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第一章:『歌う丘』
三
しおりを挟むその晩、村人たちは嘆きの杯を掲げて、涙に酔いしれた。
男たちが総出で渓谷に子供たちを取り返しに行くことも考えたが、魔性の歌声の前ではどれだけ屈強でもどうしようもない。考えれば考えるほど諦めざるを得ないのである。
一方で渓谷のハルピュイアの巣では連れ帰ったばかりの人間の若き男たちを中心にして宴が催されていた。しかし、リーダーの娘は乗り切れなかった。
酒に男に酔いしれる同胞の輪の外から、それら一連の行為を侮蔑さえするような目つきで見下し、彼女は一人、ぼやいた。
「いつもならお酒を飲んで歌って酔いしれる楽しみを味わえるのに、今はまったくそんな気にならない。それら全てがバカみたいに見えて仕方ないわ……あの小僧のために……まさか私の歌声を無視するなんて、そんなこと、許されていいはずがないのに」
そうして数日が過ぎ、麓の村人たちが子らの失われた傷は癒せずとも、表面上は生きるための日々の作業に再び従事できるようになってきた頃、少年はいつものように丘の上で何もない宙に向かい、語らっていた。
女中たちは心配しているものの、その長を筆頭にいつしか少年のこの不思議な日課に口を出すものはいなくなっていた。
静かな昼下がり。丘を囲む森林にこっそりと舞い降りたリーダーのハルピュイアは、間もなく仰天して、木陰に身を隠しながら警戒を強めた。
人間の目にはその者の魔力によって何も見えていないのだが、魔族である娘の目にははっきりと見えている。
それはハルピュイアなど及びもつかないほどの恐ろしい怪物——ドラゴンだ。
それが丘の周囲の木々に沿って、中央の石碑までぐるりと取り囲むように羽根をやすめて横たわっているではないか。
かなりの老竜だった。さぞかし名のある者だろうと、ハルピュイアの娘は改めて息を潜めた。
そしておそらく、どんな魔法を使っているかは判らないが、少年にも見えているのだ。
この世の他の一切が見られない代わりに、ドラゴンの姿や息吹をはっきりと感じ取って、語らっている。
けれどもその少年の声は、娘の魔力を持ってしても何ら耳に入ってくるものではないのだった。
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