9 / 25
1章 召喚先でも仲良く
008 Wordと考察
しおりを挟む
13時5分前。僕は本日の仕事場・第2コンピューター室に入った。5分前行動を破るとステータスが減点されるので必死だ。
さらっと全体を見たが全員間に合ったようだ。僕はご近所さんの1人である宣浩を見つけたので彼の隣に座った。彼はちらっと僕を見たがすぐに目を逸らした。
「こんにちは」
「………こんにちは」
そのとき今日の仕事の指示者が入室したので慌てて説明を聞く体制になる。幸いにも今日の指示者はとても優しいと評判の若い女性だった。彼女なら少し喋るくらい許してくれそうだと安堵する。
「今日は説明書を作っていただきます」
ビフテキくんから聞いたのだが、初期の召喚者にコンピューターオタクがいたらしい。
彼女はパソコンの素晴らしさを上位貴族に訴えた。そんなに言うなら作ってみせろと要求された彼女は機材をもらって作ったのだとか。自力で作ったなんて彼女の愛が伝わってくる。
それに感動した先王は彼女を王国に取り込むため爵位を与え、魔道具部長に任命した。そして、彼女はパソコンを量産し新たな魔道具を作った。もう彼女は亡くなっているが彼女の娘が爵位を継いでいるそうだ。
こういうわけで、いまマジエ王国にはパソコンがあるのだ。
「いまから配布しますね」
説明が終わる前から宣浩はパソコンの電源ボタンを長押ししていた。タイピングが遅いのかなと特に考えずに僕も電源を入れる。
地球でいうwordのようなソフトを起動させていると、隣からカタカタとキーボードの音がし始めた。宣浩が叩いているわけだが、そのスピードは僕より随分速かった。あっという間に1ページ分の文章を打ち終わり、彼はどんどん文字の大きさや色を弄っていく。
その素晴らしい手捌きに釘付けになっていたが、彼は1ページ完成させると僕を見やり左手でパソコンを指した。早く取りかかれということらしい。謝るポーズを取ってキーボードに手を置いたが、どうにも隣のキーボードを叩く音が気になってしまう。
1ページを完成させて隣のパソコンを見ると『P8』と表示されていた。何というタイピング力だ。自信が削られていく。
「速いね」
僕の言葉が唐突すぎたのか宣浩の手が止まった。そして、これ見よがしにため息を吐き億劫そうに口を開いた。
「………ありがとう」
そしてすぐパソコンに向き直った。
………うん、僕嫌われたよ。はあまだ探りたかったのにどうしよう。
今日はみんな予定があるようで一緒に食べる人がいないので、1人で考察してみようと思う。
異世界/マジエ王国のこと、そして………ご近所組のこと。
システム上、僕も含めて全員何かしら問題を抱えている。
まず中佐さんやAnneと話したマジエ王国について。
一言で言うならば予想外に高文明である。パソコンやエレベーター、冷暖房が存在している。異世界人というか召喚者が持ってきた知識によって発展してきた面は否めないがその基盤となる技術があったことは事実だ。また、口は悪いが所詮アマチュアである中高生の指南のみで製品を作れて、それらが全てここ50年で行われたというのは驚異的である。
しかもこの国は絶対王政のくせに、能力の高い異世界人を貴族として取り立てている。柔軟性まであるようだ。これは、王族が民主主義国家が多い地球の実情を知っていて参考にしているからだと考えられる。
僕は地球に帰りたい。すると、取り立てられても困るので__特異な才能を持っているわけではないので取り越し苦労であろうが__王国とは関わらない方向に行動しようと思う。
次にご近所組について。こちらは生活に直結するので重要度が高い。
さっきも言った通り、システム上、各々ここに召喚されるだけの大きな問題があることは間違いない。深く関わりたくない僕にとって、彼らの爆弾はなんなのか把握しておいたほうがいい。とはいえ巧妙に隠している人もいるので分かることだけまとめようと思う。
分かりやすいのは万象、Anne、宣浩の3人だ。
万象は言わずもがな、お面がヒントだ。お面がする働きはただ1つ。顔を隠す。考えられるのはマジマジと見られるほどの傷があるとか、ブスなどでコンプレックスになっているとかだろうか。ひとまず彼の顔については触れるべきではなかろう。
Anneは責任感が人一倍強い。自分を追い詰めすぎてしまい………ということか。彼女の目の届かない範囲で深刻なことをやらかすとトラウマが出てきそうだ。
宣浩は間違いなく人と関わるのを避けている。僕が話しかけなかったという可能性を考慮しさっき話しかけてみたが逆に嫌われた。よって、彼自身が話したがらなくて意識して話さないという選択をしている。そう話せないではなく話さない。彼には人間不信の傾向がある。………まあ僕が言えたことじゃないが。彼は人との関わりを極力絶っていて僕は深い付き合いを避けている。彼のほうが人間不信度が高いのでこういう差が出ているのだろう。
次にヒントはある人たち。夜久、英華だ。
彼女たちには大きな共通点がある。毒舌だという点だ。冷たいようだがそれで問題を起こしたのではないだろうか。具体的に何があったかは全く分からないのでこの括りにしている。
最後にヒントがゼロ、いわゆる取り付く島もない人たち。A、暇柱、中佐さん、サクラの4人。
Aと暇柱はテンション上げ隊とでも言うべきか。Aのほうが危ない発言をしていて万象を尻に敷いていることから断片的に分からなくもないが、類推するには情報が少なすぎる。暇柱は全く分からない。
また、中佐さんは金銭的な問題はなさそうだし性格も大人っぽくて問題を起こしたとは考えにくい。どちらかといえば巻き込まれたと考えるほうが無難だが、そうすると召喚された理由にならない。
最後にサクラ。これと言った特徴がなく(せいぜい俺っ子ってぐらい)どう考えていいかも分からない。
うーんやっぱり難しいかもな。………あ、ビフテキくん来た。
さらっと全体を見たが全員間に合ったようだ。僕はご近所さんの1人である宣浩を見つけたので彼の隣に座った。彼はちらっと僕を見たがすぐに目を逸らした。
「こんにちは」
「………こんにちは」
そのとき今日の仕事の指示者が入室したので慌てて説明を聞く体制になる。幸いにも今日の指示者はとても優しいと評判の若い女性だった。彼女なら少し喋るくらい許してくれそうだと安堵する。
「今日は説明書を作っていただきます」
ビフテキくんから聞いたのだが、初期の召喚者にコンピューターオタクがいたらしい。
彼女はパソコンの素晴らしさを上位貴族に訴えた。そんなに言うなら作ってみせろと要求された彼女は機材をもらって作ったのだとか。自力で作ったなんて彼女の愛が伝わってくる。
それに感動した先王は彼女を王国に取り込むため爵位を与え、魔道具部長に任命した。そして、彼女はパソコンを量産し新たな魔道具を作った。もう彼女は亡くなっているが彼女の娘が爵位を継いでいるそうだ。
こういうわけで、いまマジエ王国にはパソコンがあるのだ。
「いまから配布しますね」
説明が終わる前から宣浩はパソコンの電源ボタンを長押ししていた。タイピングが遅いのかなと特に考えずに僕も電源を入れる。
地球でいうwordのようなソフトを起動させていると、隣からカタカタとキーボードの音がし始めた。宣浩が叩いているわけだが、そのスピードは僕より随分速かった。あっという間に1ページ分の文章を打ち終わり、彼はどんどん文字の大きさや色を弄っていく。
その素晴らしい手捌きに釘付けになっていたが、彼は1ページ完成させると僕を見やり左手でパソコンを指した。早く取りかかれということらしい。謝るポーズを取ってキーボードに手を置いたが、どうにも隣のキーボードを叩く音が気になってしまう。
1ページを完成させて隣のパソコンを見ると『P8』と表示されていた。何というタイピング力だ。自信が削られていく。
「速いね」
僕の言葉が唐突すぎたのか宣浩の手が止まった。そして、これ見よがしにため息を吐き億劫そうに口を開いた。
「………ありがとう」
そしてすぐパソコンに向き直った。
………うん、僕嫌われたよ。はあまだ探りたかったのにどうしよう。
今日はみんな予定があるようで一緒に食べる人がいないので、1人で考察してみようと思う。
異世界/マジエ王国のこと、そして………ご近所組のこと。
システム上、僕も含めて全員何かしら問題を抱えている。
まず中佐さんやAnneと話したマジエ王国について。
一言で言うならば予想外に高文明である。パソコンやエレベーター、冷暖房が存在している。異世界人というか召喚者が持ってきた知識によって発展してきた面は否めないがその基盤となる技術があったことは事実だ。また、口は悪いが所詮アマチュアである中高生の指南のみで製品を作れて、それらが全てここ50年で行われたというのは驚異的である。
しかもこの国は絶対王政のくせに、能力の高い異世界人を貴族として取り立てている。柔軟性まであるようだ。これは、王族が民主主義国家が多い地球の実情を知っていて参考にしているからだと考えられる。
僕は地球に帰りたい。すると、取り立てられても困るので__特異な才能を持っているわけではないので取り越し苦労であろうが__王国とは関わらない方向に行動しようと思う。
次にご近所組について。こちらは生活に直結するので重要度が高い。
さっきも言った通り、システム上、各々ここに召喚されるだけの大きな問題があることは間違いない。深く関わりたくない僕にとって、彼らの爆弾はなんなのか把握しておいたほうがいい。とはいえ巧妙に隠している人もいるので分かることだけまとめようと思う。
分かりやすいのは万象、Anne、宣浩の3人だ。
万象は言わずもがな、お面がヒントだ。お面がする働きはただ1つ。顔を隠す。考えられるのはマジマジと見られるほどの傷があるとか、ブスなどでコンプレックスになっているとかだろうか。ひとまず彼の顔については触れるべきではなかろう。
Anneは責任感が人一倍強い。自分を追い詰めすぎてしまい………ということか。彼女の目の届かない範囲で深刻なことをやらかすとトラウマが出てきそうだ。
宣浩は間違いなく人と関わるのを避けている。僕が話しかけなかったという可能性を考慮しさっき話しかけてみたが逆に嫌われた。よって、彼自身が話したがらなくて意識して話さないという選択をしている。そう話せないではなく話さない。彼には人間不信の傾向がある。………まあ僕が言えたことじゃないが。彼は人との関わりを極力絶っていて僕は深い付き合いを避けている。彼のほうが人間不信度が高いのでこういう差が出ているのだろう。
次にヒントはある人たち。夜久、英華だ。
彼女たちには大きな共通点がある。毒舌だという点だ。冷たいようだがそれで問題を起こしたのではないだろうか。具体的に何があったかは全く分からないのでこの括りにしている。
最後にヒントがゼロ、いわゆる取り付く島もない人たち。A、暇柱、中佐さん、サクラの4人。
Aと暇柱はテンション上げ隊とでも言うべきか。Aのほうが危ない発言をしていて万象を尻に敷いていることから断片的に分からなくもないが、類推するには情報が少なすぎる。暇柱は全く分からない。
また、中佐さんは金銭的な問題はなさそうだし性格も大人っぽくて問題を起こしたとは考えにくい。どちらかといえば巻き込まれたと考えるほうが無難だが、そうすると召喚された理由にならない。
最後にサクラ。これと言った特徴がなく(せいぜい俺っ子ってぐらい)どう考えていいかも分からない。
うーんやっぱり難しいかもな。………あ、ビフテキくん来た。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ようこそ精神障害へ
まる1
ライト文芸
筆者が体験した精神障碍者自立支援施設での、あんなことやこんな事をフィクションを交えつつ、短編小説風に書いていきます。
※なお筆者は精神、身体障害、難病もちなので偏見や差別はなく書いていこうと思ってます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる