前世で若くして病死した私は、今世の持病を治して長生きしたいです[ぜんわか]

ルリコ

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1章 魔法と令嬢生活

013 SS 妹と着せ替え人形

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〈ロイリー視点〉


「ご機嫌ようお母様」
「こんにちはロイリー」

 応接間で紅茶を飲まれていたお母様に挨拶した。
 彼女の侍女が紅茶を注いだ。

「ミュラーは……大丈夫なんでしょうか……」

 意識は戻ったと聞いたが、心配してしまう。

「ここに来れるっていうのだから大丈夫よ、きっと」
「ですよね、大丈夫ですよね」

 噂をしていると本人がやって来た。

「お久しぶりです、お姉様、お母様」
「あっミュラー! もう大丈夫!?」

 私は愛しの妹に抱きついた。
 わわわとびっくりするが、彼女はおずおずと私の背中に手を回した。

 5日ぶりに妹成分を摂取できて、ひとまず安心した。

「ロイリー、そろそろ離してあげなさい」

 ころころ笑うお母様に嗜められた。

「ごめんミュラー」
「いえ、私も久しぶりにお姉様の温もりを感じられて嬉しいです」

 思わず、ドキッとしてしまった。

 天使か。私の妹は天使なのでしょうか。
 お姉様はもうあなたを離せません。

「えっと……お姉様……?」
「早く座りなさいな。本調子ではないんでしょう?」

 照れ隠しにイスへ誘導する。

「ありがとうございます」



 約束の時間ぴったりに御用商人が訪れた。

 彼らを見て驚いた妹は私を見上げた。
 聞かされていなかったようだ。
 ……もう、お母様ったら。

「お姉様、これはどういう……」
「私たちのドレスを買うのよ」
「なるほど。では私は邪魔にならないようここで」
「何を言ってるの?」

 翡翠に輝く眼を丸くした彼女は、はてと首を傾げた。

「あなたのも買うのよ?」
「え? なぜですか」
「逆になぜミュラーの分は買わないの」
「だって……使わないかもしれないじゃないですか」

 続けはしなかったが、いつ死ぬかわからないんですから、という言葉が聞こえた。

「ああなった後ですし……もったいないです」

 倒れたことは門外不出。

 そのことによって精神的に弱っているのだろう。
 私が元気づけなくては。

「そんなことない。ミュラーの正装姿、見たいもん」
「そう、ですか?」
「当たり前でしょ?」

 妹の晴れ姿、見てみたいな。

 真偽を探るように不躾なぐらいに見つめられたが、納得してもらえたようだ。
 妹は腕まくりをしてお母様のところへ駆けていった。

 追いかけようとしたが侍女に捕まってしまい、メジャーをヒップに押し当てられた。





 3着目を試していたころ、ふとミュラーを見ると顔色が悪かった。
 彼女の侍女がそれに気がつき、声をかけているところだった。

「ミュラー様、お加減がお悪いのならおっしゃってくださいませ」

 同感である。
 我が妹は遠慮して自分のことを言わないところがある。
 ちゃんと伝えるべきだと思う。

「まだ、大丈夫」

 ふ~と長く息を吐いて言った。

「いったん中断しますか?」
「お願いします」

 商人の申し出を受けて、妹のドレスが取られていく。

「ちょっとリエ」
「だめです」

 いつもミュラーの体調を管理してくれている侍女の名前を知った。
 リエというのか。
 いつか感謝を伝えたい。


「コルセット、きついわ」
「慣れればどうってことありませんよ」

 慣れるまでが大変だっていうのに。

 圧迫するものがなくなって思わず弛緩しかんした妹の身体をリエが支えた。

「だから申し上げたではありませんか。ご無理なさらないでくださいと」
「まだ大丈夫だと思ったのよ」

 彼女は、しっかりした声で言い訳を口にした。
 
「申し訳ありませんが商人殿。イスを持ってきてくださいませんか」
「分かりました」


 妹が心配で全く話を聞けていない私を侍女長カルンがつっついた。

「ロイリー様。こちらはいかがですか」

 全体的にグリーンのドレスだった。

 持っているドレスよりフリルの数が少ないので、大人っぽく見える。
 形も流行りを取り入れることよりも、TPOを問わないシーンレスなデザインであることを重視している。
 伯爵家で侍女になることも考えてあるのだろう。

 着心地もいい。
 くるりと回るとドレスがふわりと舞った。

「とてもお綺麗です」
「ありがとう。これ、買うわ」
「かしこまりました」

 3着のドレスを試着したが、私が買えるのは1着のみだ。
 なのでかなり吟味したが満足できるドレスを買えた。

「これからも頼みますよ」
「お嬢様、ありがとうございます。お世話になります」


 私の試着が終わり、私はお母様のところに行った。
 4着目をお試しになっているようだ。
 ミュラーも先程運んだイスに座っておしゃべりしている。

「お母様って結構シックなものがお似合いになりますよね」
「そうねえ。かわいらしいものも着てみたいけれど、しっくり来ないの」

 青の裾を上げて困った顔をされている。

「そうなんですね」
「あなたはよく似合うわ。羨ましいくらいに」
「幼いからではありませんか?」

 無自覚天使に抱きついて、違うわ、と言った。
 銀髪を撫で回し、ロングも見てみたいなとふと思った。

「お姉様!?」
「あら終わったのね」
「はい、素晴らしいドレスが見つかりましたわ」
「そう」

「あのお姉様、少し離れてくださいませんか?」
「どうして」

 シュンとしながらも、お願い通り少し離れた。

「潰されそうで……」
「私、そんな怪力じゃないわよ?」

 心外だ。
 毎日歩いているミュラーと違って、私は運動していないのに。

「それはそうなのですが、私、この通り体力がないので」

 抱き締めずに妹成分を得る方法……何かないかしら?
 とりあえず近くて、でも力をこめなくてもいい、そんな輝かしい方法は。

「ロイリー、いいことを教えてあげるわ」

 お茶目に微笑む母に呼ばれ、胸を踊らせた。

 曰くー
 『あなたの膝の上に載せればいいんじゃない?』

「素晴らしいですわ、お母様!」
「ふふ」
「アマリ様。最後のドレスを」
「悪かったわね」
「いえ、失礼いたしました」

 母から離れて、カルンにこそっと頼んだ。

「イス、もう1つ持ってきて」
「かしこまりました」

 早速イスに触れてミュラーを誘った。

「ほらミュラー」
「な、なんですか」

 おどおどしてなぜか怖がっている妹を立たせた。
 私が座ったのを不可解そうに見る。

「ミュラー来なさい」
「え?」
「私の上に座るのよ」
「……え?」

 呆然とした妹を好機だと思い、強制的に座らせた。
 彼女が抵抗したのは座った後だった。

 控えめに足をバタつかせなんとか降りようとした。

「重いでしょう? 降ろしてくださいませ!」
「病人で食事をろくに取れていなかったこともあるあなたが重いわけないでしょう」

 うぐっと豆鉄砲を受けたような顔をする。

「それとも嫌なの?」
「……卑怯です。嫌なわけないんですから」

 か、かわいい……!
 かわいすぎ……!

「お姉様、いつもありがとうございます」

 眠そうな声で言われた言葉で、胸がじんわりほんわか温かくなった。

「こっちのセリフよ。ありがとう、愛してるわ」

 安心して眠りなさい、ミュラー。



ーーーーーー

ここまでお読みいただきありがとうございました。
フォローといいねをよろしくお願いします。

ps、こちらロイリーお姉様とミュラーです!
 かわよ~

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