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第五十一回『来れ! 漫画描き界隈の鼻つまみ者!』
しおりを挟む「え、今、配信型のアニメってメジャーなの? すでに……?」
「メジャー……かどうかはさておき、パイセンが考えられるくらいのことですからねぇ」
「いや違うよ」
「何がだ」
「その人の想像した配信型アニメと私の考える配信型アニメはきっと決定的に違う。私が最初に思い浮かべたのはらっきー⭐︎ちゃんねるー! だから! むしろ日常が余話。中高生のサクセスストーリーとかいらんねん」
「gdgd妖精ですらねぇ」
てーてー! てれれてって、てっ↘︎、ってーーっ!↗︎
「おーはらっきー」
「ふんがー」
「まともに始めなさいよ(ガチギレ)」
「えっ……あ、す、すみません。ボケるとこかと……」
「オマパロ第一条。原作愛を君、忘れたもうことなかれ。私たちはファンに生かされていると同時に数々の原作、そしてオリジナル神にもまた生かされている存在であることを忘れてはならない。常之営業。神々が見てこそ笑ってもらえるものたれ」
「はい(一条なげぇ……何個もある)……すみませんでした」
「この場合、古神あきら様に対する敬意と尊敬と畏敬の念を忘れずに、あの空気を再現することが肝要なのよ」
「敬いすぎだろ……あと言い方がハルヒっぽい。そんで何より言ってる傍から名前間違えてるやつに言われたくねーんだよ! 小神だから。小・神あきら!」
「平野綾さん結婚したねぇ……おめでとうございますー」
「ああ、それは本当にめでたいことですよね。今度は一気にこなたっぽくなったけど」
(わ・わ・わ・わすれもの~)
その日はミカの部屋でお泊まりだった。すなわち部屋にはビッチの地縛霊もいるのだ。
ミカには単なるベッドのギシみに聞こえるようだった。
「ん? ポルターガイストかな?」
「え、何のことですか、パイセン。何も聞こえませんでしたけど」
(あとあれな。武本監督を始め、数々のアニメーターの皆様に追悼の意を込めんの忘れんな)
「(ビッチの亡者に追悼される諸氏の困惑たるや……でもそれは本当、最近やっと旧京アニ作品また見れるようになってきました。聲の形もリズも本当に素晴らしかったし、先日Xでめちゃくちゃ話題になってましたよ! きっと忘れられることのない名作として残り続けると思います。繊細な描写の数々を勝手に受け継いだつもりで、私たちもそんな心の機微の瞬間を切り取るような結晶を残せるように頑張ります。ありがとう)」
マギはビッチの地縛霊にはすくみあがってガン無視を決めつつ、ちょっと滲んできたものを隠れて拭った。
ミカが言った。
「とにかく、そう、私たちが一回の頃から見てた形はあれだから。今、氾濫してるとされる配信型っつーのは、何の変哲もないドジでクソでカスなどうしようもない穴モテカスビッチの私が……」
「なろう憎しとはいえ、言いすぎだろ……カス二回言ってるし……」
「とんでもない配信に関わって、カスみたいな才能を見出され、キュピピーンっ! きゃわわ! えー、私、どうなっちゃうのー? って、んなこと起こるわきゃねーだろ? 三歳児だって『僕にはママの乳首がありますから』って、小沢の誘い断るレベルの茶番みたいなやつでしょ?」
「お前、小学館から出禁喰らうぞ。あとどういうことだよ、もう例えが」
「紋切り型に流行りの言葉を埋め込むだけで、自分視点の爪痕がねえっつってんの。私らなんか一回からすでにプロ。で、毎回らっきー⭐︎ちゃんねるとかgdgd妖精みたいな感じで、ゆるく、ショートコメディやってこうって話だから。ただ平和的ってよりは、世情に合わせて討論風な感じ。つってもコメディの枠は越えないよ? ガチの太田光とか平日昼間のまとめのコメ欄くらいにやっちゃうと視聴者怖くなっちゃうでしょ? そうじゃなくて、あくまでプロレス。最終的に私をバカにしてればいいから。ミカはやっぱバカだなーってオチで、それを毎回二、三分、長くて五分くらいのショートアニメにして動画サイト流せば、食いつくオタクもいんだろっつー寸法なのよ」
「だから早いとこパトロンを見つけないといけませんよね。それなのにパイセンが毎度好戦的なことばかり言ったり、下ネタ入れたりするから。第一この内容だったらYouTubeは即バンされますよ」
「え、く◯にちはが許されてるのに?」
「おい、さっそく」
「今のは悪い例で挙げたの。新年早々似たようなネタやったけどさー、ちょっとあれも考えたんだよねー本当は。結局アクセル踏んだけど、それ思い出してさ、でも、代わりになるものもなくて。あのネタ不快になってたら、申し訳なかったわ」
「まぁ、今後は気をつけて行きましょう。確かに生理的嫌悪ってありますよ、Cワードには」
「そうなんだよね。チンコとかはまだネタで笑える気がするけど、やっぱ……なんだろうね苦笑。私的には、豆とか暗喩ならまだいけるんだけど……」
「で、神だけの感覚でもないですからね。そこは。神が豆いけても視聴者は豆からして無理かもしれない」
「そう。そういう視点も得てきた。私は爆笑しながらやれても、見てる人は前述の挨拶見た時の私みたいにうっわってなってるかもだしね。私が目指したいのはそうじゃないんだよ」
「学んでいこ。自分自身からも」
「でも豆は今後も使うかもしれない! でね、それはそれとして、良いと思うんだよな」
「配信型アニメですか?」
「うん。箸休め的な感じ。何ならショート動画くらいでも、たとえば動画のCMに使ってもらうにしても、私たちなら会話劇の延長で、コントでつなげるみたいな。その場合、配信元のVさんとも連携してさ、『推しの配信中すみません! ショートコント! ビッチの生涯!』みたいな感じで割って入ってって」
「あー、それは悪くないかも。本当に。コントのタイトルはくっそアレだけど」
「え、動画見ててさ。急に出てきた天使が『ショートコントー! ビッチの生涯!』ってなったら、気にならん? スキップ押すのためらうっしょ、流石に。だって、ビッチの生涯だよ?」
「ファミ通みたいに言うな。親御さん、発狂しながらキッチンから飛んできて、スキップ連打するわ。そんなん聞こえてきたら」
「触ってる時は大人しいからってスマホ漬けにされた子供と、親の距離を縮める手伝いにもなる!」
「それは……いやいや、飛ばされて、広告にクレーム入って終いだろ……」
「なんかショートだったら、配信者に合わせて話題変えてもいけるし。そもそもCM挟まるのって、こうネガティブなイメージじゃん。ピネガキみたいにあーまた三十秒だぁ! しかも二本だぁ! ってなるじゃん。それもエンタメにしちゃうの、私たちが。私たちが笑わせてつなぐ。何ならCMのために見てます。みたいなコメをもらいたい」
「お。いや、これは普通に……てか、ミカパイセン」
「ん?」
「結構、あの、考えてるんですね……いろいろ」
「そりゃそうよ。面白い。で、相互関係を結んで大手Vと組み……はぁはぁ……私はビッチとしての本懐を遂げるのです!」
(遂げるのです!)ビッチの地縛霊が答えた。
「この国の平和ボケにツッコミを」
(入れるのです!)
「お前、本当は聞こえてんだろ」
「え、なにが?」
「第一、局の水子も聞こえてたしな、パイセン……この人の性格から考えて、ビッチの地縛霊が宿ったもこもこのパーカーなんて面白そうだからって取っとくに決まってんだ……」
「さてと、明日も早いし、そろそろ寝ようぜ」
「切り替え下手くそ!」
「大体今のまま何の手も打たずにいたら早晩、崩れるぞ。V特需。ホストと頂き女子の合わせ技で、ネット上じゃ同一視見解が氾濫してきたし、このあこぎな商売にメスが入れられるのももう時間の問題だろ。スパチャ規制、メンシ規制、その他諸々。オンラインサロンなんかもどうかわからんよ。最近はこういうのもネタにしていいってゴミの奴らも気付いちゃったからな。奴らからしたら、大手のひっくり返し特需……」
「でもパイセン、残念ながら握手会券付きCDで搾取だなんだのとニュースにもなった、◯◯数字アイドル産業は未だ健在ですよ? やっぱ世の中腐ってるから、なかなか自浄ってのは機能しないし、悪行のが栄えるようになってるのでは? 悪行が栄えることは、富裕層にはむしろ有難いことなので、政治家なんかも、それこそBBCでまたすっぱ抜かれでもしない限り見向きもしなさそうじゃないですか?」
「…………」
「世間ってのはどうしたって女に甘く、男には冷たいもんで、この手の問題ってのは女が悲鳴をあげて初めて浮上するんです。被害者が男じゃそれこそ役不足なんですよ。で、Vの大手ったらホロかにじさんじですよね。にじさんじなら女子リスナーも相当数いますが、そこら辺について神はぶっちゃけよく知らない。情報不足の仮定につぐ仮定はもはや願望に等しく、何なら味方につけたいはずの女子リスナーの反感買おうもんなら一巻の終わりですよ、私ら」
「…………」
ミカはマギの顔を見た。
ぐうの音も出ないマギの指摘。
「ジャニーズは被害者、男だったけど……」
「当事者は男ですが、メイン顧客は女性でした。タレント被害に加え、人権派の声も大きく、かつ女性顧客の合わせ技で、やっとでした。あと権力者が他界されてたことも」
「櫻井孝……」
「も女性ですよね」
「…………」
哀れなり、世の男たち……貴様らの悲鳴は世を動かすに能わず……あと今の流れでスザクは関係なくない? ミカは言い返しの起点を求めるあまりに選出を間違えて、流れ弾を喰らわせてしまったことにちょっと申し訳なく思うのだった。ミカは、やったことはともあれ、クラウドもおそ松の演技も好きです。
「マギ……」
ミカはマギの目を見つめた。
「……ちゅーする?」
「しねえよ。言い返せないからって、したこともないちゅーでごまかそうとすんな」
「だって、それ言ったら話終わっちゃうじゃん。私もうなにも言い返せない。沈黙。それが正解なんだ」
「素直に負けを認めたら認めたで、ムカつくこと言うんだよなぁ」
「私だって別にV産業が潰れたらいいっていうんじゃないよ。でも近々そうなる可能性は非常に高いと思う」
「根拠あります?」
「アヤがついた。(ヤ)ゴルゴの今年度の指針。今の根本的問題が解決できてない上での、あの発言は危うい」
ミカは幼い頃の倉田厚のように言うのだった。
マギは目を見張った。
「だから、天下り先もあったらいいだろうってことで、私らが配信型アニメやってれば、真似して入ってこれるでしょ?」
「……あくまで規制のメスが入ったら、の仮定ですけど」
「あーあと漫画展開もね! きららとかでゆるい四コマやりたいけど、話できないって人! 私らがネタやるので、組みませんか! どしどし来れ、協力者!」
「……きららって最近ほら、少女漫画界隈に嫌気がさした女流漫画家が好きなことやれるってんで入ってきたわけでしょ。こんなドクソ下ネタ、ブラックジョーク連発のやつやるかなー……」
「配信型! アイディアだけパクってったら、ウチのビッチの地縛霊が呪います」
(フレに召集かけて家に押しかけてやるー! ザオラル、ザオラル、ザオラル……)
「ロリコンはむしろ歓迎しそうなヤツやめろ。あとパイセン、やっぱ地縛霊見えてんじゃねーか!」
ミカはカメラのスイッチを切った。
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