上 下
4 / 25
1章 召喚先でも仲良く

003 女王陛下と謁見

しおりを挟む
「着いた。陛下の御前まで案内しよう」

 目を開けると赤いカーペットが敷かれている廊下が見えた。
 星空を眺められるサイズの窓があった。

「突き当たりの部屋が謁見室です」

 ビフテキくんがドアを指す。
 コナーさんがドアに手をかけて振り返る。

「私は陛下の側近でのう。悪いがこの後の会話に口を出せぬ」
「はい、ありがとうございました」

 ドアが開いた。
 流石は宮殿。
 荘厳な雰囲気ではあるが清楚な感じもある。白を基調にされていてすごく高そうだ。
 まあ国家の象徴なので当たり前なのだが。

 最も奥に赤い布に金色の飾りが付いた大きな椅子が鎮座している。
 その玉座に座るのは真っ白のドレスに身を包み黄金の王冠を載せている30代の女性だ。
 金色と茶色が混じったブロンドヘア、鋭くも優しくもある青い眼、全身から醸し出される威圧と風格。

「陛下。召喚者を連れて参りました」
「ご苦労様。控えていなさい」
「はっ。もったいなきお言葉」

 コナーさんとの話を打ち切り女王は僕を見た。
 予想を遥かに超えた存在に怖気づいた。

「あなたが新たな召喚者ですか。直答を許します。答えなさい」
「はい。そうです」
「いちから説明しましょう。どうしてあなたを召喚したのかはっきりさせたいでしょう?」

 召喚理由をきちんと説明してくれるならありがたい。

「はい」
「お父様は地球に興味があって皇太子時代に行ったことがあります。心が汚かったと仰っていました。
 それを悔やみ心を鍛え直そうと“シナアース”というプロジェクトを始めました」

 それ、異世界人に利益があるのか?

「もちろん諸侯から反対がありました。
 我々とは関係のない世界の人間に手をかける必要はない、という主張です。
 ですがお父様は“地球人をにすれば臣民は成長できる”として矛を収めさせました」

 つまり官報かなにかで国民に知らせているのだろうか。

「それではここでの生活について少し教えますわね」
「はい」
「あなたはここで生活するのだから働きなさい。当然ね。
 衣食住は全て提供します。そしてこれを肌身離さず持っていなさい。防水仕様です」

 女王はスマートウォッチに近いものを僕に手渡した。
 それはそれは高性能なことだ。

「あなたがいいことをするとその機械のステータスが貯まります。
 それがある数値まで貯まると地球に帰れます。
 そのときには両脚を治しましょう。日中のみ動かせるようにします」

 女王からの視線を受けたヘビンさんが側でコソコソ伝えた。
 彼が後ろに退くと視線を戻した。

「ヘビン、案内を頼みます。お先に」

 女王に頭を垂れて見送ったコナーさんはドアを閉じて振り返る。
 そして宿まで案内すると言いまた重力魔法を使った。

 僕らは「リカメンテ育成場」と看板がある大きな建物に入った。

「ここがお主の宿じゃ。地球の文明に及ぶとは言えぬがそれなりの設備を誇っている」

 コナーさんはそう説明した。
 エレベーターで5階まで上がり部屋まで案内してくれた。

「中はご自由に」

 彼は扉を閉めた。





 翌朝。
 日光が程よく入ってきていい朝だ。体を起こして風を堪能する。

「失礼します、起きてますか?」

 ビフテキくんが入ってきた。
 ………何故か白衣を纏って。

「それが君のデフォ?」
「はい?」

 びっくりしすぎて言葉が足りなかった。

「いつも白衣着てるの?」
「はい、汚しても大丈夫な服なので。汚してお金を払わなきゃいけないっていうのが嫌で」

 ケチなんだね。

「………聞き逃しましたが、僕をくん付けなどしなくてもいいですよ」
「いや」
「地球で言うと、僕はあなたの執事のようなものですから」
「でも君は僕が出会った初めての異世界人だ。初めては特別だよ」
「………そうですか?」
「君もさん付けなんかいらないよ。僕は敬称を付けられるような高貴じゃないし」
「………なら………。初めての友達ですね」
「うん」

 当時は、僕にとっての異世界初めての友達だという意味だと思った。



「ここが大広間。リカメンテ育成場の中でいちばん広い部屋で毎食を取るところです。委員会の集まりで使われたりもします」

 友達になってから約1時間後。
 時間はえせスマートウォッチで判断している。
 ビフテキくんはドアノブに手をかけドアを開けた。

「委員会があるの?」

 大きな3つの縦長テーブルを挟んで3桁以上の人が座っている。
 ここは某魔法使い長編小説の寮か!

「はい、詳しいことは今日聞いてくればいいですよ」
「分かった」

 座席は住んでいる部屋番号で決まっていた。
 朝食を終えるとスマートウォッチに『今日はリカメンテ育成場を周り構図を覚えること。以上』と今日の仕事が送られてくる。
 僕は拍子抜けしてしまった。
 それとも覚えるのに1日かかるほど広いのだろうか。
 まだ高校の中を覚えきれていなかった僕にはキツいかもしれない。



 11時間後。
 僕は夕食を食べている。
 ビフテキくんがやって来た。

「お疲れ様でした。どうでしたか?」
「うーん今日はここをグルグル周っただけだから特にしてはいないよ。それより走れたことに感動した」
「あ~9時から動くようになるんでしたね」

 そう、昨日まで歩けない走れないと役立たずだった僕の足が今日動いたのだ。
 昨夜、女王の使者と名乗る女性が部屋にやって来て伝えてくれた。
 内容は素晴らしいが、急に来られると心臓に悪いのでこれからは交流があるらしいビフテキくんを通してくれと頼んだ。

「色々話聞いてきたよ。出発テスト………とか」
「………そのことなんですが、悪い知らせがあります」
「えっもしかして明日とか言わないよね?」
「申し訳ない」
「はっ!?何それ!?」
「僕もそう思って抗議しようとしたんですが………。内政大臣閣下が直々においでになったので………」
「ここ身分制度がある世界だった」

 貴族と平民が存在する世界にとって権力とは味方であり敵である。
 上流貴族は権力を振り翳せて密を吸っているが、平民は地面を這いつくばって辛酸を舐めさせられている。
 大貴族に譲歩させて交渉するなんてことは論外なのだ。
 無礼者! とその場で物理的に首が飛んでしまうかもしれない。

「頑張ってください。高校生ですもんね」
「でも内容はさっぱり忘れたよ。ビフテキくん教えてよ」
「僕、教えるのには向いていないみたいで」

 そんな呆気からんと言わないでくれ。

「終わった………」

 僕は食事中なのも気にせず机に突っ伏した。
 そして盛大なため息を吐いたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

追われる身にもなってくれ!

文月つらら
ファンタジー
身に覚えがないのに指名手配犯として追われるようになった主人公。捕まれば処刑台送りの運命から逃れるべく、いつの間にか勝手に増えた仲間とともに行き当たりばったりの逃避行へ。どこかおかしい仲間と主人公のドタバタ冒険ファンタジー小説。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

チョメチョメ少女は遺された ~変人中学生たちのドタバタ青春劇~

ほづみエイサク
青春
 お気に入り登録、応援等、ぜひともよろしくお願いいたします!  鈴木陸は校内で探し物をしている最中に『なんでも頼み事を聞いてくれるヤツ』として有名な青木楓に出会う。 「その悩み事、わたしが解決致します」  しかもモノの声が聞こえるという楓。  陸が拒否していると、迎えに来た楓の姉の君乃に一目ぼれをする。  招待された君乃の店『Brugge喫茶』でレアチーズケーキをご馳走された陸は衝撃を受ける。  レアチーズケーキの虜になった陸は、それをエサに姉妹の頼みを聞くことになる 「日向ぼっこで死にたい」  日向音流から珍妙な相談を受けた楓は陸を巻き込み、奔走していく  レアチーズケーキのためなら何でもする鈴木陸  日向ぼっこをこよなく愛する日向音流  モノの声を聞けて人助けに執着する青木楓  三人はそれぞれ遺言に悩まされながら化学反応を起こしていく ――好きなことをして幸せに生きていきなさい  不自由に縛られたお祖父ちゃんが遺した ――お日様の下で死にたかった  好きな畑で死んだじいじが遺した ――人助けをして生きていきなさい。君は  何も為せなかった恩師?が遺した   これは死者に縛られながら好きを叫ぶ物語。

音が光に変わるとき

しまおか
大衆娯楽
黒人顔の少年、巧が入部したサッカークラブに、ある日年上の天才サッカー少女の千夏が加入。巧は千夏の練習に付き合う。順調にサッカー人生を歩んでいた千夏だったが突然の不幸により、巧と疎遠になる。その後互いに様々な経験をした二人は再会。やがて二人はサッカーとは違う別のスポーツと出会ったことで、新たな未来を目指す。しかしそこに待っていたのは……

処理中です...