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第二章:『永久の庭』
十一
しおりを挟む「時間がないってことも不幸だけれど、ありすぎるというのもまた不幸なものね。アンタを見てると特にそう感じるわ、ミロス」
年が明けて、雪が溶けきらない最も冷え込む時期に、再びインベルとアルがやってきた。
遠い帝国領では別世界の技術が齎されて久しく、温暖化の一途にあると聞くのに、物好きなものだとミロスは思う。
インベルはいつぞやのように語る。
「考えすぎなのよ。とかくエルフというのはいつもそうなんだ。その時、目の前にそれがあった。理由なんてそんなもんで構わないし、そうやって生きるのが生き物の自然と思うけれどね、私は」
「インベル。貴様は、なにか……そうだな。自分とは違う生き物を飼ったことはあるかね」
その数刻前、奥の小室からシルメリアが飛び出してきた。
卒業試験のようなものだ。ミロスが課題に出した治療薬が正しい反応を見せたというので、喜んで報せに来たのである。
ミロスは木椅子にかけながらそんなシルメリアを労い、深く何度も頭を撫でながら、その時実際には見えないものの、シルメリアの頭に跳ねる耳が、お尻に尻尾が見えるような気がしてならなかった。
その場にはインベルもいた。そしておそらくその時、インベルも腑に落ちただろう。
それはきっと御同様だったはずだ。
ここはそうして彼らが辿り着いた一つの答え、永久の庭なのだ。
彼らは何度となく初恋をし、何度となく母子となり、その時々に応じた寂しさを埋め合い、共存してきたのだ。
そして今。インベルに向かい、ミロスは非情なまでの親愛をその表面に浮かべながら言う。
「私とてそうしているつもりなんだよ。好きだが、その想いには実のところ千差万別の違いがある。私は彼女らを愛している、が、それはきっと——……」
人間が、飼育する小動物を愛でるようなものなのだ。
「そして、私と彼女たちのその距離は縮まらない。それは確かに愛だが、娶るようなものに思えるかね? 例え私はよくても、彼女には酷だろう。だから、このままでよいのだ、インベル」
けれどインベルはそこにミロスの真意を聞けた気がして、
(私はよくても……ね。それこそ稚気だわ、ミロス。あなたはそうして、看取ることしかできない残酷から、自分の心を守ってきた……なら、あとは彼女次第か……)
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