び出してきたかのように厳かで、そして古文書のように理解不能だった。
「つまり、『あなたは特別だから、普通のエルフと同じように振る舞っちゃダメよ』ってことでしょうか?」
私の皮肉めいた返答に、父は少し気まずそうな表情を浮かべ、視線を落とした。
まるで、娘の反抗期に戸惑う平凡な父親のように。
「エルフは我々の下位種であり、本能的にハイエルフに逆らえないんだ。だからあまり困らせてやらないでおくれ」
「……」
正直、「上位種」「下位種」なんて言葉を聞くとまるでファンタジー小説の悪役の台詞みたいで胸が悪くなる。
「彼らは私たちの命令なら何でも従う。それがどんなに理不尽でも。自害を命じれば、二つ返事でそれを実行するだろう」
父の言葉に、私の背筋に氷柱が突き刺さったような冷たさが走る。
花びらが舞う美しい中庭で、私は震える声で尋ねた。
「な、なんで……そんな……」
私は声を震わせ、目を皿のように見開いて父を見つめる。
理解できない。それではただの生きた操り人形ではないか。ハイエルフは操り糸を引く側なのか。
「まぁ、それはハイエルフに限った話ではないがね。妖精やドワーフなどの種族にも似たような上下関係があるんだ。食物連鎖みたいなものさ」
父の穏やかな声が、却って状況の異常さを際立たせる。
まるで天気の話をしているかのような口調だ。
「理解出来ません。それは、おかしな事です」
私の声はいつもより高く、震えている。
まるで別人の声のようだ。
父は私の頭に手を置いた。その手は温かい。
しかし、その温もりが却って不気味に感じられた。
「エルミアも大人になれば理解できる時が来るよ……それまでは辛抱しておくれ」
父の目は優しく、しかし何か悲しげなものを秘めていた。
まるで古い秘密を抱えているかのように。
「私はもう大人です。ただの背の高い子供じゃありません」
頬を膨らませて抗議すると父は困ったような、でも愛情のこもった笑みを浮かべた。
「そうだねエルミア。君は大人かもしれない。でもハイエルフは他の種族の者達とは次元が違う存在だという事を覚えておきなさい。我々は特別な生き物なんだ」
花が舞う中庭で父の言葉が重く耳に残る。まるで呪文のように。
私は風に揺れる花々を見つめながら父の言葉について考えた。
ハイエルフは他の種族と次元が違う……。しかし私にとっては私も、彼等も同じ存在だ。
皆等しく命が宿り、尊い命なのだ。ハイエルフだけを特別扱いする理由はない。
そう。あってはならない……。
「……」
だけど。
私はこの世界のことをまだよく知らない。
父の言葉の裏にはきっと私には見えていない何かがあるのだろう。
だからこそ、いつかこの世界を理解しなくてはならない。
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