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第二章:『永久の庭』
イントロダクション
しおりを挟む深い小豆色に濃い紫陽花色の瞳を宝石のようにきらきらと輝かせて少女が腕を引く。
「先生、せーんせい。ねぇ、聞いてる?」
「はいはい、聞いてるよ。なにかな」
「あのね、先生。先生……私、私ね。先生のことが好き。大好き」
「ありがとう。私も好きだよ」
エルフの青年が彼女の頭を撫でる。少女は目を細めて、ことさら眩しく微笑んだ。
跳ねる耳や尻尾が見え隠れするような少女の無邪気な振る舞いはまさに小動物を思わせる愛らしさで、青年の胸に空いた穴をいくぶんか埋めてくれる。
「本当? それなら、いつか、先生と——」
しかし、そこで場面が変わった。
少女は突然大人になり、子供を連れている。
「先生。この子をよろしくお願いしますね」
「ああ、もうそんな時期か。引き受けよう」
「先生……」
年相応に皺の刻まれ出した表情にかつての少女の面影を、傍らに手を引かれて佇む子供に隣の母の面影を、それぞれ見据えて、青年は淡白な返答の中に親愛を滲ませた。
「そんな顔をするな。いつものことだよ。……もう慣れたさ」
しかし、こうも思う。
(もう、じきである。また……さみしくなる)
またしても場面が変わる。
今度は暮れなずむ夕焼けの下。
手作りの長い木箱を皆で運び、その中に青年も混ざっている。
誰かの泣き声。
土を掘り返す音、かぶせる音。
牧師による聖書の朗読。
辺りに誰もいなくなったあとで、新たに築かれた墓碑を前に、エルフの青年は力無く陶器の口を垂れ下げた。
「また嘘をついたのだ。僕はずっと嘘を吐きつづけている。いつの"君"だって同じこと……この寂しさに慣れることなどないのだ……あの日からずっとっ——」
しかし、陶器はもう空だ。こぼれたのは酒ではなかった。
涙。
青年は泣いていた。
「おいていくな……頼む……おいていかないでくれ……」
さめざめと涙を流して、墓碑にその額をこすり、
「螺旋だ……永遠につづくのだ……出会ってしまったがためにもう二度と抜け出せぬ……ここは、永久の庭なのだ——!」
そこでようやく目が覚める。
陽の光が差した木造の屋内に、ぼんやりと霞がかかって、ちらちらと埃が舞っている。
エルフの青年は枕から顔をあげかけて、再び落とした。
我ながらまた、儚いものを見たものだ——と。
子供の時分に戻ったかのように、丸くなってしばらく悶えた。
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