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第六章『スワンプマンの号哭』
十九
しおりを挟むオーエンはその日のうちにマリーの寝室を訪れた。
マリーは聡明な侍女だった。オーエンがそうする前から全て見ていたかのようにそつなく彼とハーレィを受け入れ、まるで二人の子供を眺めるように、その哀しみを分かち合った。
明くる日には胴体共々、王墓に新しく掘られた墓穴に黒い棺と共に埋められ、誰かの聖書を読み上げる声とともに見送った。
失踪した少女たちは無事に親元に帰された。しかし数ヶ月もすると、何人かは自ら志願して城に戻り、改めて召使として雇われ、働き務めた。
ハーレィの遺言通りに王族の貴金属、調度品などを売ったお金で農家は補填された。
マルク王子は拘束され、長年町民たちの監視下にある広場の鉄格子の中で生活し、やがて衰弱して死んだ。
代わりに妹のドルチェが王女として活躍しだし、あたかもハーレィの魂を受け継いだかのように北の〈ナルガディア〉と融和交渉を進めていった。
しかしその最中にも王妃は空位のままであった。
またその時には、彼女に忠誠の限りを尽くし、最後まで付き従った騎士長と侍女の姿もなかった。
二人はハーレィの死後しばらくして情勢が落ち着いたのを見計らうように、忽然と姿を眩ましたのだった。
というのも。
ハーレィを埋葬した翌朝のことである。
マリーが陽も昇りきらないうちから花を手向に寝室を出たところ、同じことを考えていたのだろう、途中の廊下でオーエンと出くわした。
「気が合いますね」
マリーはそう言ってオーエンと連れ立った。
にべもなく、確認やそれらを飛ばして結論から話し始めるその仕草はどこかハーレィを思い出させるもので、寡黙を貫き、洒落た返しこそできなかったものの、オーエンも悪い気はしない。
そうして二人、ハーレィの眠る王墓に訪れた時だった。
先にマリーが駆け出して、オーエンが後を追いかけた。
その足元に大きな穴が空いている。
まるで地底から死体でも這い出てきたかのような、穴だった。
マリーは持っていた花束を取りこぼしながら振り返ると、オーエンが刮目して言った。
「行かねば」
「え……」
「あのお方が仰ったのだ」
見極め、そしてついていけ。そうすればその人は……きっとあなたを不幸にはしない。
オーエンは他愛なさげに続けた。
「私にとってそれは、あのお方以外にないのだから」
「…………」
偶然か。はたまた、これも計算のうちか。
一方でマリーはオーエンを伝い、死してなおハーレィの鋭さに驚かされるのだった。
勿体無い臣下? とんでもない。
(私の方こそ……あなたに仕えることができて、このマリーは果報者でございました。姫様……)
二人は城にいるうちに吸血鬼に関しての書物を漁り、叶うだけの知識を集めると、誰にも言わずに城を後にした。
この城にもう用はなかった。
二人の住まうべきところ、主君——ハーレィはまだどこかで生きている。
このどこまでも続く世界の、どこかで。
「行こう、マリー。私たちの姫様が待っている」
「はい。どこまでも、ついていきます。オーエン様」
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