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1部 第2神女のイタズラ

001 殿下はイタズラ好き

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 今から138億年前。

 混沌とした世界に突然万物を消し尽くさんとするかのような大爆発が起きた。これをビッグバンと呼ぶ。

 ビッグバンを直前に察知した存在がいたという。
 “ソレ”は自身の全ての力を注ぎ込み大爆発に飲み込まれない存在を創りあげた。
 その存在こそが万物の主“神”である。ビックバンの直後は自己防衛に全力を尽くしたため全能でもなんでもなかった。
 神は永きの時を経て自らを作った“ソレ”を超える力を持った。


 そして今から46億年前、太陽系が誕生した。そのとき神は全知全能の存在になっていた。
 神は大きな可能性を秘めた太陽系を管理することにした。新惑星を覗きにいったり超新星爆発を間近で観察したりしていたが、神には関わりがある存在がいなくて寂しかった。


 太陽系爆誕の1億年後、地球にある星がぶつかり月が誕生した。
 燃え盛る地球を眺めていた神は、熱が鎮静化すれば地球上に生命体が生まれるということに気が付いた。
 そうと分かれば早く冷まそうと、神は神に準ずる存在を創った。その種族を神族という。
 二柱は地球を管理、いや観察していた。そして惑星ごとに神をおき、その補佐として神族を何柱か創った創造神は力尽きて消え去った。


 そして今、地球を管理、いや観察しているのは451代目の神だ。


 神の住処は宮殿だ。

 決して錆びたり朽ちたりしない白い壁と背景の真っ青な空(映しだしている)のコントラストは計算され尽くされている。
 中身も本当に美しくて、説明するのが面倒くさくなるほど豪華絢爛である。本当はもっと豪華なつくりにしたかったそうだがこれ以上広げると眼下の世界に影響を与えてしまう。

 とはいうが、これでも十分だと密かに考えているのは当代神の次女ツイナ・ハリチャー=アースである。


 ツイナは、どのような醜く腐っている心でも浄化できてしまいそうなほど神聖な白髪と、活発な性格が表れている青色の瞳が特徴的な美少女(?)である。姿は人間と変わらないので、ここではそう表現する。
 彼女は全知全能が売りの神族らしからず下界の者らを見下していない。そして彼女は優秀な成績を持っているのに神の座に全く興味がなかった。神族の伝統を尽く破り捨てていく彼女の趣味は人族への(傍迷惑な)イタズラだった。
 これはそんなツイナのイタズラの物語である。




(sideツイナ)


 私は学校からテレポートを使い離宮へ舞い戻った。

 お母様が過保護で夕食を必ず供にしなさいとうるさいからすぐに宮殿へ向かう必要がある。仕方ないから通っているけれど目当ては可愛い弟だけだ。
 よちよち歩きしている弟を思い浮かべてニコニコしていると不躾ぶしつけな視線を感じた。
 見なくても分かる。アイルダ侍女長だろう。

「どうしたの?」
「姫様、分かりませんか?」

 呆れるかの如く肩を竦められた。
 心当たりはあるけれど私のイタズラは芋づる式に全て分かってしまうのだ。これまでバレずにいたイタズラまで被害が及ぶのは避けたい。
 私は分からないふりをした。

「うん」
「先週、また人族を唆したでしょう。わたくしを騙すことはできませんよ」
「あら流石私の筆頭側仕えね」

 アイルダは私が生まれた頃から仕えている筆頭側仕えだ。だから私の全てを知っているといっても過言ではない。
 何をお父様やお母様たちに報告するか分からないから、縛りつけるように寝ずの番を命じている。

「ツイナ様」

 名前で呼ばれて私は横を向いた。

 彼女が私を第2神女として扱うことは少ない。普段は姫様と呼ぶ。
 神女オーラがないからだと勝手に結論づけているが間違っていないと思う。

「文句があるようね」
「いいえ、特には」

 外見は老婆のくせに、クスクスと笑みを漏らすその言動は一線で戦う戦士のようだ。
 自分の侍女なのに油断ならないのっていいんだろうか。

「先週人族を唆したというのは本当だと受け取ってもいいのですね?」
「唆してないよ」
「表現など些細なことです。要は陛下への報告案件か否かですから」

 自室のドアを、信頼すべき侍女長が開ける。

「「お帰りなさいませ姫殿下」」

 上級側仕えが一斉に頭を垂れる。

「ただいま」

 私はお嬢様呼びのほうが自分の考え方的に合うんじゃないかと告げたのだが、アイルダが却下したので、このような呼び方になっている。

 ベッドに寝転がりたい衝動に駆られる。
 だが先手を打たれて椅子を引かれてしまった。すると王族教育のせい賜物で腰掛けてしまうのだ。
 忌々しい。

 上級側仕えの1人、ティーグが淹れた最高級の紅茶の香りを堪能しながら先ほどの返事を返す。

「そう言われると答えづらいね」
「つまり報告案件ということですね。ティーグ、陛下に『姫様がまたもややらかした』とお伝えなさい」
「分かりました」

 止める間もなく命じられた彼が外に出てしまった。私は仕方なく紅茶を飲んだ。





 夕食が終わり、だけが起きている時間になった。


 さて今日のイタズラは恋愛大作戦だ。
 対象者はお互いに恋愛感情を抱いている高校生男女。
 両想いの癖して異性として見られていないと思い込んでいる。非リアに「リア充は爆発しろ」と叫ばれる事案だ。

 私はレフリカを引っ張り出してディスプレイを3枚並べた。

 レフリカとは自分の考えていることを投影する道具のことだ。神族の上級階級を中心に広がっている。
 実はパソコンを知った際に神女としてのプライド(ないに等しい)を刺激されて私が上位互換として作った。
 この機会に人族のアピールをしたが聞いてくれなかった。
 下位互換とはいえ素晴らしい発明だと思うけど。


 対象者の居住地を特定する。
 神位継承権第3位にして最も神の座に近いとされている私なら朝飯前だ。

「隣に住んでいるんだね」

 今回のイタズラではこの2人の魂を入れ替える予定だ。
 器(身体)から中身(魂)を長時間抜いておくわけにはいかないから__ぶっちゃけ死亡リスクもある__とてもラッキーだと言える。
 すぐに替えの中身を入れれば器に加筆する必要もないだろう。

 ワクワクしながら残りの設定を書き込むとあとはエンターキーを叩くのみ。

「グッドラック!!」

 私はエンターキーを叩いた。画面が星空でいっぱいになって散っていった。
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