魔王と! 私と! ※!

白雛

文字の大きさ
上 下
9 / 94
第二章:『永久の庭』

イントロダクション

しおりを挟む




 深い小豆あずき色に濃い紫陽花あじさい色の瞳を宝石のようにきらきらと輝かせて少女が腕を引く。
「先生、せーんせい。ねぇ、聞いてる?」
「はいはい、聞いてるよ。なにかな」
「あのね、先生。先生……私、私ね。先生のことが好き。大好き」
「ありがとう。私も好きだよ」
 エルフの青年が彼女の頭をでる。少女は目を細めて、ことさらまぶしく微笑んだ。
 ねる耳や尻尾が見え隠れするような少女の無邪気むじゃきな振る舞いはまさに小動物を思わせる愛らしさで、青年の胸に空いた穴をいくぶんか埋めてくれる。
「本当? それなら、いつか、先生と——」
 しかし、そこで場面が変わった。
 少女は突然大人になり、子供を連れている。
「先生。この子をよろしくお願いしますね」
「ああ、もうそんな時期か。引き受けよう」
「先生……」
 年相応にしわの刻まれ出した表情にかつての少女の面影おもかげを、かたわらに手を引かれてたたずむ子供に隣の母の面影を、それぞれ見据えて、青年は淡白たんぱくな返答の中に親愛をにじませた。
「そんな顔をするな。いつものことだよ。……もう慣れたさ」
 しかし、こうも思う。
(もう、じきである。また……さみしくなる)
 またしても場面が変わる。
 今度はれなずむ夕焼けの下。
 手作りの長い木箱を皆で運び、その中に青年も混ざっている。
 誰かの泣き声。
 土を掘り返す音、かぶせる音。
 牧師による聖書の朗読。
 辺りに誰もいなくなったあとで、新たにきずかれた墓碑ぼひを前に、エルフの青年は力無く陶器とうきの口を垂れ下げた。
「またうそをついたのだ。僕はずっと嘘を吐きつづけている。いつの"君"だって同じこと……この寂しさに慣れることなどないのだ……あの日からずっとっ——」
 しかし、陶器はもう空だ。こぼれたのは酒ではなかった。
 涙。
 青年は泣いていた。
「おいていくな……頼む……おいていかないでくれ……」
 さめざめと涙を流して、墓碑にそのひたいをこすり、
螺旋らせんだ……永遠えいえんにつづくのだ……出会ってしまったがためにもう二度と抜け出せぬ……ここは、永久とこしえの庭なのだ——!」
 そこでようやく目が覚める。
 の光が差した木造の屋内に、ぼんやりとかすみがかかって、ちらちらとほこりが舞っている。
 エルフの青年は枕から顔をあげかけて、再び落とした。
 我ながらまた、はかないものを見たものだ——と。
 子供の時分に戻ったかのように、丸くなってしばらくもだえた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

2u10
ファンタジー
魔術指輪は鉄砲だ。魔法適性がなくても魔法が使えるし人も殺せる。女神から奪い取った〝能力付与〟能力と、〝魔術指輪の効果コピー〟能力で、俺は世界一強い『魔法適性のない魔術師』となる。その途中で何人かの勇者を倒したり、女神を陥れたり、あとは魔王を倒したりしながらも、いろんな可愛い女の子たちと仲間になってハーレムを作ったが、そんなことは俺の人生のほんの一部でしかない。無能力・無アイテム(所持品はラノベのみ)で異世界に手違いで転生されたただのオタクだった俺が世界を救う勇者となる。これより紡がれるのはそんな俺の物語。 ※この作品は小説家になろうにて同時連載中です。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...