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第四十一回『だって前を向いてほしいから』
しおりを挟むミカはスペシャルの浜ちゃんらしく声を張り上げた。
「年末スペシャル特番! 朝まで徹底討論回ぃぃーーーーっ! 『人生には? 勝ち組と負け組の、二つしかありませんっ! ……本当にそうだろうか?』」
修学旅行のバスに乗った中学三年生の皆が叩き起こされて、ヘリのライトに照らし出され、連れ込まれたのは、とあるテントの中。
そこは鉄の檻だった。
なんだ、これは?
俺たちは修学旅行のバスに乗っていたはずなのに。
そして担任の竹内力が出てきて、状況説明。
のちに告げた。
『(前略)そんなに戦争がしたければ、どぉぉーーーぞっ、子供同士でやってくださいっ! ビィィアァァールッ、ツゥゥッ! 今日はちょっとみんなに、戦争をしてもらいます』
なんだって。
俺たちの知っている竹内力といったら、テルマエロマエに出てくるコワモテだけどなんだか面白いイケおじの一人で、温泉旅館のキャストに過ぎない。
しかし、そこにいる竹内力は違った。
俺たちの首には輪っかがつけられている。
爆弾が内蔵されていて、それが誰かは知る由もないものの、それぞれにパートナーがあり、そのパートナーと離れるか死ぬかすると爆弾が作動。ランダムに設定された数秒後に……爆発する。つまり、俺たちは互いに誰かもわからないパートナーを護り合いながら、この戦いを切り抜けなければならない。
前回のプログラムで、この爆発するまでのラグの間に爆弾を解除して脱走した七原秋也こと、デスゲームといえばあの男、デスゲームオブデスゲームズにして、人生の半分以上をデスゲームに参加してきたと計算される藤原竜也のせいだ……。
ちなみにその時の担任は誰あろう、北野武。生徒の一人の太ももにナイフを突き立て、小気味よくニヤける悪魔のような顔と、一方一人の女子生徒の前でだけ見せる寂しげな顔の演じ分けが絶妙で、最後の最後まで目を離せなくさせてくれた。さらに言うと、深作欣二監督に対し『おれ、演技なんてできないよ?』と断ったところ、監督は『そのままでいい』と答えたエピソードがあることも興味深い。
そして、ゲームのナビゲーターとして、アスカの中の人が出演している……見ているときには、怖くてそれどころではないだろうが。
大分脱線してしまったが、俺たちの目的は、戦艦島に潜伏する今回はテロリストの親玉役に扮する藤原竜也を抹殺すること。
生きろ。走れ。
俺たちの最後の修学旅行が始まった。
ぱたぱたぱたぱた。
簡素なゴムボートでの上陸作戦は熾烈を極め、作戦開始直後、敵の狙撃手にすでに撃ち抜かれてしまったクラスメイトの手振りで頭を何度も叩かれ、『やめろよ』と払うと同時に死んでいたことに気付く無慈悲なシーンとか、銃撃に晒され、かろうじて助かったかと思いきや、倒れた男の子を見た女生徒の『なんか出ちゃってるよぉっ!』っていう絶望的な悲鳴が忘れられない。
でもきっと、始まったら、私たちもこんな感じなんだろうな。
中学三年生がクラスメイト同士で殺し合う。
もしくはテロリスト撲滅のための作戦に駆り出される。
そのショッキングな内容で公開当時は話題になりつつも、その時私は下の毛はおろか赤飯も食べていないお年頃。
怖いもの見たさでDVDを買ってきたノリのいい従姉妹と一緒に心臓をばくばくさせながら初めて見たとき、あまりの緊張感に『なんかって何ですか?』と正座しながら尋ねてしまった思い出が蘇る。
「なにに影響されたんですか、今度は」
「ビィィアァァールッ、ツゥゥッ!」
指を立てて世紀末少年風に凄むミカの頭をマギが叩いた。
「やかましいわっ」
タイトルアップ。
マギはよく見ればミカの尻元に隠すように開けたままになっていたDVDのパッケージを見つけて、拾い上げ、呆れるように唸った。
「あぁーっ! パイセン! ダメでしょー? またこんなの見てーっ! これ十五禁ですよ! ミカパイセン、まだ見た目は八歳児のままなんだから! BPO(放送倫理協会:ウザい人たち)に怒られるの私たちなんだからね。あとここ数日で騒ぎ立てられてるごにょごにょのあれで、あれが色々あれだし……」
「ご、ごめんなのだ……ご、ごごごご、ごめっ……ごめん……ごめんなのだ……ど、どうしても、竹内力兄貴くんの最後の良い顔がふとまた観たくなって……ぶ、ぶた……ぶたないでっ……」
「うっぜ、ハム太郎さん。とっとと喰われろよ」
「その発言のがBPO的にどうなんですかね」とリツ。
「ごっごごっごっごっ——チェキチェキ——ごごっ、ごめん——ごめんなの——なのなの——チェキチェキ——ごめんなのだっ!」
「DJ始めてるし、わかりづら! 漫画なら一発なんだろうけど、字面ではわかりづら!」
頬を手を添えた母性を極めたポーズをしてレイがあっけらかんと言った。
「卒業を控えた中学三年生が殺し合うなんて……まぁまぁ、そんなゲームがやってたなんて」
「まぁ、キツさはありつつも、グロは実際そこまででもないし(洋物で見慣れた今となっては)、話自体は1、2どっちもすごく良い話なんでね。未だに好きな人も多いんじゃないでしょうか。見始めたら止まらないタイプ。若かりし頃のあんな人こんな人も出てたりして、キャスト見てみるだけでも結構面白いかも。えーこの人、俳優だったのーっ?! それがどうしてっ?! って驚きもあるかもしれません。小説版も一ページで上下二段に分かれて、びっしり書かれた分厚い感じなので、冬休みの退屈な時間とかに触れてみたらどうでしょう? とは思いますね。私は初代のほうですが、千草の話でぼろぼろ泣きました。まさかデスゲームであんな泣くとは」
「あらあら、私も参加してみたかったわぁ」
「んー? キチの発言はおいといて、デスゲームの金字塔を打ち立てた。初代デスゲームにして、まさにデスゲームの王『バトル・ロワイアル1・2』の話はいいとして、これが議題ですか?」
「まぁ負けたことしかないんですけどね、ふっ……私という女は所詮……」
「ヨシヨシ。酒入れてもないのに急に始まるから怖いわー、メンヘラー。慣れてきたけどさー」
「ちなみに今さっき知った話なんですが、クモはキンタマを切り離して交尾するのもいるそうですよ」
「ちなんでねえよ」
「……本当にそうだろうか?」
「え」
解説天使は意気揚々として続けた。
「クモの世界では基本的にメスがガチでヤバい奴らで、隙あらば手当たり次第に何でも食べてしまい、オスも例外ではなく、また体躯の差がとんでもないそうです。メスはめっちゃデカくて凶暴。オスはちっちゃいけど健気に求愛のポーズやダンスを見せたりし、メスの機嫌を伺いつつ、殺されないように慎重に接近すると、すかさず腹にキンタマをぶちこみ、殺される前に速攻で交尾を済ませて脱出するんだそうです」
「さすがに草」
「ちっちゃいクモ見かけたら殺せなくなるじゃん」
「で、あまりにメスが危険すぎるってことで、キンタマを切り離すタイプのクモも誕生したようです。その場合接近しキンタマをぶちこむだけで、脱出できます。あとはメスの腹に残されたキンタマが勝手に交尾してくれるのですが、キンタマがその後再生することはありません」
「さすがに草」
「クモもキンタマは二発あるので、一発保険で残すみたいなこともできそうですが、もし二発とも失敗したり、使い切ってしまうと、その後より魅力的な相手が見つかっても、もう何も、どうすることもできません」
「クモ殺せなくなるじゃん……」
「ただ、キンタマを切り離した後のこのオスたちはキンタマの重みから解放されて元気はつらつ。スピードがめちゃくちゃあがり、何ならそれで凶暴化もするようですね。キンタマを失ったオスが、キンタマ持ちのオスに負けることはほぼあり得ないくらい強くなるみたいです」
「あぁ、やっぱほら……」
「うーん……」
「キンタマを失う代わりに、孕ませたメスに近づくオスを追っ払う力を得るわけですが、当然ミスったオスも中にはいるはずなので……」
「まさかのクモと良い酒が飲めそうな気がしてくる人間のオスもいてしまうわけか……ま、元々クモあんま殺さないけどね。Gやダニも食べてくれるし」
「あ、ほら。そういうわけですよ」
マギが言った。
「ん?」
「だから、失ったオスグモだって、それにより得るものもあるわけだし、なんかしら視点を変えると、人間の役には立ってたりするわけじゃないですか」
「まぁキンタマを失ったそのオスたちにできるのは、他のオスの邪魔だけだけど……」
「まぁそうだけ・ど! 安易な切り捨てごめんは、やっぱしない方がいいんですよ」
「まぁキンタマを失ったそのオスたちは凶暴化するわけだけど……」
「元々メスが凶暴だしね」とリツ。
「あれ、これやっぱ結局、勝ち……」
カットが入った。
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