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2章 過去を暴露しよう

022 発熱

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 翌朝、僕はいつも通りビフテキくんに叩き起こされた。
 睡眠不足だし寒いので粘ったが、すぐに布団を没収された。

「寒っ。嫌だ、エアコン生活に戻りたい」

 この世界には電化製品自体はあるが希少らしく部屋にはない。
 だから布団がなくなると耐えられないほど寒いのだ。
 地球のありがたみが分かる体験である。

「エアコンとやらがなにか分かりませんが、便利なモノなんでしょうね」
「そう超便利」

 ビフテキくんはニヤリと唇の端を上げた。
 次の言葉が不穏である。

「ですが、それを使うとあなたみたいに、冬に起きられない人が出没するんでしょうね」

 出没ってなに。
 クマじゃないんだけど。

「もう起きてくださいね? いつになったら自分で起きられるようになるんですか」

 さすがに呆れが感じられるので、そろぞろと起き出した。

 そのとき、誰かがノックした。
 少女の声がビフテキさんいますか、と聞いた。

「………イーディ? こんな時間に? ドア開けますね」

 ビフテキくんの同僚らしき少女が彼にになにかを小声で伝える。
 彼は頷いて聞いていたが、彼女が退出するときには、ため息を吐いて最悪とでも言いたげな顔になっていた。

「どうしたんだよ?」
「このフロアの住人が熱を出したんです。
 薬とか看護師にお金がかかりますし、労働時間が増えるから正直嫌なんですけど」

 熱を出した人に同情したわけではなく、効率を気にする本来のビフテキが顔を現したらしい。
 面倒臭い事柄を思ってげんなりしていたのか。
 少しはお金と自分の負担以外も考えたほうがいいと思ったが、自分のことを棚に上げて言える身ではないので口を噤む。

「具体的に誰?」
「言っていいかは分かりませんが………どうせ知り合いですからね。夜久さんですよ」

 途端に忘れかけていた昨夜のことを思い出してしまった。
 やはり他人の事情に首を突っ込みすぎてしまったのか。
 どうしよう、どうしようと焦るばかりで解決策なんて浮かばない、そんな眠れない夜を過ごしたのかもしれない。

「どうかしましたか?」
「へ?」

 突然ビフテキくんの声が耳に入ってきて咄嗟に反応できなかった。

「あ、いや、夜久大丈夫かな~と」

 返し方が不自然すぎたか。
 汗出てきたかも。

「そうなんですか」
「え、なに」

 ビフテキくんが、上から下まで舐め回すように観察する。
 観察されるような心当たりはない。
 逆にジロジロと見られるほうの気持ちにもなってほしい。

「………あなたも?」
「は?」
「コウスケさん、体調悪いとかありませんよね?」
「なんでそうなった!?」

 心のツッコミが叫びとして放出された。
 本当に心当たりはない。
 急にどうしたのか。

「今日はいつもより反応が悪いですし、夜久さんと昨夜何かやったのかと愚考しまして………」

 ビフテキの“何か”に気持ち悪い響きを感じた僕は全否定する。
 ほんとに愚考だよ。
 ただ夜にばったり会って少し話しただけなのだ。

「夜久さんが治ってから風邪ひくとか止めてくださいね? 今なら看護師料金はタダだから、さっさと白状してください」

 タダだから、と言葉を重ねるビフテキくん。
 そもそも本当の本当に、(いもしない)神に誓っても僕は風邪でもなんでもない。寝不足なだけである。
 3時間睡眠が祟って体調が悪そうに見えるのなら仕方ないが、これまでの会話からしてでっち上げたいだけだろう。

「いや違うし!」
「頑固ですねえ」

 頑固でも何でもない。
 僕だけの問題ならまだしも、夜久まで疑われているのだ。
 否定するに決まっているだろう。

「今日はそんなに寝てないけど、体調は全然問題ない」
「寝不足ですか。ちゃんと寝てくださいね?」
「ビフテキくんこそちゃんと寝てる? 朝早いでしょ」

 僕が6時に起こされるのだから、その30分前、5時半には起きているはずだ。
 ビフテキくんは慢性寝不足だと思う。
 毎日同じ時間に起床・就寝! とよく言われるけど、それよりも睡眠時間の確保のほうが大切だ。

「僕のことはいいですから。はい」

 よくないよ、と反論しようとすると、それを封じるように投げ渡された。
 慌てて受け止めるとビフテキくんが謝った。
 地球で見覚えのある物体だが、ここでも同じような機能つきなのだろうか。

「えっと………これは」
「そっちの世界のと同じです。そちらでは体温計っていうんでしたっけ」

 思った通り体温計だった。
 でも、僕は本当に何でもないので不要だが?

「どうやったら信じてくれるかなあ。体温計なんていらないよ?」
「もういいです。遅刻しますし。さっさと準備してください!」

 説得するのに面倒臭いと思ったビフテキくんは、すぐに諦め体温計を回収した。
 そしてすぐに出て行った。
 やはりアレは夜久が使うものだったのではないか。
 僕は安堵していた。

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