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第五十七回『何もないところで転ぶ人の心理』

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「じゃ、とりあえず両者向かい合って、自己紹介して」
「はぁぁーーーーーっ!」
 ミカはさっそく全力の天使的レーザーをブッパなすのだった。これは格ゲーにおける236236+Pのようなコマンドに代表されるミカの、いわゆるゲージ使用技だ。
 しかし、遠距離からのブッパが刺さるわけもない。タマたち悪魔四人衆がガードで凌いでいると、リツはすかさず中村に言った。
「違う違う。とりあえず遠Mからの刹那やダッシュLで様子見てって言わないと。最近ナルメアさんにクッソハマってるから……と言いつつ、ヴィーラにも浮気してるから」
「あ、そっか。いきなり壁際のセットプレイみたいになっちゃうよね」
「ならねーよ! どんだけ特殊な会話のプリセットが必要なの、この人たち!」
 マギは呆れながら突っ込むのだった。
 一方、ミカは先日の出来事を思い出していた。
 正月早々のあの日のことであった。
 ミカはその日セブンの大好きなベリーヨーグルトを買い求めて、珍しくにっこにこで局ビルに帰るところだった。
「パイセン。あんまりはしゃぐと転びますよー」
「子供か、私ゃ。私ゃ、マギのお腹生まれ乳育ち、腐った奴らは皆友達の子供か、私ゃ」
「(そんなにヨーグルトが嬉しいんか……ま、果肉入っててブルーベリーもストロベリーも粒々してて確かに美味しいけど、あれ)」
 幸せだったのもそこまで。
 突如マギの視界からミカパイセンの姿が消えた、と共にバチンッと派手な音がした。
 見れば足元に死体のようにミカが大の字に寝転がっている。目を離して数秒足らずの出来事だったが、あまりのことにマギはもはや呆れるより正直頭の心配を本気でしてしまうのだった。
「……えぇ。言った側から、ここまで見事に転けるやついる……? 正直ちょっと引くわ……」
 マギは辺りを改めて観察しながら、受け身もとれず、四肢を放り出して這いつくばる哀れな畜生に手を差し伸べた。
「……見た感じ特に何もない、ただの平坦な道路だし……どうやったら転べるの? 次に出す足を軸足にでもひっかけたん?」
「……ううぅぅ」
 ミカは顔を真っ赤にしながらマギの手を取ると立ち上がった。すでに涙目なのに加えて、ちろっと鼻血が垂れ出している。
「あぁ、ほら、パイセン。ティッシュティッシュ」
「……奇しくもそれは四時過ぎのことであった」
「やめろ。そんな不謹慎なモノローグ入れるとバチが……あ、だから、あたったのか? ほら、神は見てるんですよ、私ら天使のことも」
 ミカは鼻血を拭きながら、マギに並んで歩きながら言う。
「えぇー、マギもない? 歩いてて、別に何にもない道でつまずくの。つま先が引っかかるんだよ、なにかに」
「何にだよ」
「それがわかったら、苦労はいらないよ」
「そんな苦労、普通は要らないんですよ……」
「あぁーあ、なんか良いことないかなー。新年早々こんなんばっかだよ、私ゃ。あーあぁーーっ! アルマゲドン起こしちゃおっかなーーーっ! 私、天使だし!」
「ヨーグルト買ったじゃないですか」
「あ、そうだ。ヨ……」
 言おうとして、ミカは一抹の不安を抱いた。
 倒れるとともに勢いよく叩きつけてしまったセブンのポリ袋である。その中が無事である保証は一切ない……。
 マギも気付いていた。そして話を振ってしまったことを即座に後悔しつつ、ミカとそろって袋の中を覗き込んだ。
 しかしそこは小物の品質にかけて安心と信頼の物づくり大国日本の製品。コンビニで買える程度のドリンク一本においても手抜かりはなく、軽くて丈夫! ちょっとやそっとじゃ破れず、ひしゃげても中身が溢れない仕様になっているのだった!
「すごい! 見て、べこべこだけど、きちんと耐えてる! 漏れない安心ムーニー奴ー!」
「ここまでボロボロになりながらも中身は保ってるのすげぇ! べこべこだけど!」
 気付けば鼻血のことも転けたことも忘れて、すげぇすげぇとセブンの頑丈な容器を讃えるうち、局ビルに着き、控え室でべこべこのヨーグルトをついばむ二人であった。
「何の回想っ!?」
「この間あったこと」
「あったことだけど、ここで挟む必要ある?」
「ないよ。ないけど、回想なんてそんなもんだろ」
 ミカは言った。
「なんか間も空いちゃったしさ、一度あらすじとか入れて仕切り直そっかって話になって」
「誰とだ」
「第二シーズンだしさ。最新話でくらい紹介文通りのことをやっとかないと不審にも思われるじゃん。冒頭からグダグダキレちらかすのもどうかと思って、次からはちゃんとキレるからさ! めんごっ!」
「新キャラほったらかしてやることか! つづく!」
 一度中村がカットを入れた。





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