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1章 召喚先でも仲良く
007 異世界文明と相談
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僕は、5分前のチャイムが鳴り終わる直前に教室へ飛び込んだ。
スマートウォッチがピコンとメールが届いたことを知らせた。
こんな時間にメールを寄越すのはただ1人。
『寒いからって遅刻しないでくださいね?』
__ビフテキくんだ。
窓側のいちばん後ろの席で小さくAnneが手を振っている。
僕は彼女の隣の席に座った。
外は快晴だったが冷たい風が入ってきて、体がブルリと震えた。
「コウスケくんギリギリね。朝も会わなかったし。どうしたの?」
カバンから数学の教科書とノートを取り出して机に置いた。
「今日、寒すぎて中々布団から出られなくて。朝食も少ししか食べてないんだ」
欠伸をしようとする口を必死ですぼめ手で覆い隠した。
「10月に入って本当に寒くなったわ。暖房つかないのかな」
Anneは右肘で教科書を押さえて頬杖をつく。
手が白くて綺麗だなと思った。
「そもそも暖房は設置されてるの?」
「冷房はつくんだから暖房もあると思うわ」
「へえ。意外と高文明?」
つまりAnneは、暖房がつき終わった3月下旬以降にマジエ王国に召喚された、ということか。
僕は数学の教科書を開き今日のページを読み始めた。
2次関数か………。もう忘れた。
「コウスケくん。あの先生、私の社会担任だわ」
教壇へ目を向けた。
………プレンティスではないか。
「あいつ、僕の担任だよ」
ちなみに社会の授業内容はマジエ王国とその周辺国についてだ。
国によって差が激しく、王国民は地球について詳しくないからだとか。
異世界好きにはたまらないのではないだろうか。
「本当? 奇遇ね」
「それな。あの人、評判悪いよね」
「私の耳にも入ってくるわ」
「ある意味公平だけどどの生徒にも無関心で、授業は睡眠薬だっていう」
「いつも半分くらいの人が寝ているわ。ひどく強力」
さて、僕は昼ご飯を持ってエレベーターに乗っている。
Anneの部屋に向かっているのだ。
………ただ一緒にご飯食べるだけだ。
ていうか女子と一緒に食事するのなんていつぶりだろ。
部屋番を凝視して合っているよな、と念を押す。
10回ほど確かめてドアノブに手をかけたとき、バンッとドアが迫ってきた。
僕は慌てて避けようとしたが間に合わず尻もちをついた。
ビックリしたーと呑気に考えているとドアの向こうからAnneが顔を覗かせた。
「大丈夫!? どこか怪我してない!?」
僕とは全く違う慌てようである。
面白いなぁとか思いながらも怪我はないことを伝える。
それでも訝しがる彼女に笑いが止まらなくなってしまった。
「そんなに笑っていられるなら大丈夫ね。本当にビックリしたんだから。捻挫とかしたらどうしようかと」
「Anne慌てすぎ」
「コウスケくんは笑いすぎ」
「そうかなあ」
笑いが収まらず地べたでのたうち回っていた。
しばらく珍しいものかの如く観察されていたが、彼女はクスッと笑ったことを皮切りに爆笑し始めてしまった。
僕はふと大事なことを思い出した。
「あっ」
お弁当! 大事な昼ご飯は無事か!?
僕は這って昼食に辿り着き中を開けた。
少しグチャッとはなっていたが味はそれほど混ぜってなさそうに見えた。
「よかった!」
「お弁当、無事だったの?」
「うん。多少の味の混ざりさえ許容すれば」
「安心したわ。もし私のせいであなたに怪我させて、その上ご飯をめちゃくちゃにしたとなったら、どう弁償しようかと………」
「大丈夫だってそのくらい」
久しぶりに女子の部屋に入って昼食を食べているうちに気分が明るくなってきた。
と言ってもまだ尻がヒリヒリして痛い。
Anneがお湯を沸かしティーポットに注いだ。
ティーパックの中身が溶け出して赤茶色に広がっていく。
「紅茶飲むんだ?」
「うん。これはアールグレイだけどコウスケくんはどうする?」
「お言葉に甘えていただきます」
Anneはティーポットを揺らしてかき混ぜると、2つのティーカップにゆっくりと注いだ。
いい香りが漂った。
「ミルクとかは?」
「ストレートで」
「Anne、なんで部屋に呼んだの? 食べるだけなら大広間でもよかったでしょ?」
食べ始めてもなかなか本題を切り出さないので、言いやすいタイミングを作る。
「………他人には聞かれたくなくて。ちょっと相談があるの」
「相談?」
人間関係についての相談は受け付けられないけど。
「聞いてもらえるかな?」
「解決はできないよ。でも聞くだけなら」
「聞いてくれるだけでもいいよ。ありがとう」
「全然」
それが、深い関係になりたくない僕ができる唯一のことだから。
「………あのね、最近よく眠れないの。寝ついたと思っても夢見が悪くてすぐ起きてしまうのよ」
「ここに来る前から夢はよく見るけど、具体的にどんな夢を見るの?」
「………言わなきゃダメ?」
「どちらでもどうぞ」
そういうことなら僕より中佐さんのほうが適している。
彼は僕より知識が多そうだし冷静な考え方ができるからだ。
何故出会ってから日が浅い僕に持ってきたのか。
いや、ご近所組のメンバーの中で最も他人に近い僕のほうがかえって相談しやすいのかもしれない。
「………ここに召喚される原因となったことの回想だとだけ伝えておくね」
「よく分かる」
なるほどの極みです。
「コウスケくんもなの?」
「あるよー」
「そうなんだ。私だけじゃないのね」
「Anneは責任感強いから大変そうだなあ」
というなかなか無責任な言葉を受けAnneはコクコクと首がもげそうである。
普段の彼女からは想像が難しいほど、賛同者がいて嬉しいらしかった。
ティーカップの氷がカランと音を立てて溶けた。
スマートウォッチがピコンとメールが届いたことを知らせた。
こんな時間にメールを寄越すのはただ1人。
『寒いからって遅刻しないでくださいね?』
__ビフテキくんだ。
窓側のいちばん後ろの席で小さくAnneが手を振っている。
僕は彼女の隣の席に座った。
外は快晴だったが冷たい風が入ってきて、体がブルリと震えた。
「コウスケくんギリギリね。朝も会わなかったし。どうしたの?」
カバンから数学の教科書とノートを取り出して机に置いた。
「今日、寒すぎて中々布団から出られなくて。朝食も少ししか食べてないんだ」
欠伸をしようとする口を必死ですぼめ手で覆い隠した。
「10月に入って本当に寒くなったわ。暖房つかないのかな」
Anneは右肘で教科書を押さえて頬杖をつく。
手が白くて綺麗だなと思った。
「そもそも暖房は設置されてるの?」
「冷房はつくんだから暖房もあると思うわ」
「へえ。意外と高文明?」
つまりAnneは、暖房がつき終わった3月下旬以降にマジエ王国に召喚された、ということか。
僕は数学の教科書を開き今日のページを読み始めた。
2次関数か………。もう忘れた。
「コウスケくん。あの先生、私の社会担任だわ」
教壇へ目を向けた。
………プレンティスではないか。
「あいつ、僕の担任だよ」
ちなみに社会の授業内容はマジエ王国とその周辺国についてだ。
国によって差が激しく、王国民は地球について詳しくないからだとか。
異世界好きにはたまらないのではないだろうか。
「本当? 奇遇ね」
「それな。あの人、評判悪いよね」
「私の耳にも入ってくるわ」
「ある意味公平だけどどの生徒にも無関心で、授業は睡眠薬だっていう」
「いつも半分くらいの人が寝ているわ。ひどく強力」
さて、僕は昼ご飯を持ってエレベーターに乗っている。
Anneの部屋に向かっているのだ。
………ただ一緒にご飯食べるだけだ。
ていうか女子と一緒に食事するのなんていつぶりだろ。
部屋番を凝視して合っているよな、と念を押す。
10回ほど確かめてドアノブに手をかけたとき、バンッとドアが迫ってきた。
僕は慌てて避けようとしたが間に合わず尻もちをついた。
ビックリしたーと呑気に考えているとドアの向こうからAnneが顔を覗かせた。
「大丈夫!? どこか怪我してない!?」
僕とは全く違う慌てようである。
面白いなぁとか思いながらも怪我はないことを伝える。
それでも訝しがる彼女に笑いが止まらなくなってしまった。
「そんなに笑っていられるなら大丈夫ね。本当にビックリしたんだから。捻挫とかしたらどうしようかと」
「Anne慌てすぎ」
「コウスケくんは笑いすぎ」
「そうかなあ」
笑いが収まらず地べたでのたうち回っていた。
しばらく珍しいものかの如く観察されていたが、彼女はクスッと笑ったことを皮切りに爆笑し始めてしまった。
僕はふと大事なことを思い出した。
「あっ」
お弁当! 大事な昼ご飯は無事か!?
僕は這って昼食に辿り着き中を開けた。
少しグチャッとはなっていたが味はそれほど混ぜってなさそうに見えた。
「よかった!」
「お弁当、無事だったの?」
「うん。多少の味の混ざりさえ許容すれば」
「安心したわ。もし私のせいであなたに怪我させて、その上ご飯をめちゃくちゃにしたとなったら、どう弁償しようかと………」
「大丈夫だってそのくらい」
久しぶりに女子の部屋に入って昼食を食べているうちに気分が明るくなってきた。
と言ってもまだ尻がヒリヒリして痛い。
Anneがお湯を沸かしティーポットに注いだ。
ティーパックの中身が溶け出して赤茶色に広がっていく。
「紅茶飲むんだ?」
「うん。これはアールグレイだけどコウスケくんはどうする?」
「お言葉に甘えていただきます」
Anneはティーポットを揺らしてかき混ぜると、2つのティーカップにゆっくりと注いだ。
いい香りが漂った。
「ミルクとかは?」
「ストレートで」
「Anne、なんで部屋に呼んだの? 食べるだけなら大広間でもよかったでしょ?」
食べ始めてもなかなか本題を切り出さないので、言いやすいタイミングを作る。
「………他人には聞かれたくなくて。ちょっと相談があるの」
「相談?」
人間関係についての相談は受け付けられないけど。
「聞いてもらえるかな?」
「解決はできないよ。でも聞くだけなら」
「聞いてくれるだけでもいいよ。ありがとう」
「全然」
それが、深い関係になりたくない僕ができる唯一のことだから。
「………あのね、最近よく眠れないの。寝ついたと思っても夢見が悪くてすぐ起きてしまうのよ」
「ここに来る前から夢はよく見るけど、具体的にどんな夢を見るの?」
「………言わなきゃダメ?」
「どちらでもどうぞ」
そういうことなら僕より中佐さんのほうが適している。
彼は僕より知識が多そうだし冷静な考え方ができるからだ。
何故出会ってから日が浅い僕に持ってきたのか。
いや、ご近所組のメンバーの中で最も他人に近い僕のほうがかえって相談しやすいのかもしれない。
「………ここに召喚される原因となったことの回想だとだけ伝えておくね」
「よく分かる」
なるほどの極みです。
「コウスケくんもなの?」
「あるよー」
「そうなんだ。私だけじゃないのね」
「Anneは責任感強いから大変そうだなあ」
というなかなか無責任な言葉を受けAnneはコクコクと首がもげそうである。
普段の彼女からは想像が難しいほど、賛同者がいて嬉しいらしかった。
ティーカップの氷がカランと音を立てて溶けた。
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