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白雛

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第七十六回『王たちの戦いを見てた者』

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「眠い……疲れた……ってときにさ、ぼーっと。『私はなんでこんな苦しい思いをしてまで起き続けているんだろう? もういっそ寝ろよって自分でも思うんだけど、いやいや自分ここからっすから!』って無意味にガッツあげて頭の中で会話が始まり、哲学に陥ることない?」
「ない。どうしたんですか、酷い顔ですよ、パイセン」
 スタジオ入りするミカの目の下には我愛羅のような黒いクマができているのだった。
「うん。昨日ちょっと子供の頃から面倒見てもらってた唯一の恩人だと心の拠り所にしてた人の奇襲を受けて殺してしまい……」
「長いし、だから我愛羅だ。それは」
「保志さんと石田さんのコンビ良くね。あれに勝る声優コンビある?」
「ないけど、今は関係ないよね」
「エターニア、ナルト、SEED。あれ、銀魂はなんか絡みあったっけ」
「ないけど、今は関係ないよね」
「久しぶりに保志さん……ていうかキラの声聴いたな。いやーいいっすなぁ。私、あのモンストコラボのCMのさ、JKいんじゃん。結構好きだわ。そんな可愛くないのが良い。あのどすこーい! って感じがとても良い。その後のお父さんはどうでもいい」
「その話のがどうでもいいし、今は関係ねーよね」
「きんモザがさ、刺さるんだよな。最近になってさ。ぴょんぴょんより、きんモザのが好きだな。なんか要所要所でしっかり笑わせてくるじゃん。コメディです、って顔をしっかり保ってるのが個人的には……」
 マギは八門遁甲を第六『景門』まで開くと、ミカに殴りかかった。
「昨日の夜何してたかって答えるのに、テメェは! 何行かかってんだよっ!」
「うぅ……あぁぁ……」
 しかし、その背後のあのちゃんが目に入る。
 前髪を上げればこそおもひでぽろぽろのあの女の子のような可愛げがそこはかとなく芽生えもし得るものの、前髪を下げた今のあのちゃんは呪いのあの子そのものだった。
 マギはとっさに拳を収めた。
 思えば私はいつもそうだ。パイセンのアホに振り回されては精神が限界を感じるたび暴力で解決してしまう……マギはかぶりを振るった……いかんいかん。この番組はコメディなのだ。ミカとかいうクソメンヘラを嬲るばかりのド変態番組……もとい、ミカとかいうクソメンヘラを公開処刑する場では決してない!
 そんなだから、タマにも出し抜かれそうになるのだ。
 気を引き締めろ、マギ。私は十分に優しい。
 マギは瞳を閉じて深呼吸。チャクラを鎮めると、肌の色も元通り。目の前のピーナッツを摘んだ。
「……今回はあのちゃんに免じて見過ごしますけど、で? なんか体調とか悪いんですか?」
 ミカは肩を触りながら、首をパキパキ鳴らして言った。
「うーん。なんか最近ずっと肩が重くて」
「あのちゃん背負ってるからでしょ。家にいるときもそんなんなんですか?」
「うん。基本私の背後に立ってる」
「背中って言え。まービデオテープから出てきた子を預かるのって大変でしょうけど、身から出た錆っていうか……そもそもパイセン、なんでやたらあのちゃんの世話焼きたがるんです? 何ならビデオテープの中に返そうとかないんですか?」
「なんてひどいことを言うの。それでも天使?」
「あービデオテープ界だとそういう認識なのかもしれませんが、呪いって観点からするとわりかしベタな展開では? キーポイントとなったアイテムに帰すのって」
「私ってほら元天上人じゃない?」
「天使って意味でな。天界に住んでたって意味でな」
「でもそっから何やかんやあって、井戸の底に落とされた苦労も人類への絶えぬ憎悪の火もわかるからさ。なんか、ほっとけないんだよね」
「なんでその気持ちをほんの少し、パイセンが憎む地上の人間たちに分けてやれないんですかね。それゴンの前で言ったらガチギレされるやつですよ」
「あとダンブルドアもその辺厳しいよね。スネイプに厳しかった。リリーを助けてくれって泣いて縋ったのに」
「あー。まー同じ気持ちですよ。ほんと。このままじゃパイセン、よくある哀しい過去を持ったラスボスになりそうなんですもん」
「それねー蜘蛛はともかく、逆では? って想うんだよねー私」
「?」
「またちょっとシリアス回になっちゃいそうだけどさー」
 ミカはあのちゃんに構いながら続けた。
「そもそも地上の人間たちが彼らにその気持ちを分けなかったから、こうなったんだよ。だから、彼らも地上の人間なんかどうでもいいやと考えるようになった。因果が逆。バランとか宗次郎とか哀しい過去を持ったボスってそんな感じだけど、だから、あー私っていつまでもナルトが好きなのかもしんないな」
「ほう……」
「ナルトって、もしかしたら、初めて敵に共感を示すことで制した主人公じゃない? それを定番化させたってか。マンキンもそうだなー。葉は戦闘に関しては大して強くないんだよ。ハオが強すぎるってか。でも、それに対して懐の広さで勝負したっていうか。あの頃のジャンプのヒーローって、ルフィもそうだけど、力以上に人柄で勝負して、心の力で相手を上回ってた気がする。そうやって作家同士で、まさに海賊王の座を争ってたんだろうね。みんな目指したのはキングだ。で、王って器大きくなきゃできないし、海賊ってジャンプのマークでもあるし」
「それは……ネタバレ的なのはやめろ。すると、ゴンは異質ですね。キルアとか。HUNTER×HUNTERはわりと手段を選ばないタイプのような……」
「ゴンもゴンでキルア救ってるけど、まー冨樫は一回り時代が違うのかもしんないよ。ドラゴンボール世代でしょ、あの人は一人だけ。とにかく、私はあの頃のヒーローの背中見て育ったから、井戸の底に落ちてる子見つけると、わかるってばよってなっちゃうんだよ」
「そんな子、まずいねぇし、それ、前にパイセンがあーだこーだと難癖つけた共感そのものじゃないですか」
「あ、そうだね。まぁいいじゃん。細かいことは気にすんなよ。良い共感と悪い共感があるんだよ」
「はぁ……あーいえばこーいう、だな」
 区切りのいいところで、久々にカットが入った。





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