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第八十八回『闇の胎動』

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「わふ……」
 前田プリンこと元勝家は大勢の記者団に囲まれながら、見出しのための写真撮影に励んでいた。
「よし、よし! ここでメガネかけてみよう、Zoffのメガネかけてみよう。なんか降りてくるかもしんない! ほら、一回いってみよう!」
「わふ……」
「わふじゃなくて、Zoffな。ぞふ。っぱ、柴犬には難しいかなー……」
「Zoff……」
「逆に気味が悪いねー。もっと愛嬌出してこ! 犬なんだしさ、まず日本語とか喋っちゃダメじゃん、ねー?」
「わふん……すぴー……」
「あ、いいね。止まんないでねー、そのまま出し続けて! パッションでカバーしてこ! ガンマイク! ガンマイクもっと寄って! プリンちゃんの鼻息も撮って」
「わZoffすきー」
「あ、ごめん! 今、見切れたわ! 一回目ん玉のとこ、見切れたからもっかい撮るね!」
「キティ!」
「違うだろ? 猫ミームを柴犬で上書きしたいんだろ? なら自分の色出してかなきゃ! ほら! マイク!」
「ワゾフスキー」
「ちげぇたろ? 一番権利関係うっさいとこに喧嘩売るんか? なぁ? パロディじゃ済ましてくれないぞ、あそこは流石に。懐広い集英社や東映やサンライズとか頭おかしい(褒め言葉)漫画、アニメ企業とは訳が違うんだぞ、あそこは」
「わふ……」
「よし。じゃあ、教えた通りに言ってみよう。BGMとナレーション流すからな。三、二、一……」
 富、名声、力。この世の全てを手に入れた柴犬、名誉ゴールデン・レトリーバー! 彼の死に際に放った一言は、地方の土佐犬たちの起こしてはいけない本能を駆り立てた。
「おれのシーザーか? ほしけりゃ……え、待って。死に際とか土佐犬ってどういうこと?」
「いいから、台本通りにやれ。犬が喋んな。アニメ版じゃない、きちんと漫画原作に沿ってる奴だから」
「いや確かに原作とアニメで若干セリフ違うけど……!」
「世は、大闘犬時代を迎える——!」
 それは各地で暗躍するブンシュメンのあくどい罠だった。
 柴犬の活躍にかこつけ、彼らを持ち上げる体で各地の土佐犬やいわゆる闘犬種を興奮させる。そして半ば故意に人々を襲わせ、事件を引き起こし、自分たちはかの犬たちの危険性を訴え、時代は猫だと、ミームと共に記事で訴えかける……これが世間派代表マスコミュニティのやり方なのだった。
 前田プリンは寸前でその目論見に気付いた……いや、気付いてしまった。
「おめェら! 初めから猫派の——」
 ブンシュメンたちの目が怪しく光った——。

 ◇

 一方、バラエティ番組に見せかけた思想煽動及び一部キャスターによる同キャストに対する数々の暴行。そして無惨な殺害、死体遺棄事件……。
 事態を重く見た警視総監は即座に動いた!
 な……何を言ってるかわからねーと思うが、おれも何を書いているのかわからない……。
 頭がどうにかなりそうだ……天使だとか悪魔だとかバファリンの飲み過ぎじゃね? とかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わってるぜ……へへ、うぇへへへへ。
 キチの独白はさておき、小出警視総監は護送車に積まれた荷とともに警視庁本部庁舎に向かっていた。
 その車内に情けないドライバーの声が響く。
「……け、警視庁本部庁舎の前に人だかりが」
「ブンシュメンだろ? 人じゃない、ブンシュメンという闇の眷属たちだ……轢けばわかるさ、行けよ」
「猪木の名言持ち出されてもなぁ……しかもめちゃくちゃ物騒な改変……」
「……そういやお前、知ってる? 焚き火効果って、あるじゃん。癒しとかなんとか……あれで知性まで上がることが判明したらしいよ」
「へぇ……そうなんすか? 小出警視総監、そういうのやたら詳しいですよね」
「だからさー、焚き火しようぜ、焚き火。本当かどうか確かめるためにも」
「え、今からっすか? まず容疑者護送しないと行けないんじゃないっすかね……」
「あ、ちょうどいい焚き木あんじゃん」
「え……」
「ほら、あっこ。すんげぇわらわらいる」
「え……?」
「おら。焚き火すんだろ、行けよ」
「いやあの……え? 流石に血気盛んすぎません? いかんことだのぅのレベル軽く超えてるっていうか……正直なに言ってっか……」
 次の瞬間、小出警視総監は運転手の前歯を掴むと、ベキンッとへし折った。
「ブツブツ言ってないで、行け」
「おげえぇぇぇーーーーーっ!」
 小出警視総監は本物だった。
 本物の悪魔だった。
 警視庁本部庁舎前に集まったブンシュメンたちを前に、護送車は速度を落とすどころかますますスピードをあげる。
「え……あれ?」
「小出警視総監……? あれ?! ちょっとっ!」
 そうしていち早く察知したのは一握りだった。
 大抵はカメラのシャッターチャンス……すなわち容疑者Mと警視総監の降車を狙いすまし、あるいはすでにシャッターを切るのに夢中でその異変に気づかずじまいだった。
 護送車はまるで当然のようにそのまま速度を維持して、門を通過した。
 音にも起こし難い。筆舌に尽くしがたい悲鳴と衝撃音が響いて、辺りにブンシュメンたちが散らばった。
 それらを見届けたあとで護送車は本部庁舎の敷地内に少し入ったところで留まり、間もなく中から小出警視総監が姿を現した。
「おっ、たくさん焚き木落ちてんじゃん! 守洲! 焚き火しようぜ、焚き火!」
「うがががっ! ここまでやったんです! あなたのキャリアおしまいじゃねぇ?! もう!」
 次の瞬間、小出警視総監は守洲と呼んだ運転手の鼻をつまむと、バキボキとへし折りながら、捻りあげた!
「イイデェーーーーッ!」
「ほら、拾えよ。焚き木。何度も言わすなよ。次は尻尾喰らわすぞ」
 小出警視総監と守洲運転手は焚き木と称してブンシュメンを拾い上げた。当然生き残ったブンシュメンからしたらこんなに美味しいスクープはなかった。
 連続してシャッターが切られ、その様子は一部始終が記録される。
「……警視総監! 小出警視総監! 容疑者Mどころか、たった今聞いた感じ、そんなんどうでも良くなるくらいあなたの方がヤバいことしたと思われますが! そこんとこ詳しくお聞かせください!」
 小出警視総監は倒れたブンシュメンの焚き木を拾い集めながら、哀しそうに言った。
「……焚き火がしたかったんです」
「……すればよくない?」
「……焚き木がなかったんです」
「……集めればよくない? 公園とかでも落ちてるでしょ……」
「あ、あった! デカいのがまだ残ってた!」
 嬉々として言いながら、小出警視総監はインタビューをかましていたブンシュメンを殴りつけ、昏倒させると、フィルムを奪いつつ、それらブンシュメンたちで焚き火を始めるのだった。
「あれ、おかしいなー。おい、守洲! このチャッカマンおかしい。火の付きが悪いよ、これ!」 
「はぁ……」
「あ、いいの、見つけた! 見て、ほら、そこ歩いてた焚き木! ズラだった。こういう焚き木はさー、頭にワセリンとかつけてっから、それが油になってよく燃えるんだよー」
「…………」
「よく燃えるんだよー」
「はぁ……」
 守洲はしぶしぶ言葉を返した。そうしなければまた鼻を折られるか、前歯を抜かれるか、わかったものではない。
 そんなところで、護送車からマギが降りてきた。





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