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1章 召喚先でも仲良く
010 体育祭① 〜徒競走〜
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注:〈〉はアナウンスです
「さあ!体育祭だね!」
ワクワクが止まらないという表情でAが手をパタパタさせた。
要するにペンギンである。
誤解を受けるかもしれないが、侮辱しているわけではない。
「A、今から騒いでいたら体力なくなるよ」
「大丈夫だよ暇柱。ボクの体力は無限だ!」
Aのキャラが崩壊している。
空を飛べそうなほど手を動かしている。
「人間には体力の限界があるのですよ、主さま」
「なに言ってるのさ!」
聞いといてくれ。
「えーっと?最初の競技はなんだっけ」
夜久が体育祭の冊子を取り出す前に万象が徒競走だと答えた。
「そうだった、最初だったわ………」
「大丈夫、僕も徒競走」
嘆きのポーズを取る暇柱にフォローを送る。
「いえ、コウスケさんの徒競走と暇柱さんの徒競走は重みが違うと思います」
ビフテキくんがそんなことを言い出した。
「どこが違うのさ」
「コウスケさんは徒競走だけですが、暇柱さんはまだ競技出るんでしょう?」
「障害物競走にも出る」
「でもさ、言っとくけどビフテキくんも1種目だけでしょ」
「………僕は補佐役枠なのです。分かっているでしょう?」
分かって言ってるんだよ?
「ところでみんなはどの種目に出るの?」
「無視しないでください」
「分かった分かった」
ビフテキくんは引き下がってため息を吐いた。
みんなの出場種目は下のようである。
A:綱引き、障害物競走
夜久:大玉転がし、リレー
英華:徒競走、騎馬戦
サクラ:綱引き、騎馬戦
万象:リレー
Anneさん:綱引き
中佐さん:綱引き
宣浩:大玉転がし、障害物競走
数秒間お互い顔を見合わせた。
「えっとちょっといい? 万象、足速いの?」
「英華ってさらっと毒吐くよな………」
意外そうな顔でそれほどでも? と謙遜した後に、夜久ほどでもないと爆弾発言。
毒をいつも吐いている夜久と、ピンポイントで吐く英華。
英華のほうがコスパいいよな。
「後から来た癖にキャラが被ってるとか冗談じゃないわ」
「そこに先後は関係ないんじゃない?」
「関係あるわよ。ここでの先輩は私。毒舌キャラは渡しなさい」
「いやー。僕のほうが上手だもんね」
かなりどうでもいい。
「そろそろ落ち着いて、2人とも?」
Anneの助け船に乗っかる形で、彼女と万象の選手宣誓を褒めた。
「ありがとう、コウスケくん」
〈体育祭最初の競技である徒競走が始まる3分前です。出場者は集まってください〉
「行かないと」
暇柱が立ち上がった。
「行ってらー」
「頑張ってくださいね」
宣浩がエールを送ってくれた。
「ありがとー」
「頑張ってくるねー」
「ぶっ潰してくるよ!」
僕らは徒競走と書かれたプラカードの元へ走っていった。
結果は可もなく不可もなくだった。
6人ごとに走ったのだが僕は4位だった。
言い訳をさせてもらうと、車椅子生活だったせいで筋力が衰えていただろうし、女王が設定した歩行可能時間内に走り込みを行うということもほぼ不可能だったのだ。
暇柱は2位だった。
1位の男子とは接戦でとても面白かった。
堂々の1位の英華は走り終わってこちらにピースした。
挑発された夜久がぐぬぬと闘志を燃やしている。軽いな。
「お疲れさまでしたー!」
Aが暇柱の肩を掴んで前後に揺らす。
暇柱はされるがままの状態だった。
「お疲れさま。A、手を離してあげて」
「2位、惜しかったな」
万象は暇柱の肩を叩いた。
万象はAが暇柱の肩を掴んでいるのを見ていなかったのか、その上に手を降ろしたので、実質Aの手を叩いたことになる。
「万象。痛い」
ほら痛がってる。
「めっちゃ接戦だったよ」
僕は手の置き場がない彼の肩を見ながら言った。
手を上げたはいいが万象の二の舞になってしまった。
「コウスケさんも頑張りましたね」
ビフテキくんが微妙に褒められているような気がしない言い方をする。
いや、この場合は褒めていないだろう。
この効率厨がボカすなんてそれ以外考えられない。
「“も”ってなに!“も”って!」
「細かいですよ」
「細かくない!超重要事項!」
「面倒くさいですね………。サクラさんそう思いませんか?」
「………」
聞こえていない?
「大丈夫ですか~?」
「ハッ………ごめんなさい。何て?」
「聞いてなかったんですか!」
「俺昨日あんま寝れてないの!」
サクラってあんまり行事に興奮しないタイプかと思っていたが、そうでもないらしい。
「まあ昨夜うるさかったですもんね」
若干ズレた指摘をするビフテキくん。サクラも首を傾げている。
もしかして異世界にはこういう学校行事のようなものはないのか。
身分社会だと公平な争いというものがやりにくいだろうし。
「で、さっきは何て言ったの?」
「いや?特段意味のあることを言ったわけじゃない」
「コウスケさん?」
ビフテキくんは困ったような声で僕の名を呼ぶ。
そうだろう? ただの言い合いだ。
特段意味のない………普通の友人がやり合うような言い合いだ。
ペットボトルを貰いに行った。
喋っているグループはあったけど僕らご近所組合より騒いでいるグループはなかった。
僕は彼らと並んだら不釣り合いなんだよ。
みんな*を***ことないんだ。前は償わなきゃと思った。
**を供養しなきゃと思った。
まだ**は14歳だったのに。
まだ沢山話したかった。笑い合いたかった。
でも………。
僕にできることなんてないんじゃないかと思う。
償いなんてできるわけない。
非力な個人に、大人ですらない子どもに何ができるって言うんだ? 過去の自分に呆れる。
こういう世界なら数の暴力や年齢による制限もないかもな。
大魔法を使えたら、子どもだろうと1人だろうと平民だろうと世界を変えられるだろう。
変えられるから勇者や聖女なんてのが存在できるんだ。
………僕は生まれる世界を間違えたのか。
違うな。
僕はどこの世界に生まれても変わらないと思う。
行動力なんてない、大切な人でさえ守れない、いてもいなくても社会に影響はない。
世界のパーツだから。替えはいくらでも効くから。
そうであってほしい。
彼女が生きた世界なんだから、それぐらい優秀でいてくれよ………。
☆?side
対象が立ち止まった。
俺も立ち止まった。
仕事だからしょうがないとはいえ、俺の得意分野は少年の更生じゃないぞ?
仲介者よ、情報屋に不釣り合いな仕事を出すな。
まあ一応ターゲットは知り合いだし見張りくらいはやってやるが。
それにしても負のオーラが強すぎるぞ?
「さあ!体育祭だね!」
ワクワクが止まらないという表情でAが手をパタパタさせた。
要するにペンギンである。
誤解を受けるかもしれないが、侮辱しているわけではない。
「A、今から騒いでいたら体力なくなるよ」
「大丈夫だよ暇柱。ボクの体力は無限だ!」
Aのキャラが崩壊している。
空を飛べそうなほど手を動かしている。
「人間には体力の限界があるのですよ、主さま」
「なに言ってるのさ!」
聞いといてくれ。
「えーっと?最初の競技はなんだっけ」
夜久が体育祭の冊子を取り出す前に万象が徒競走だと答えた。
「そうだった、最初だったわ………」
「大丈夫、僕も徒競走」
嘆きのポーズを取る暇柱にフォローを送る。
「いえ、コウスケさんの徒競走と暇柱さんの徒競走は重みが違うと思います」
ビフテキくんがそんなことを言い出した。
「どこが違うのさ」
「コウスケさんは徒競走だけですが、暇柱さんはまだ競技出るんでしょう?」
「障害物競走にも出る」
「でもさ、言っとくけどビフテキくんも1種目だけでしょ」
「………僕は補佐役枠なのです。分かっているでしょう?」
分かって言ってるんだよ?
「ところでみんなはどの種目に出るの?」
「無視しないでください」
「分かった分かった」
ビフテキくんは引き下がってため息を吐いた。
みんなの出場種目は下のようである。
A:綱引き、障害物競走
夜久:大玉転がし、リレー
英華:徒競走、騎馬戦
サクラ:綱引き、騎馬戦
万象:リレー
Anneさん:綱引き
中佐さん:綱引き
宣浩:大玉転がし、障害物競走
数秒間お互い顔を見合わせた。
「えっとちょっといい? 万象、足速いの?」
「英華ってさらっと毒吐くよな………」
意外そうな顔でそれほどでも? と謙遜した後に、夜久ほどでもないと爆弾発言。
毒をいつも吐いている夜久と、ピンポイントで吐く英華。
英華のほうがコスパいいよな。
「後から来た癖にキャラが被ってるとか冗談じゃないわ」
「そこに先後は関係ないんじゃない?」
「関係あるわよ。ここでの先輩は私。毒舌キャラは渡しなさい」
「いやー。僕のほうが上手だもんね」
かなりどうでもいい。
「そろそろ落ち着いて、2人とも?」
Anneの助け船に乗っかる形で、彼女と万象の選手宣誓を褒めた。
「ありがとう、コウスケくん」
〈体育祭最初の競技である徒競走が始まる3分前です。出場者は集まってください〉
「行かないと」
暇柱が立ち上がった。
「行ってらー」
「頑張ってくださいね」
宣浩がエールを送ってくれた。
「ありがとー」
「頑張ってくるねー」
「ぶっ潰してくるよ!」
僕らは徒競走と書かれたプラカードの元へ走っていった。
結果は可もなく不可もなくだった。
6人ごとに走ったのだが僕は4位だった。
言い訳をさせてもらうと、車椅子生活だったせいで筋力が衰えていただろうし、女王が設定した歩行可能時間内に走り込みを行うということもほぼ不可能だったのだ。
暇柱は2位だった。
1位の男子とは接戦でとても面白かった。
堂々の1位の英華は走り終わってこちらにピースした。
挑発された夜久がぐぬぬと闘志を燃やしている。軽いな。
「お疲れさまでしたー!」
Aが暇柱の肩を掴んで前後に揺らす。
暇柱はされるがままの状態だった。
「お疲れさま。A、手を離してあげて」
「2位、惜しかったな」
万象は暇柱の肩を叩いた。
万象はAが暇柱の肩を掴んでいるのを見ていなかったのか、その上に手を降ろしたので、実質Aの手を叩いたことになる。
「万象。痛い」
ほら痛がってる。
「めっちゃ接戦だったよ」
僕は手の置き場がない彼の肩を見ながら言った。
手を上げたはいいが万象の二の舞になってしまった。
「コウスケさんも頑張りましたね」
ビフテキくんが微妙に褒められているような気がしない言い方をする。
いや、この場合は褒めていないだろう。
この効率厨がボカすなんてそれ以外考えられない。
「“も”ってなに!“も”って!」
「細かいですよ」
「細かくない!超重要事項!」
「面倒くさいですね………。サクラさんそう思いませんか?」
「………」
聞こえていない?
「大丈夫ですか~?」
「ハッ………ごめんなさい。何て?」
「聞いてなかったんですか!」
「俺昨日あんま寝れてないの!」
サクラってあんまり行事に興奮しないタイプかと思っていたが、そうでもないらしい。
「まあ昨夜うるさかったですもんね」
若干ズレた指摘をするビフテキくん。サクラも首を傾げている。
もしかして異世界にはこういう学校行事のようなものはないのか。
身分社会だと公平な争いというものがやりにくいだろうし。
「で、さっきは何て言ったの?」
「いや?特段意味のあることを言ったわけじゃない」
「コウスケさん?」
ビフテキくんは困ったような声で僕の名を呼ぶ。
そうだろう? ただの言い合いだ。
特段意味のない………普通の友人がやり合うような言い合いだ。
ペットボトルを貰いに行った。
喋っているグループはあったけど僕らご近所組合より騒いでいるグループはなかった。
僕は彼らと並んだら不釣り合いなんだよ。
みんな*を***ことないんだ。前は償わなきゃと思った。
**を供養しなきゃと思った。
まだ**は14歳だったのに。
まだ沢山話したかった。笑い合いたかった。
でも………。
僕にできることなんてないんじゃないかと思う。
償いなんてできるわけない。
非力な個人に、大人ですらない子どもに何ができるって言うんだ? 過去の自分に呆れる。
こういう世界なら数の暴力や年齢による制限もないかもな。
大魔法を使えたら、子どもだろうと1人だろうと平民だろうと世界を変えられるだろう。
変えられるから勇者や聖女なんてのが存在できるんだ。
………僕は生まれる世界を間違えたのか。
違うな。
僕はどこの世界に生まれても変わらないと思う。
行動力なんてない、大切な人でさえ守れない、いてもいなくても社会に影響はない。
世界のパーツだから。替えはいくらでも効くから。
そうであってほしい。
彼女が生きた世界なんだから、それぐらい優秀でいてくれよ………。
☆?side
対象が立ち止まった。
俺も立ち止まった。
仕事だからしょうがないとはいえ、俺の得意分野は少年の更生じゃないぞ?
仲介者よ、情報屋に不釣り合いな仕事を出すな。
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