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第一章:『歌う丘』
六
しおりを挟むそれから数日と経たないうちに事態は予期せぬ展開を見せた。
ハルピュイアの群れが襲撃したことで、山中の村に若い男手の守りがいなくなったことが外部に漏れ、そこを近所の盗賊たちに狙われたのである。
荒くれ者たちは、またとないこの機会に悪逆非道の限りを尽くそうともくろみ、各々得物を手に、こぞって村に押し寄せていた。
村の様子が気に掛かり、いつものように上空を見回っていたハルピュイアの娘はいち早くその気配に気づくと、咄嗟に駆けつけ、村人たちの助太刀に入っていた。
ハルピュイアの目にしか映らずとも、そこには老竜もいる。
老竜は広場の上空に巨大な翼を広げ、突風を巻き起こしながら、鋭い牙で荒くれ者どもを引き裂き、村を守護しているが、如何せん体躯の違いから、素早く足元を潜り抜ける者もいた。
村の盛りを過ぎた男たちに助力して、逃げ惑う女たちを庇い、野盗を自慢の爪で成敗しながら、ハルピュイアは老竜に尋ねた。
「老竜よ。あなた様ともあろうものが、抜かりましたわね。いったい、あの子は無事なのでしょうね?」
「我が盟約はこの地の永劫の守護たるがゆえ。ともすればこそ、人の少年などその一単位に過ぎぬ」
「なんて薄情な……あの子は目も耳も聞こえないのよ! 逃げ惑うことすらままならない身だというのに……!」
「そして死するくらいならば、所詮それが宿命……そして命は淘汰を繰り返してきたのだから」
「あなたもまたそうして才能で……あなたには何も視えておりませんわっ! 長々と生きるだけで、何も判っておりませんのね! ならば彼は……わたくしが守る!」
ハルピュイアはこう老竜に食ってかかるや、村の裏手に回った。
飛び立つその背に老竜はこう、声をかけた。
「ふはは。鳥人風情が、しかし威勢のいい、なんとも芯のある娘だ。——なればこそ、其方が駆けつけるのであろうが」
ハルピュイアの娘が気流を引き裂いて、錐揉みに回転しながら上空へ飛び上がると、少年はすぐに見つかった。
丘と屋敷の間の道に女中と一緒にいる。しかし、同時に荒くれ者の姿も見えた。
少年はか弱き女中共々、地に這いつくばり、刃渡りの長い得物を突きつけられていた。
ハルピュイアは急降下して両翼を大きく広げ、煽ぎ、暴風を巻き起こした。長い得物が女中に触れようとした寸前、そうして一度荒くれ者どもを怯ませると、その隙に頭上から鷹のように舞い降りて、一閃。瞬く間に荒くれ者どもを撃退した。
少年の感覚は娘の匂いを敏感に捉えていた。
ハルピュイアの娘が空から降りてくると、盲ろうの少年は足元を躓かせながらもとたんに彼女の元へ走り寄るのだった。
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