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1部 第2神女のイタズラ

002 入れ替わってる!?

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 ふわぁぁぁ。
 私は欠伸をして目が覚めた。
 微かに片目を開けると穏やかな朝日がカーテンに映っているのが見えた。

「何時かな………」

 手元のサイドテーブルに手を伸ばしスマホを探していた手が止まった。


 声が、
 どう考えても、じゃない。


 危機感を覚え体を起こした。

「あれっおかしい………。ここ………どこ?」


 場所も、違った。


 私の部屋を埋め尽くしているはずの本棚がない。
 サイドテーブルに倒れてしまいそうなほど積み上げられられた本がない。


 手も、ゴツゴツしている。

「えっ!!」

 毛が逆立って拒否反応を示す。
 これは誰のかは分からないけど、少なくとも私のではないことが分かった。


 これは誰ので、ここはどこで、どうしてこうなっているのか。
 全てのことが分からない状況だけど、ここの部屋の主の家族がやってきたら一人称から家族の呼び方、話し方まで分からずに会話なんてできる訳がないことは分かる。


 私は部屋を見回した。
 部屋の主は私と同じくらい掃除が下手らしい。

 そして表彰状がたくさん貼ってあった。
 近付いて見てみるとスポーツ関連の大会で優勝とか準優勝とかだった。
 表彰状の名前欄を見ると動きが止まってしまった。

 心臓の拍動が感じられる。
 10回くらい見直したあと私はやっと現実を信じた。

「亜尽って………。マジかぁ………」

 説明しよう、どういうことか。


 亜尽__前北亜尽まえきたつじん__とは私の家の隣に住む幼馴染である。
 私と彼は同じ高校に通っていて幸か不幸か同じクラスだ。

 これらのことを踏まえて見れば確かに手は亜尽っぽいし!
 彼は幼い頃から凄い量の習い事をこなしていたため運動能力が異常に高く、周りより大人の男というオーラを感じるのだ。

 とそのとき亜尽のスマホが鳴った。
 見ると「上崎茉莉奈かみざきまりな」と表示されている。
 つまり私のスマホで彼がかけていると考えて間違いない。

「もしもし」
『あー何と呼べばいいか………んまあおはよう』

 確かに呼び方には困る。亜尽と呼ぶべきか茉莉奈と呼ぶべきか。

「おはよう。亜尽………だよね?中身は」
『その注釈はなんだよ。お前も中身は茉莉奈だろう』
「いやまあね?」
『お互いに慣れなきゃいけないなぁ。あと一人称とか話し方とかも全て似せなきゃならん』
「そだねー。私“俺”なんて使ったことないもん」
『それは俺もだ』
「あ~本が読めない!亜尽のフリをしようとすると読めない!どうしてだよ~!」

 私は本の虫と呼ばれるほど本を愛している。
 健康に支障を来たすほどとも言われるが周りの目なんて気にしていない。
 私は本さえあれば幸せなのだ。

『俺の身にもなれよ!ずっと読んでいるフリをしなきゃいけないんだぞ!』
「ねぇ今日の予定は?運動得意なフリする必要があるのは?」
『んーああ体力測定』
「いきなり強敵!」
『俺は手を抜けばいいけど、お前はなー』
「事実だけどムカつく!手を抜くだって!うぅー」
『はいはい。なんか入れ替わり系の本読んだことあるか?対処法思いつかないか?』
「………仮病くらいしか思いつかないけど」

 とは言ったが亜尽はほとんど風邪をひかない。
 風邪やインフルエンザに罹らないくらいなら違和感は少ないが、軽い体調不良にさえほとんどならない。
 幼稚園時代から知っているが、幼稚園児のときに1回、小学生のときに1回。これ以降聞いたことさえない。

『………難しいな』
「うんそだね。直近の体調不良はいつ?」
『………低学年のときに初めてインフルに罹った。あれが最後だな』
「それ私も覚えているよ。レアすぎて」
『体調不良は却下だ。………怪我ならどうだろ』

 亜尽は、土日に警察官の父親と稽古(という名のデスマーチby本人)をしているが、相手が悪く強すぎるので毎回怪我をして、そのうち月1回はヒビが入るというのが日常と化している。
 だから捻挫あたりは特段違和感は持たれない。

「いつもの捻挫あたりにする?」
『いつもの………かー』

 本人も捻挫が当たり前の状況に違和感を覚えているらしい。
 “いつもの”というフレーズに引っかかり、ため息を漏らしている。

「体育は捻挫のフリでいいとして………。まだある?」
『お前のコミニケーション能力が不安だ』
「亜尽の友達と普通に話せるかってこと? 心配しないでいいから。多くの本を読んでいるから真似るのも会話するのも得意だから」
『本当か………?』
「だって今も普通に話せているじゃん」

 彼が疑うわけが分からない。
 幼稚園児の頃に出会ったが、今まで話が通じなかったことがあっただろうか。

『いやまあな………。普段友達と話していないからな。ていうかお前友達いるのか?』
「毎日じゃないけど話す人はいるかな」
『そろそろ母さんがお前の部屋に来ると思う。ちゃんと演じろよ』
「うん。制服着替えておいてね。いつも着替えてからお母さんが来るまで本を読んでいるから」
『りょーかい。じゃあな』
「ん。バイバイ」





 8時に学校に着いた。
 捻挫のため痛いフリをしながら3階まで上がって自分たちの教室に入った。

 荷物を置くと亜尽がよく一緒にいる友人らが近寄ってきた。

「よぉ。お前、また親父さんに怪我させられたのか?」

 学生服の第1ボタンと第2ボタンを外しいかにも青春らしい少年が私の右足を見て言う。
 天野和也あまのかずやという。

「ああ。そのせいで今日の体育は無理そうだ」
「今日は………体力測定か。怪我をしていても君なら平均は出せるよ。なんなら1種目くらい平均値でもよくない? 欲張りすぎ」

 上崎茉莉奈としては非常に賛同したいことを言ったのは、佐竹涼太さたけりょうた
 男子の中では比較的穏やかな部類に入るだろう。

「欲張ってないけどな。俺は平均でよくてもよ、親父がなんて言うか………。想像しただけで怖え」

 後半は私の本音である。
 入れ替わりが終わる日が分からない以上、私にその恐怖が降りかかるかもしれない。
 そのようなことは決してあってはならないのだ。
 よくて骨折、悪ければ死が待っている。

 ………本の中だけでおこると思っていたことが実現してしまうほど近所の家庭環境が悪いとは考えてもみなかった。

「それはそうだな。命は大事だ。今日は休もう」
「来月君の訃報を聞くなんてことは嫌だからね」

 それからはアニメやら漫画やらの話をした。
 亜尽は和也から漫画を借りているらしく内容を聞かれたが、私は題名すら知らなかったので未読だと答えた。
 帰ったら読んでおくべきだ。これを逃す手はない。すぐに読もう。




 1時間目が体育だ。

 私は体育館の椅子に堂々と座り、本人曰く手を抜いているという彼(彼女?)を見ていた。
 けれど、彼には手加減という概念と常識という言葉を知らないようで目が離せなかった。
 私の運動神経の悪さを見せつけてくるようでムッとした。
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