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2章 過去を暴露しよう
019 謎文書X
しおりを挟む「おはよう」
僕は、目を擦りながらボケーと座っているAに話しかけた。
あと少しで担当者がやってくるはずだ。
「………おはよー」
「眠そうだね。どうした?」
「………昨日までの疲れがとれない」
体育祭とハロウィンパーティーが連続では疲れるに決まっている。
Aははしゃぎすぎていたと僕から見ても思う。
「あーそれはお疲れとしか言えない」
「うん。ボクまだ13歳なんだけど………。老いた?」
「それを年上の16歳に言わないでね?」
「分かった」
僕はまだ老いていない。まだ少年で通じると思う。
そのとき担当者が入室した。
今日は英訳をするという。
僕は英検準一級を持っているが、リーディングやライティングはそこまで得意でない。
リスニングで点を取っているだけなのだ。
「ねえコウスケくん。英語得意?」
「うんまあね」
早速英文だらけのプリントを眺めて当時の感覚を思い出そうとする。
「英検は?」
「準一」
「わぁお。じゃあ任せていい?」
サボろうとしているAを軽く睨む。
「これは仕事だよ?ちゃんとやって」
「あははダメか」
笑い事じゃないよ。
「分かったよ。ちゃんとやるよ。だから質問答えて?」
「………やるのは当たり前だよ」
「あーもう!なんでもいいから答えてほしいんだよ!」
キレ始めたか?
「はいはい。でなんですか」
「英語が得意な理由を教えてください」
僕の頭に、ある少女の顔が浮かんだ。
だがすぐにかき消した。
「………そりゃたくさん勉強したからでしょ」
「いやそれ以外ですよー、コウスケさーん」
「ないない。継続は力なり、だよ」
「えー?本当ですかー?」
ケタケタ笑いながらも疑いの眼を向けているAに、僕は正直に言うと少し怖気づいた。
この中2、侮れない。
「仕事しよう。手を止めないで」
さっきから担当者の目線が痛いのだ。
流石にそれに気がついたのか、Aはキーボードをカタカタ言わせ始めた。
僕は英語に関することは大体答えない。
英検は特例である。
これらについては僕の中で封印扱いだ。
「ねぇ英訳なんてなんでするんだろうね?」
Aがポツリと漏らした。
僕もそのことに気付いていたが、なんとなく触れないようにしようと思った。
僕の………生存本能がそう告げている。
「そうだね」
気のない返事だが無視するよりマシだ。
「気にならないの?」
「気にはなるさ。だけど僕らには関係ないだろう?」
そうは言ったが、翻訳している文章に『死』や『殺』という文字が多いことに気がついていた。
もしこの文書が何かの研究書類ではなくて、国の正式な文書だとしたら………。
そして女王がそれを承諾するのだとしたら………。
いらない心配が積もっていき頭が警鐘を鳴らす。
無視するんだ、マジエ王国がどうなろうと僕には関係ないことだ、と言い聞かせても無駄な気がした。
でも………この文書が原因で王国が滅んだら、僕らは王国の被害者として地球に戻れるかもしれない、という光がよぎる。
「そうかな。………でも」
「しっ!」
次に続く言葉を想像して、咄嗟に彼の口を塞いだ。
僕の奥底までをも見通せるような目が見開かれた。
「………じゃあここからは昼食のときに話そう。いいよね?」
「分かった」
僕は同意した印に塞いでいた手を退かした。
この仕事が終わるまで僕らは一言も喋らなかった。
僕は翻訳する手を止めなかったが、この文書に関する僕なりの考察を組み立てていった。
この文書だけで判断するのはかなり浅はかだが、同時にこの手の謎解きが好きだった中学校時代を思い出して、胸が高まっていった。
Aがどんなことを口にするのか、楽しみだ。
ランチタイムが始まってとても混雑しているカフェテリアの、いちばん隅のテーブルを僕は陣取っていた。
今日、英訳の仕事にときに読んだ“謎文書X”について考察を交わすため、2人で一緒に食べることにした。
すぐに料理を決められないと彼が言うので僕が先に注文に行き、今は彼の帰りを待っている。
「それにしても………遅くない?」
特に料理の種類が多いわけではないはずなのに、席を離れている時間が異常に長い。
僕のあったかうどんが冷めてのびてしまう前に戻ってきてほしい。
それとも先に食べていてもいいのだろうか。
僕がついに箸に手をつけようとしたとき、優柔不断少年が帰ってきた。
「ごめん!遅れた」
「遅すぎだよ」
これだけ時間をかけたのに、Aはデミグラスハンバーグを頼んだようだ。
デミグラスハンバーグってそんなに時間をかけて選ぶ料理だったっけ?
「「いただきます」」
少しお腹に入れてから僕は切り出した。
「で、あの物騒な“謎文書X”なんだけどさ」
「うん。何故ボクの口を塞いだの?」
「だってさ………アレが国家秘密文書だったら担当者に聞かれるとマズくない?
担当者もあっちサイドの人間なんだし。わざわざ怪しまれることをする必要はない」
「あーね。ビックリしたよ、もう」
「ごめんて」
Aは考えるポーズを取る。
議論っぽいことをしても緊張感がないのが彼だ。
ポーズが様になっていない。
数秒たって彼はポツリと呟いた。
「でも………その可能性もあるね。マジエ王国の秘密文書かもしれない」
内心、否定してほしかった僕は小さくため息をついた。
ドラマや小説なら必ず殺し屋が襲いかかってくる領域に、僕は片足を突っ込んでしまったのか。
「仮にそうだとしたら、この国は何を仕出かそうとしているんだと思う?」
「うーん。………何か………マジエ王国の“黒い部分”を知ってしまった人を………消そうとしている?」
「………それって僕ら以外にもってことだね」
「あっそっか。ボクらも“黒い部分”を知ろうとしているのか」
やはり緊張感というものが欠如している。
この国の秘密を知った人の末路が例の文書だとしたら………。
急に寒くなってきたので温かいうどんの出汁を飲む。
「例えば、国家秘密って何がある?」
「えーボクばっかに聞きすぎだよー」
「国王の不倫………とか?」
「普通のスキャンダルじゃん。そんなんで消そうとするー?」
適当なツッコミを受け僕は考え直す。
「隠し子がいる!」
「以下同文!」
「あちゃー」
「あちゃー、じゃないよ!」
やっとここで僕は真面目に考え始める。
「前国王が殺人を犯したことがあり、秘密を知っている人はその事件の唯一の目撃者である。とか?」
「やっと真面目なのが来た。まぁありそうだね」
やや薄めのリアクション。
仕方がないので疑問を挟むことにした。
「そもそも殺人ってさ魔法でやるのかな」
「そうなんじゃない? デッド系の魔法をかければ一発だし。それに後処理も楽そう」
「でもさ。だったら目撃者もそれで殺ればよくない?」
僕の指摘にAが小さく叫ぶ。
「確かにー!」
あと少しで何かが分かる気がしたが、時間が迫ってきていたので一旦終了した。
そしてうどんを大急ぎで詰め込んだ。
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