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1章 召喚先でも仲良く

001 事故で大切なものを失った僕

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「大丈夫? 名前言え………」

 頭がガンガンして非常に痛くてたまらない。
 夢の世界に逃げようとしても、身体の痛みが全力で逃さぬとばかりに通せんぼする。

 そして全身の悲鳴だけでは収まらず次第に熱を帯びてきた。
 暑さと痛みが混ぜ合わさりもう何が何だが分からない。
 周りに人がいて何か言っているのは分かるが、集中できなくて具体的なことは分からない。

 すると段々呼吸が苦しくなってきた。
 荒くなっていく呼吸を聞きつけたのか、誰かが口周りに何かを置き頭を持ち上げてゴムをかけた。
 多少は呼吸しやすくなったがそう大して変わらない。

 僕、どうしてこうなったんだっけ………。
 このまま死ぬのかな。

「血圧70まで低下!」
「AED準備!」
「了解!」

 その言葉から更に騒がしくなった。
 熱はいくらか引いていったが逆に寒い。
 それに比例するように意識がボヤけていった。




 ピーッピーッ。
 ベッドサイドモニター(心電図や心拍数が表示される機械)が今日も元気に稼働している。

 今日からみんなは夏休みかなあ。
 もう戻れないんだろうな。
 は………、考えると辛いからもう忘れるべきなのかな。

 色々大事なモノを失ったあの事故から1週間になる。
 あのときトラックにかれてしまった僕らは、運転手の所属する会社から賠償金をもらえると聞いた。
 恨んでいないと言えば嘘になるが事故だと割り切れるよう努力している。

 被害が重大だった。
 例えば僕の足。
 ちょん切った訳ではないけどもう動かない。
 痙攣ぐらいはするだろうがもう自分の意思で動くことはないという。
 神経がガチョビーンと切れてしまったのだ。
 変な擬態語を使っているがまだ普通に何でもないようには語れないから許してほしい。
 今も、動け動け~と念じているが反応はない。
 本当にない。
 1ミリだって動いた試しはない。
 そして治る可能性もゼロ。
 もう僕の人生は終わりだと言ってもあながち間違っていない。


 すると母が入ってきた。

考祐こうすけ! 着替えとマンガ、持ってきたよ」
「あぁうん。ありがと」

 当たり前なのだが、両親は、無傷ではないとはいえ僕がことを喜んでいる。
 しかし、僕にとってはとても喜べる状況じゃなかった。
 1つは下半身不随になったから。
 もう1つは………。

「ねえ考祐。あの子のこと、忘れられない?」
「………忘れられると思ってるの」

 母は嘆息して椅子に座った。
 彼女は同意を示した上で続けた。

「いつまでも引きずらないようにね」
「別に………」
「母さんも父さんも心配してるんだから」

 心配で済んでいるのは彼女が死んだからだ。
 僕のかわりに。

「母さんに何がわかるの」
「わかんないよ」

 間髪入れずに否定されて驚いた。

「でも想像して理解しているつもり」

 反抗期の子どもに対して、向き合っているという意思を示すには素晴らしい言葉だと思う。
 だが、生憎、僕は既に捻くれていた。

「同情してんの?」

 母さんは反応につまった。

「いらないから! そーゆーの!」

 彼女と僕の関係を勝手に解釈されたみたいで、最深奥に土足で踏み込まれたようで、感じが悪かった。

「………そう」

 感情がいくぶんか抜け落ちた顔で帰っていった。


 あとから後悔したが、どうすればよかったのかまるで解決策が浮かばなかった。

 こんな僕が友人からのメールに上手く返信できるわけがないと悟り、僕は既読スルーを続けた。
 実際、押し付けがましく腹が立つようなメールもあった。
 
 そのうち、親友が訪れたが、このことを伝えることなく追い返してしまった。





 あれから2ヶ月後、体調が安定してきたので病院から抜け出すことにした。
 病院に飽き飽きしてきたし、新鮮な空気を吸いたい。
 僕も本来なら部活に励んでいる身である。
 外に出たいという欲求がほとばしるのも時間の問題だと言えよう。
 
 まあ誰かから許可を得れば言うことないんだが。
 あの事故以降、両親が過保護になっていて、許可を得られるとは到底思えなかった。
 交渉する気力も湧かなかった。

 すぐ戻るさ。


 病院抜け出し決行日。
 無事2ヶ月ぶりに外に出られた僕は、空を堪能しようと視界いっぱいに映した。
 うっかり失念していた日光に片目を瞑る。

「やっぱり外はいいなぁ」

 深呼吸をすると、思わず口から出てしまった本音。
 しかしその幸福も束の間、次の瞬間この世界にはいなかった。

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