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2章 過去を暴露しよう

023 新たな手がかり

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 夕食後の自由時間のこと、僕はAに呼ばれた。
 Aは夜久と同時期に体調不良を訴えたと聞いていたので、どこかきな臭いものを感じていた。
 猜疑心が強すぎるのか、疑心暗鬼になっているのか。
 取り越し苦労ならいいが。
 どっちにしろ会えば分かるはずなので、僕はAの部屋に向かった。


 今日は金曜日で、いつもなら勉強会をやっている時間のため、女王への申請の結果歩けることになっている。

 2人も体調不良だから、勉強会が休みになっているとは知らないだろう女王は設定を変えずにいてくれている。
 ヘビンさんが今夜中に伝えないことを強く望んだ。

 部屋に辿り着いてノックする。
 どなたですか、と女性の声がした。まだ看護師さんがいるようだ。
 あまり聞かれたくないが、人払いってどうすればいいのだろう。

「友達のコウスケです。いま話せますか?」

 少し間があって看護師さんが出てきた。

「席を外さねばならないお話をしたいようです。
 大丈夫だとは思いますが、状態が変だと感じたら遠慮なく私を呼んでください」
「は、はい」

 なんと、僕が言うよりも先にAが人払いをしてくれた。
 まさか取り越し苦労じゃない?

 Aは僕が車椅子なしなのに気になっている。

「あ、歩けるようになったの?」
「そんなわけないじゃん。昨日会ったでしょ」

 僕はベッドの隣に用意されていた椅子に座る。
 先程の看護師さんが座っていたようで暖かみが残っていた。

「えじゃあ………」
「今日は金曜日だから22時まで歩けるの。いつもなら勉強会の時間だから」
「なるり~」

「で、人払いしてまで話したいことは何?」

 すると、Aは平然とベッドから降り歩き始めた。

「ふっふっふ~。これ仮病なんですよね~」
「やっぱりね」
「なんで分かった!?」

 夜久と同時期に体調不良になるとは怪しい、と彼に伝えると、悔しそうにうわーんと泣き真似をする。

「ネタばらしをするとね、ビフテキくんが看護師代がタダになるからって、ただ寝不足なだけの僕を体調不良者に仕立て上げようとしてたからさ。
 Aも同じかなってね」
「うわ、先手を指された」

 彼がビフテキと同じことをするとは、意外と天然ではないのかもしれない。
 頭がいいか損得勘定で動くタイプなのを隠していたのか。

「で、仮病を使ってどんな証拠を集めたの」
「それがさ………これ見てよ」

 Aがスマートウォッチの写真機能で撮影した写真を見せる。
 初老の男性が少年に何かを渡している。
 白いものだが、画質が粗くてよくわからない。

 まさか………!?

「この人知ってる」

 僕は、Aが知らないだろう男性を指さした。

「え?知ってるの? 予想外」
「女王の側近のヘビンさんっていう」
「このご老人、女王関係者なの!?
 えっと、僕の知り合いの中でこの人(少年のほう)と最も親しいのはコウスケくんだと思う。この人が誰か分かるよね?」

 Aは僕の顔を見て訊ねる。
 僕に聞かなくとも分かるはずだが、それでも聞いてくるのは確実な証言がほしいからか。
 僕は肯定の言葉を吐く前に頷いてみせた。

「間違いない。………この人は確かに………だね」

 とても驚きだがビフテキくんは女王と親密な関係らしい。
 本人に訊ねてみよう。

「ヘビンさんはビフテキくんに手紙を渡していたよ。受け取らなかったけどね」

 突然、Aが僕のジャケットのポケットに手を伸ばした。
 危機感を覚えた僕は、後ろに飛び彼と距離を取った。

「A、どうしたんだよ?」
「コウスケくんこそ、どうして距離を取ったの?」
「なんとなくとしか言えないけど」

 Aの笑みが怖い。

「ボクは君のポケットの中身を見せてほしいだけなんだ。簡単でしょ?」
「………見たの?」
を?」 
「なんで中学生だと分かる?」
「コウスケくんの性格とここに来た時期からして、まだ中学生のときだろうと思った」

 お守り代わりに、いつも彼女とのツーショットをポケットに入れているが、人前で出したことはないはずだ。

 チラッとでも見える可能性があるのは………
 充分に注意を払えていなかった例の謎文書発見時か、体育祭で興奮しすぎて跳ねていたときぐらいだ。
 座っていたときはともかく、跳ねていたときに写真の全容など見えるのか。

「その写真を手に入れて何をしたい」
「ここの生活の安全確保だよ。怪しい人がいるから彼の警戒をしておきたい。
 それと、を味方につけると安心するからその脅しさ」

 Aの目を見ては悟らざるを得ない。

 普段見せている姿は本来の性格を隠すための仮にすぎないのだ。
 他人をよく観察している。
 頭がいいでは済まない、何処か社会や人生について達観していると思う。


 僕はポケットから写真を取り出して朱音あかねを見つめた。

 中3のときにできた彼女だ。

 朱音が交通事故に遭って帰らぬ人となったあのとき、僕はその場にいた。
 止められなかった。
 僕は見殺しにした。
 すぐに救急車を呼べば助かったかもしれないのに気が動転してしまって呼べなかった。

 そして翌日の早朝、朱音は息を引き取った。
 享年14歳。
 僕は許されないことをした。これからも償っていかないとならないのだ。


「返事はいつほしい」

 睨んだ。
 少しは使いがいのある人間だと思ってもらえるように。

 少しは考えねば、さすがに気が回らない。

「おや? 憔悴してるのかい? いいよ、特別に1週間待ってあげよう」

 猶予は1週間、か。

「わかった。帰ってもいいか」
「1つ約束して」

 面倒ごとは1つでたくさんだが。

「なんだ?」
、言っちゃだめだよ? そうしたら、分かってるよね、コウスケ?」

 そんなことか。
 分かりきっている。

「もちろんだ。じゃあ帰る」
「うん、おやすみ~」


 彼女のことを思い出して泣いている場合ではない。
 今日もあそこに行くか。
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