やる気ない天使ちゃんニュース

白雛

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メン限的な見たい人だけギャグなし話

特別第十二回『笑えない話』

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「…………」
 ミカはその夜、牛乳で午後のミルクティーを薄めたいつものドリンクをちびちび飲んでいた。
 その視線は悪魔よりも悪魔らしく、およそ天使のそれには見えないほどに鋭く、研ぎ澄まされ、細められ、どことも知れない宙を見つめている。
 そんなミカの様子を伺って、マギが声をかけた。
「パイセン……パイセン」
「ん」
「目がカタギじゃない。ゼンジだかサンジだかわかんないヤクザを見るときのクラピカみたいになってる」
「うん。笑えないからね。この二日くらい、笑えない」 
(嘘つけ……マギ。こいつ、ここ何日か笑ってないんだ。この二日どころじゃない……)
「ポル子……余計なこと言うな」
 ミカは家に棲みついたポルターガイストの霊魂に言うが、マギを見て、諦めるようにやや表情を緩めた。
「そりゃ生きてりゃそんな時もあるでしょ。上手くいかないとき、感情から何から、クソ腹の虫の居所が収まらないとき」
「居所が悪い、か、怒りが収まらない、どっちかですよ。合わせ技は今んとこないです」
「じゃ、私が作る。言葉は私のもんだ。私が辞書だ」
「……あんまり突っ込んだことは言わない方がいいですよ。ただでさえ、最近ギャグ回ないし」
「笑えないからね。クソなことが多すぎて」
「…………」
 諦めたのはマギのほうだった。その意思を反映させたため息を、言葉の代わりに一つだけついた。
 ミカは言った。
「ごめんっつって死ぬなよ。な? マギもそう思わねえ? コイツとコイツとコイツ! 私を苦しめたのはコイツらだ! ぜってえ許さねえって、せめて死ぬならそんくらい敵意剥き出しにして死ねよ。ごめんなんて曖昧にして死ぬから、真実、悪にも一矢報いれねえで終わるんだよ。違う?」
「そうかもしれないけど、そうできる胆力があれば、そもそも死なないでパイセンみたいに足掻くでしょ」
「私だってジリ貧だけどふんばってる。私はね、正直あの最後のポスト見たとき、なんか……なんか居た堪れなくなった。もしかしたらの未来を見てるみたいだと思った。こうなるんだって。冷静な自分と、私だったらって反目する自分と、なんか怒りとか哀しみとかそうじゃなくて、率直になんでやねんって思った。ごめんって謝りながら、けど現実は今、その行為のために複雑なことになってる。分かってるんだ。私も何度となく考えたことあるから。精神学とかじゃ、その行為はメッセージなんだ。その人が言えないけど、ぶつけたいメッセージ。だから、ごめんって言葉とは反目するようで——いや、もしかしたら、そのごめんは家族とか友人とかそういう人に向けてのものだったのかもしれない。自分もそうするかも。コイツとコイツとコイツ! 絶対に許さねえの後に、家族や友人に対しては、ごめんって思うから」
「遺書があったって話だから、そっちにはきちんとメッセージ届いてると思いますよ」
「そうだとしてもね。これは考えた人にしかわかんねえよ。そうなった後のことを想像するのは」
「第三者も第三者ですからね。言っても仕方がない」
「うん。でも言いたい。こんな私だってギリギリのところで笑えない状況の中必死こいてネタひねって足掻いてんのに、なんで好きなことで飯食えてるやつがそんな簡単に死ねんだよ。……簡単じゃなかったと思うけど。死ぬようなことじゃないだろ。って正直ちょっとムカつきもあった」
「うん。まぁいい歳でしたし。その違いもあるのでは? 私らはまだ登っていく段階だから、そういう風にも言えるかもだけど、ある程度成果を収めてしまった後だと、また違う心境になるのかもしれない」
「尚更。もし飯が食えてるとなったら、私の話聞いてふんばる人のために死ねねーよ。やりきれねー」
「プロになったらまた視点も変わるんですよ。それはそれで今後ご飯が食べれなくなったら? とか。それに、抗戦し続けての結果と見ることもできますから。人が死ぬくらいのことがなければ、この人たちや業界は何も変わらないだろうし、そこに絶望してしまったのかもしれない。そう言うと、パイセンなら少しはわかるんじゃないですか?」
「…………」
「しかし、全ては、かもしれない、です。論じても仕方がない。今は冥福を祈りましょう」
「冥土の幸福を祈ったって、現世で幸福になれなかったなら、しょうがないでしょうが」
「それでも、祈れ。せめて」
 マギも口調こそ変わらないものの強い語気だった。
 ミカは不服そうながらも、そこは折れる。
「せめて。……せめて、か」
 ミカはしばらく黙祷を捧げるようにしてから、改めて切り出した。
「ちょうど前回くらい、悪魔たちの回で優しさに触れたんで、もう少し追求してみようか」
「そうですね。優しさってなんですかね。巷では優しい人は損をするみたいな風潮ですけど」
「それな。私は本当に気に食わないし、クソ喰らえでさ。よく言うじゃん。ネットはクソになったって」
「言葉遣いが悪いですが、ご了承ください」
「どっちかっつーと、未熟な人間にネットを持たせるとこうなる、だと思うのよね」
「うーん。老害予備軍とか言われそう」
「それがもう若気の至りではあると思う。合う、合わない論でも似たようなこと述べたと思うけど、自分たちに反目するものは全て悪かって言ったら、そんなわけがないわけで。それを受け止められるのが、一つの大人の基準かなって」
「なるほど。それは一理ありそうですね」
「うん。またウメハラさんの受け売りで恐縮なんだけど、格ゲーマーは戦術を隠さない」
「うんうん」
「これがなんでか? って言うと、それだと海外勢に負けるから。例えば自分だけ有効な手段を見つけて、独占したとしても、勝てるのは自分だけで、周りは得をしない。そればかりか、その手段が海外勢の人は熟知している戦法だったら? つまりハンターハンターでいうと、コムギのココリコが世界にすでに知れ渡っていたら、通用しないわけだ」
「はい。一見妙手に見えて弱点を衝かれると非情に脆い戦法であると」
「そう。そうした諸々を踏まえて、格ゲーマーたちは総合的に得をしないなと判断して、情報を共有するようになったんだって。で、これと似た話をリッちゃんから聞いたんだけど」
「はいはい」
「リラクゼーションの仕事の時にね、先生に仲良くしろって言われたり、和気藹々なクラスが求められたんだと。その先生の時代には、やっぱり互いに競争心が激しくて、あんまり仲良くしなかったらしいの。終始ギスギスして、落とし合いというか。受かるのは自分だ! みたいな」
「はいはい。テストに合格できるのが限られた人数となると、そういう傾向にもなりますよね」
「そう。だけど、そん時のテストの合格率が非常に低くて。仲良くし始めて、情報を共有してからは合格率が上がったんだと」
「ほうほう。なるほど。まさに情けは人の為ならずってことですね」
「その通り。誰かを助けたり、支えたり、下手くそな奴とかに甘んじて付き合ってやったり、そういうのって一見損に見えて、総合的に後から見返してみると得になってることが多い」
「うん。ちなみにこの『情けは人の為ならず』にしても、ガチで誤訳のほうで解釈する子が多いみたいです。つまり、情けをかけること、他人を助けたりすることはその人のためにならない、みたいな。全然違いますよ。情けをかけること、他人を助けたりすると、巡り巡って自分に返ってくるから、あなたの為ではなく、それは人の為、すなわち偽善行為ではない、という意味です」
「いつの世にも誤訳してる人は一定数いたと思うから、多寡は正直わかんないとこだけどね。とにかく、だから、他人にかける情とか優しさを無碍に扱う人って、シンプルに未熟者なんだと思うし、私はそう思ってる。それが実年齢いくつであれ」
 ミカは続けて言う。
「承太郎だってさ、優しい人だからこそ徐倫を見捨ててプッチに攻撃できなかったんじゃん。あんな強い人でも優しさの前には負ける。でも、この気持ちを理解できないとか言い出したら、その時こそ人間終わりだと思うわ。例えそいつが損しないで億万長者になったとしても、それこそ、誰がそいつのこと好きなの? って話だと思うんだよね」
「それはそうでしょうね。でも現実を見てみると、例えばAED問題にもあるように、なかなか親切にするのも難しいのが現状じゃないですか? 親切に行動した結果、訴えられたりしたら、たまったもんじゃないし、そうなるとやっぱり優しさって損って言える実例はあるように思われますよ」
「うん。その通りで、だからフェミがネットで発言するようになって、未熟になったというわけ。人の親切を何とも思わないどころか、それで攻撃するような性格性なんだから。あんなのは発言を認めてはならない人たちなんだよ、そもそも」
「認めてはならないというと、ちょっと過激な気がしますけど。あと女性蔑視にも取れてしまう……」
「事実としてさ、昔のパソコン通信とかは知らんけどスマホ以前の時代ってさ、パソコンとかネット自体がまだアングラというか、それこそオタクが暗がりでぱたぱたキーボード叩いてるみたいな極度に歪曲された差別的イメージがあったじゃん」
「それは……たしかに」
「実際に無線繋げるのとか、詳しい人でもすんごい大変だったって聞くし。あとはオンゲーのマナーもそれゆえにきちんとされていた。それがスマホが出てきて、容易にネットに繋げられる世代になって、どうなったか? を鑑みれば正直一目瞭然じゃない?」
「女性蔑視ではなく、あくまで情報弱者にそうしたインフラを与えると……と言い換えましょう。だって、パイセン? パイセンが好きな森博嗣先生のS&Mシリーズでパソコン通信出てきますけど、西之園や真賀田博士は? それに犀川先生はなんて仰ってました?」
「うん。そもそもあくまで性別蔑視はしてないよ。過剰に受け取ると、そう言う意味にも取れるかもしれないから、注意喚起的な意味合いで付け加えてるだけ」
「そうですよね。でも、いちいち断っとかないと怖い人に絡まれそうですしね」
「うん……。で、私はめちゃくちゃ覚えてるのがね」
「はい」
「モンハン4だ」
「あー。それまでPSPだったのが、3DSでの最新作となったアレですね。荒れましたよね」
「そうなんだ。荒れに荒れたんだけど、事実としてハチミツくださいキッズたちやモンハンのオンが荒れたのはほぼ間違いなく4からだと思う」
「なるほど」
「そもそもそれまではどうしてたかっていうと、PSP単体だとネットでのオンって出来なかったんじゃなかったっけな? 持ち寄ってのプレイならできるんだけど」
「うんうん」
「そこで、アドホックパーティってソフトを使って、ネットに接続して、やっとネットでオンラインプレイができる。みたいな流れだったんだよ」
「はい」
「要は一手間かかったわけ。実際3rdで、今で言うキャリーや乞食みたいな奴ってそうそう出くわさなかったと思うんだ。まぁ、度合いにもよるだろうけど」
「ふむ」
「でも4で公式がネタにし始めるくらい、実際にハチミツくださいキャンペーンみたいなのやるくらい、横行したのは事実としてあると思う。それがどういうことか? って考えたら、原因はもう一つしかないでしょ」
「ネット利用の低年齢化ってことですか?」
「うん。年齢には依らないかもしれないから、正確に突き詰めて言うと、情報弱者とかリテラシーやモラルの低い人は間違いなく増えたと思う。で、そうした人たちが増えまくって、風説の流布のままに間違った情報がよく出回るようになり、現在。という流れが、一般的な見方じゃないのかな」
「一応バランスとって言い返すと、昔のオンゲーでも事件起きたりしてますよ。例えばざっと調べたくらいでも月宮事件はめちゃくちゃ有名なのでは?」
「未熟な人は皆やるなって話じゃないの。未熟なら未熟でいい、これから熟達していけば。だけど、自分の未熟さを認められないで、反論にもならない反論のようなことを言って勝ち誇る人やそれを真似する人、反省ができない人もいるわけじゃん。問題はそういう人たちの扱い方だと思う」
「匿名性やめろって意見も多いですしね」
「うん。この意見が出始めた時の話もできるけど、飛ばそうかな。もう長いし。ホリエモンとひろゆきが番組で話してたやつ」
「確かに、まだまだ続きそうだしね。少し、休みましょう。気持ちからゆっくりできれば、また笑えるようになりますよ。ほら、新推しのASMRとか聴いて」
「そうだね。気楽に行こうかね。と言っても、って感じだけど、元気になってみせるよ。ヤクルト1000買ったし」
「あ、あれ、効き目あります?」
「まだわかんない。ASMRと併用して、リポートするかな……。今後、日本のインターネットはどうなっていってしまうんでしょうか。では次のニュース」
「なんですか、それ」
「一度やってみたくて」
「私らも一応キャスターなんですけどね……」
 ミカはカメラを切った。





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