魔王と! 私と! ※!

白雛

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第一章:『歌う丘』

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 それから数日とたないうちに事態は予期よきせぬ展開を見せた。
 ハルピュイアのれが襲撃したことで、山中の村に若い男手おとこでの守りがいなくなったことが外部に漏れ、そこを近所の盗賊たちに狙われたのである。
 荒くれ者たちは、またとないこの機会に悪逆非道あくぎゃくひどうの限りを尽くそうともくろみ、各々得物えものを手に、こぞって村に押し寄せていた。
 村の様子が気にかり、いつものように上空を見回っていたハルピュイアの娘はいち早くその気配に気づくと、咄嗟とっさに駆けつけ、村人たちの助太刀すけだちに入っていた。
 ハルピュイアの目にしか映らずとも、そこには老竜もいる。
 老竜は広場の上空に巨大な翼を広げ、突風を巻き起こしながら、するどい牙で荒くれ者どもを引き裂き、村を守護しゅごしているが、如何いかんせん体躯の違いから、素早く足元を潜り抜ける者もいた。
 村のさかりを過ぎた男たちに助力して、逃げ惑う女たちを庇い、野盗を自慢の爪で成敗せいばいしながら、ハルピュイアは老竜に尋ねた。
「老竜よ。あなた様ともあろうものが、抜かりましたわね。いったい、あの子は無事なのでしょうね?」
「我が盟約はこの地の永劫えいごうの守護たるがゆえ。ともすればこそ、人の少年などその一単位に過ぎぬ」
「なんて薄情はくじょうな……あの子は目も耳も聞こえないのよ! 逃げ惑うことすらままならない身だというのに……!」
「そして死するくらいならば、所詮それが宿命さだめ……そして命は淘汰とうたを繰り返してきたのだから」
「あなたもまたそうして才能で……あなたには何も視えておりませんわっ! 長々と生きるだけで、何も判っておりませんのね! ならば彼は……わたくしが守る!」
 ハルピュイアはこう老竜に食ってかかるや、村の裏手に回った。
 飛び立つその背に老竜はこう、声をかけた。
「ふはは。鳥人風情ふぜいが、しかし威勢いせいのいい、なんともしんのある娘だ。——なればこそ、其方が駆けつけるのであろうが」
 ハルピュイアの娘が気流を引き裂いて、錐揉きりもみに回転しながら上空へ飛び上がると、少年はすぐに見つかった。
 丘と屋敷の間の道に女中と一緒にいる。しかし、同時に荒くれ者の姿も見えた。
 少年はか弱き女中共々、地にいつくばり、刃渡りの長い得物を突きつけられていた。
 ハルピュイアは急降下して両翼を大きく広げ、あおぎ、暴風を巻き起こした。長い得物が女中に触れようとした寸前、そうして一度ひとたび荒くれ者どもをひるませると、そのすきに頭上から鷹のように舞い降りて、一閃いっせんまたたく間に荒くれ者どもを撃退げきたいした。
 少年の感覚は娘の匂いを敏感びんかんに捉えていた。
 ハルピュイアの娘が空から降りてくると、盲ろうの少年は足元をつまずかせながらもとたんに彼女の元へ走り寄るのだった。





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